借金まみれの貴族ですが魔物を使ってチート内政します!

クロン

文字の大きさ
20 / 31
都市アルダを復活せよ!

第20話 交易船ならぬ交易亀

しおりを挟む

 都市アルダの人口が二百人を突破した。

 人手が増えたことでようやく外の港との交易が行える。

 今までは魔物を含めた自分達の食料の確保に躍起になっていて、商売用の船を出すほどの余力はなかったのだ。

 そんなわけで俺は港に来ている。とある問題を解決するためにだ。

 更にここには新たに都市アルダにやってきた人間たちも集まっていた。

「これからはダーシュ港との交易船を出すぞ! それで都市アルダは完全に港として蘇ったと、対外的に示すことができる!」
「まだうちから出せる商品とかないのね。赤字確定なのね、顔真っ赤」

 オバンドーが何やら呟いてるが無視。

 交易船を出す目的は他領地へのアピールであり、ひとまずは儲けることではない!

 本来なら俺もまだ早いかなぁって思ってるよ! でも仕方ないだろ!?

 公爵が俺のこと狙ってるんだから! サキュバスがスパイを捕まえて報告して来た時は鳥肌が立ったぞ!

 あの怪文章……バルガスに金払ったんだから俺を引き渡せ、という公爵からの謎手紙は、正気のもとに送られた本物だったということだ。

 もちろん俺に従う義務はない。だがグモブは腐ってる公爵家だ。

「うるさい! 俺の身体がかかってるんだぞ! この街の総力をあげて何とかするしかないだろ!」
「それって街の私物化じゃ……」
「ここは俺の街だからな!」

 呆れるサーニャに対して堂々と宣言する。

 グモブ公爵は公権力があるので何して来るかわからない。それに抵抗するにはこちらも力を持たなくてはならない。

 具体的には金を稼いで周りに賄賂を渡したりして、俺達も公権力を味方につけなければだめだ。

 さもなければいきなり謎裁判が始まって、裁判員買収されて理不尽に敗訴なんて可能性もある。

 この場合の肝は裁判員を直接買収はできない。彼らもバカではないので直接賄賂を受け取って捕まったりはしないのだ。

 彼らの裏側にいる支援者、例えば街などに対して俺に価値があるのだと間接的に働きかける必要がある。

 そうすれば裏にいる支援者が裁判員に対して、それとなく俺に味方をするように言ってくれる。

 でもこれは犯罪ではない。裁判員はあくまで、裁判の第三者の意見を聞いただけだから。面倒くさいね!

「いいか! 都市アルダの特産品はもうあるんだ! ドワーフの造る製品は全て超一流だ! 後は製造ルートと流通ルートさえ固定すれば話題沸騰でガッポガッポなんだよ!」
「それはまだ何のルートもつくられてないということでは……」
「だまらっしゃい!」

 なんかほざいている町民Aは黙らせておく。

 だから今からルートを作るんだろうが! 真面目に話すと特産品がなかったとしても、流通ルートと大勢の人間がいれば交易にはなる。

 鍛冶師なりを都市アルダに呼んでもいいし、何なら他港から他港への運送屋をやってもいい。

 とりあえず港湾都市なのに交易船使わないのはダメだ。それではうちのメリットが欠片もなくなってしまう。

「そういうわけだから船を使って交易するぞ!」
「ふねがないよ?」
「おんぼろ漁船が数隻しかないね。これで遠くの港に出向いたら即轟沈でおだぶつちんね。ドワーフに作らせるにしても大型船は時間かかるだろうね」
「船がなければ魔物に乗ればいいんだよ! そういうわけで今から召喚するから!」
「いつもの」

 そもそも船とは何なのか。

 大量に物が積載できて水上を渡れるなら、それは船としての条件を満たすのではないか。

 ならば巨大な海を泳ぐ魔物は船足りえる。むしろ風などの影響を受ける人工船よりもよほど優秀なはずだ。

 俺は海に向かって手をかざして、いつものように呪文を詠唱する。

「古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは大陸、沖を渡る大亀……」

 そう告げた瞬間、目の前の海に巨大な島が出現した。

 25メートルプールほどの広さはあるだろうそれには、木やコケなども生えていて……よく目をこらせばほんの少しだけ振動していた。

「な、なんだぁ!? 島ぁ!?」
「ち、違うべ! なんか頭があるべ!」

 町民Bが指さした先には島から繋がって海面を突き出すように、巨大な亀の首が存在していた。

 そう、これはアスピケドロン。島亀と言えばわかりやすいだろうか。

 背中の甲羅部分を海面から露出させて泳ぐ巨大な亀だ。

「こいつを船代わりにする。背中は広いし色々と乗せられるだろ? 風の影響も受けないし船より優秀だぞ?」
「え、えぇ!? いくらなんでも魔物を船代わりなんて無理だべ!?」
「そうだ! 急に潜ったらどうするんだ! 俺達がどうなってもいいのか!」

 俺の素晴らしいアイデアを頭空っぽで否定する愚民ども。

 そんな彼らに対して俺は真剣な顔で語り掛ける。

「そんなわけがあるか! お前たちはすごく大事(な人的資源)だ! この島亀はすごく大人しくて安全なんだよ。それに普通の船は何かあったら沈没するが、こいつならそんな危険はないぞ」
「そ、それは……」

