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第十七章

診療報酬

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 僕達が要塞内に突入したのは砲撃から数十分後の事。

 内部では、抵抗らしい抵抗はなかった。

 突入前にドローンとミールの分身体を要塞内に送り込んで分かったことだが、要塞内に残っていた者のほとんどは、非戦闘員か負傷兵だったようだ。

「拍子抜けですね」

 石の壁に囲まれた要塞内の通路を進んでいるとき、背後で橋本晶が不満そうに言う。

「抜刀戦を期待していたのに、戦闘員が全滅とは……」

 不満なのは分かったから、僕の背後で雷神丸をブンブンとふるのはやめてくれ。 

 前方でミールが手をふっているのが目に入った。

 先行していた分身体の一体だろう。

 ミールの側には、白衣を纏った帝国人の中年男性が立っている。

「カイトさーん!」

 ミールが壁を指さす。

「ここから、地下に降りられます」

 そう言ってから、ミールは白衣の男を促した。

 男は壁の一カ所を押す。

 ゴゴゴ!

 石の壁の一部が横にずれていき、そこに階段が現れた。

「ミール。そちらの人は?」
「この人は、お医者さんです」

 僕は医者の方へ向き直った。

「あなたは、軍医ですか?」

 医者は首を横にふる。

「私は町医者だよ。怪我人が増えて、この要塞の軍医だけでは手が足りなくなり連れてこられた」
「なるほど……しかし……」

 僕は地下への入り口を指さした。

「そうなると、あなたはこの要塞では部外者ですよね。なぜ、このような隠し扉があることを知っていたのですか?」
「最初は、私も医務室で他の怪我人の手当をしていた。その時に、伝令兵が私を呼びに来て、ここへ連れてこられたのだよ。兵士はよほど急いでいたからか、無造作にこの隠し扉を開いたので、私にも仕掛けが分かってしまっただけだ」
「なるほど。そんなに急いでいたという事は、地下で重傷者でも?」
「ああ。地下室で、自殺未遂をした奴がいたんだ」
「自殺未遂?」
「何を考えたのか、そいつはナイフで腹を切ろうとした」

 という事は……切腹?

「一応手当はしてやったが、男には言っておいた。『次に自殺するときは、腹ではなく首筋を切れ』とな。だいたい腹など切っても、痛いだけでなかなか死ねないのに、なんでそんな事をするのか理解に苦しむ」

 まさか……?

 僕はカルルの映像を、携帯端末に表示して医者に見せた。

「それは、この男では?」
「ん?」

 医者は携帯端末をじっと見つめる。

「確かにこの男だ。知り合いなのか?」
「僕の友達です」
「そうか。それなら、急いで助けに行った方がいいな。腹の傷は縫ってやったから心配ないが、私のアドバイスを実行して首筋を切りかねない」
「そうします」

 地下室に入りかけた時、医者に背後から声をかけられた。

「ところで、治療の報酬がまだなのだが」
「え?」
「要塞がこうなってしまっては、帝国軍からの報酬は期待できん」

 まあ、そうだな。

「帝国軍の敵である君に、帝国軍人の診療報酬までは要求しないが、君の友達の分は払ってもらえるかい?」

 それって、おいくら万円ですか? 健康保険の適用は、無理だろうな。

 僕はロボットスーツのポーチから金貨二枚を取り出した。

「今、手持ちはこれしかありませんが、足りないなら後で持参いたしますので……」
「いや。これで十分だ」

 よかった。顔に大きな手術痕があって、黒いマントを羽織っている無免許医みたいな高額報酬を要求されたら、どうしようかと思った。

「それより、私も地下に同行しよう。私の手が必要になるかもしれないからな」
「それは助かります」

 僕達は医者を伴って、地下へと降りていった。
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