借金まみれの貴族ですが魔物を使ってチート内政します!

クロン

文字の大きさ
19 / 31
都市アルダを復活せよ!

第19話 都市アルダに暗躍の影

しおりを挟む

「ううむ……やはり一気に人口が千人くらい増えないと、大手商会は都市アルダに来てくれないか」
「そうね、人のいないところに店は出さないね。それとこれ、グモブ公爵家から手紙が来てるね」
「グモブ公爵? 伝手も何もないはずだが……」

 屋敷の執務室で悩んでいると、オバンドーが公爵家からという手紙を渡してきた。

 公爵家といえばそうとう偉い貴族である。

 この世界の爵位は地球の中世ヨーロッパと同じだ。

 偉い順に左から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となる。

 公爵は王族の親戚でありこれより上は王族関係になってしまう。

 もちろん男爵程度の俺には公爵の知り合いなどいない。

 都市アルダが発展していた時は金持ちだったので、その関係で親父ならば面識があったかもしれないが。

「なんてかいてあるの?」

 サーニャが興味津々に手紙の便せんをのぞき込んでいる。

 俺もすごく気になるので便せんの中の手紙を開いて読むが……。

「えーっとなになに。都市アルダは速やかにライジュールを差し出すように。彼の者はすでにバルガスとの契約で、金を払って買い受けている。それを譲渡しないのは契約違反で……なるほど、偽造手紙か」

 俺は手紙をぐしゃぐしゃにしてそこらに投げ捨てた。

 仮にも王族の親戚の公爵が、こんな意味不明なことを言ってくるわけがない。

 バルガスに金を払ったから俺を差し出せ? 奇想天外過ぎる理屈で笑ってしまう。

「おおかた俺を誘拐して身代金でも……というバカな人間がいるんだろ。しかしあまりにもお粗末すぎて笑えるな」
「でもこの手紙、印が本物ね。私、グモブ公爵の印を何度も見てきたね」
「公爵の屋敷から便せんを盗んだんだろ。確かにこの国の王は評判が激烈に悪いしその親戚だが、いくらなんでもないだろ」

 笑い飛ばして都市アルダのことを考える。

 改善すべきことに夜の治安が悪いことがある。

 中世文明なので致し方ないのだが夜の間は外が真っ暗なのだ。

 このくらいの文明レベルならば夜は動かず寝るのが普通、なので真っ暗でもよいと言えばいいのだが……。

 現代地球文明に慣れ親しんでいた俺からすれば、なんとなくすごく嫌なのである。

 これでは夜盗とかがいくらでも闊歩できてしまう。街灯のようなものが欲しいところだ。



------------------------------------------------------



 とある屋敷の豪華な部屋で、高価そうな服を着た太った男が叫んでいた。

「何故ライジュールが引き渡されないでおじゃる! マロはバルガスに高い金を支払ったのじゃぞ!」
「ば、バルガス殿はアルダ男爵に敗北しました。なので約束も反故に……」
「何を言うか! 私は前払いで金を払ったのでおじゃるぞ! こうなれば都市アルダに攻め込むでおじゃる!」

 グモブ公爵は地団太を踏んで激怒する。

 それに対して執事は辟易した顔をしながら口を開いた。

「お待ちください。攻めるには大義名分が必要でございます。グモブ様の仰ることはもっともですが、バカな万民はそれを理解しません」
「ぐっ……何と愚かな民ども……! ではマロはライジュールを諦めろと言うのでおじゃるか!? あの女子《・・》を六年前に見て以来、マロはずっと欲しかったのでおじゃる!」

 唇を噛みながら悔しがるグモブ。

 執事はそんな彼に軽く笑いかけた。

「なれば大義名分を作ればよいのです。都市アルダは神獣ペガサスを保護していると言い張っております。では……もしそのペガサスに何かあれば、アルダからお救いせねばと攻める名分も立つでしょう。厩舎を燃やしてしまいましょう」
「なるほど! よいのうよいのう! はようせい!」
「承知いたしました。では暗部の者をつかいます」



------------------------------------


 都市アルダの正門前、夜の闇に紛れて二人の男が近くの茂みに隠れていた。

 グモブ公爵の放った暗部。そんな彼らは正門を護衛している犬を見て困惑している。

「正門の護衛……人間はともかくとして、なんだあれは?」
「わからぬ、三つ首の犬とは奇怪な……しかもこちらをずっと見ているんだが……まさか気づかれているのか?」
「そんなわけはあるまい。向こうは明かりで照らされているがこちらは完全に闇だぞ……だが、あれでは門には近づけぬな」
「なら裏口を使うか。俺は元々は都市アルダに雇われてたんでな、隠し通路も知ってるぜ」
「流石は相棒だ」

 相談して正門から過ぎ去っていく男たち。

 ケルベロスはそんな彼らをじっと見ているだけだった。正門から侵入しないなら関係ないと言わんばかりに。

「「わふぅ……」」
「ZZZZ……」
「どうした? なにかあったか?」

 門番が訝しがるがケルベロスはつまらなさそうにあくびをして、男たちのことを見送っていた。

 そうして男たちは隠し通路を使って、都市アルダの内部へと入ることに成功する。

 彼らはたいまつを手に持っているが、周囲に人影はなく発見されることはない。

 更に言うなら黒装束を着ているため、松明に照らされてなお彼らの姿は見づらい。

 松明の炎だけが浮いてるように見えて、下手をしなくても火の玉お化けと思われるだろう。

「ペガサスの厩舎はどこだ?」
「こっちだ、俺についてこい。はぐれるなよ?」
「明かりがあるんだから大丈夫だ」

 そうして更に走り続ける男たち。

 だがしばらくすると……。

「むおっ!?」

 そんな悲鳴と共に、前を走っていた男の松明の炎が地面に落ちて消えた。

「お、おい……いったいどうしたんだ!?」

 残る男は周囲を見渡すが、もうひとりの姿は見えない。

 徐々に焦り続ける男だが……しばらくすると炎が見えた。

「おお、いたか」

 そうしてその炎に向かって走っていく男だったが、むぎゅっと頭に柔らかいものにぶつかった。

「つっかまえたー♪ ちょうど男が欲しかったのよねー、ご主人の言葉を借りるなら飛んで火に入る夏の虫ってやつかしら?」
「!?」

 急に女の声がして男は必死にもがくが、頭が固定されたかのように動かない。

 彼の頭はサキュバスの胸に包まれて、抱き着かれてしまっていた。

 すると松明の炎が近くにやって来て、男はサキュバスの姿を認識できたのか。

「!? なんだあんた!? 相棒は!? 俺の相棒はどうした!?」
「ああ、あっちなら魔女の魔法で釜の中に転移されたわよ。きっと酷い目に合うけど仕方ないわね、この街の裏切り者だし」
「ば、ばかな!? じゃああの松明の炎は……」

 男は松明と思っていた炎を見て驚愕した。

 その炎は明らかに人の身長より高いところにある。つまり宙に浮いていた。

 更にこちらをあざ笑うかのようにフワフワと円を描いて空中を回転する。

「あれはウィル・オ・ウィスプ。鬼火、火の玉の魔物よ。あなた、あれに誘い込まれたのよ。私という底なし沼にね……♪ 人間風情が夜に来たらダメよぉ、闇でも見える魔物に勝てるわけないでしょ」

 男は骨抜きにされてしまい、企みを洗いざらい喋らされるのだった。

 もうひとりについては……いずれ語られることもあるだろう。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...