 中世ヨーロッパにおいて航海とは危険がつきものだった。

 船は木造で丈夫でない上に、帆で風を受けての移動なのでどうしても運要素が絡む。

 それに大しけなどで海が荒れるのも危険だし、コンパス頼りなので道に迷って漂流してなどもある。

 なので下手な木造船よりも島亀のほうが安全だと思う。少なくとも大波でも壊れたりはしないし……甲羅の上の人間はどうなるか知らん。

「それにな、魔物に乗れないって言うけどさ。うちはペガサス様に乗って毎日交易してるんだぞ。それで事故も全く起きてないし」
「た、確かにそうかも……」
「魔物様を信じろ! お前たちは海の魔物を恐れるだろ? それが味方になる心強さを理解せよ! それに普通の船よりもだいぶ速いぞ! 速い、安い、沈没しないの3Iだぞ」
「そう言われると……普通の船よりもだいぶよいのでは……」

 よし洗脳成功。町民たちは島亀に対して感心したような視線を投げている。

 俺としても木造船は高いので島亀のほうが助かる。

 エサも海の魔物特有の現地セルフサービスでOKなので、餌代もかからないのが最高過ぎる。

 もちろん危険からは守らなければならないので、海にヤバイ魔物が出たら退治しないとダメだが……クラーケンが勝てないレベルの魔物などそういないだろう。

「さあ今から島亀を出航させるぞ! 乗るのはここにいる全員! 目的はダーシュ港だっ! そこのお前が船長となって用意しろ! 俺も同行する!」
「「「おおー!」」」

 船乗りたちはテンション上げて叫び、各々色々と用意の相談をし始めた。

 ちなみにそこのお前は、ちゃんと船長経験がある奴を調べて使命してるからな!

 島亀に船長が必要かは怪しいけど。
 
「まずは酒だ、飲料ないとな」
「食料もだなぁ、干し肉とかも必須だ」
「干し肉なんていらん! 半日ほどでつくからおやつでも持っていけばいい」
「…………いいこと思いついたぞ! 船ならできないけど亀ならいけるべ!」
「よーし島亀、港に身体をつけろ!」

 そうして色々と積み荷を島亀の背に運んで、俺や船員たちも背に乗って出向の準備ができた。

 だいぶ雑な準備だが問題はない。島亀は船よりもだいぶ速いので、ダーシュ港まではすぐにつく。

 決して海を舐めているわけではない。

 そういえばアスピケドロンに乗るにあたって、ひとつだけ注意事項がある。守らないと悲惨なことになることが。

 だがこの世界の船乗りならば絶対にやらないことだ。わざわざ注意する必要もないだろう。

「さあ出航! いけ、島亀!」

 島亀は俺の指示に従って、港から離れて海を進んでいく。

 スピードは地球の高速客船くらいはありそうだ。潮風が気持ちよい。

「なるほど、これはいいな。実に快適だ」

 俺は魔女のつくったクッキーをつまみながら、地面(?)に座ってくつろぐ。

 完全に遊覧船に乗った気分だ。沈む心配がまったくないのですごく楽しい。

 船員たちも少しオドオドしていたが、元々肝の据わった船乗りたちだ。

 すでに干し肉や酒で宴会をし始めた。

 まだ港からロクに離れてないのに飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。

 するとひとりの男が何かを手にかざして、勢いよく叫び出した。

「ふっふっふ……ここで俺の秘密兵器! 炎を起こす魔法の道具だ! これで火をおこせば、船の上で焼いた肉が味わえる!」
「「「な、なんだって!?」」」

 叫んだ男の足もとには焚き木が用意されていた。

 木造建築の船では火を使うのは難しい。かなり大型の船なら用いることもあるらしいが……基本的には船が燃えたら危ないので使用厳禁である。
 
 なので船の上の食事は干し肉などで、温かい物はすごく貴重であった。

 だから彼らは海上で火を使用できる興奮している。ここは木造じゃなくて島亀の上だから、火を使っても問題はないと錯覚《・・》している。
 
 そう、俺だけが冷や汗をかいて真っ青な顔をしていた。

「や、やめろぉ! 火は、火はだめ……」
「点火!」

 その瞬間、足元の島が大きく揺れた。

「な、なんだべ!? 地面が沈んで……!」
「この大馬鹿野郎! 海上で火なんて使うな! アスピケドロンはっ! 火がっ、大嫌いなんだよぉ!」
「はぁ!? そんなの言ってくれなきゃしらねぇべ!」
「まさか船乗りが海上で火を使うなんて思うわないだろこの馬鹿!」
「ライ、ぎんかにまい」
「グルウウウオオオオオオオォォォォォ!」

 野太い悲鳴のような叫びとともに、島が沈んで俺達は海へと投げ出された。

 幸いにも港のすぐそばだったので、クラーケンが全員を触手で捕獲……助けてくれてことなきを得て港まで帰ってこれたが……。

 あの馬鹿野郎絶対ゆるさねぇ! 海の上で火を使わないのは、船乗りの常識だろうがぁ!

「いわなかったライがわるい」
「……はい」

 濡れた身体をタオルで拭くサーニャにそう指摘されたのだった。

 当たり前、その思考ダメ、言っておけ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...