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第十七章
お届けにゃん
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さて、どうしたものか?
敵がこっちの接近に気がついたとなると、奇襲が難しくなる。
そうなると、カルル・エステスを人質に取られる危険も……
リーン! リーン!
突然聞こえてきた物音に、僕は思考を中断した。
音は、僕達が来た方向から聞こえてくる。
この音、足音とか走行音とはあきらかに違う。
エンジン音のしないEVが、歩行者に接近を知らせるために出している電子音に似ていた。
いや実際にそうなのだろう。
音の主は曲がり角の向こうにいるのでまだ姿は見えないが、いきなり現れてこちらを脅かさないために、この様な音を出しているらしい。
わざわざ自分の存在を知らせる音を出しているという事は、味方と考えていいだろう。
などという事を、二十一世紀の地球文明を知っている僕はすぐに理解したが、この惑星で生まれ育った者には不安材料のようだ。
「なんだ? この音は?」
不安そうに言う医者を、芽衣ちゃんが宥める。
「先生、大丈夫です。この音は……」
芽衣ちゃんがそこまで言ったとき、曲がり角からそれは姿を現した。
それは、全長二メートルほどの四足歩行ロボット。
ロボットは、僕の前で止まると猫を思わせる顔を僕に向け、中性的な声で話しかけてきた。
「機動服中隊の、北村隊長ですかにゃ?」
語尾に『にゃ』って! まあ、嫌いではないが……
「そうだが。君は補給ロボか?」
「そうですにゃ。私は、補給ロボットのお届けにゃんですにゃ。補給品のお届けに、参りましたにゃん」
「そ……そうか。ありがとう」
まあ語尾に『にゃ』を付けるのは、戦場の殺伐とした空気を和らげようという配慮なのだろう……と、好意的に解釈しておくか。
「にゃん。では、お受け取り下さいにゃ」
ロボットの背中コンテナがパカッと開く。
中には弾薬や医薬品、バッテリー、そして超小型偵察ドローンなどが入っていた。
こいつはいい。
このドローンなら、地下室へ気づかれないで潜入できそうだ。
「必要な物資を受け取ったら、不要になった空のマガジンや空のバッテリー、空薬莢などを入れていって下さいにゃん」
不要品回収もしてくれるのか。
「それと艦長からの、差し入れがありますにゃ」
お届けにゃんは、マニピュレーターで紙箱を差し出した。
「それはありがたい」
紙箱の中に入っていたのは、細長い透明フィルムに包まれたゼリー菓子。
フィルムを切ると、中からオレンジ色のプルプルと震える物体が顔を出し、甘酸っぱい香りが僕の鼻孔をくすぐった。
「みんな一本ずつ取ってくれ。先生もお一つどうぞ」
医者は、透明フィルムを手に取り興味深そうにまじまじと見つめる。
「これは、何かね?」
「ゼリー菓子です、中々いけますよ」
「どれ」
医者は恐る恐るフィルムを切って、ゼリーを口にする。
「ふむ。甘くて美味いな」
気に入ってくれたようだな。
僕はお届けにゃんの方を振り返る。
「捕虜を連れ帰る事は、できるかい?」
「一人だけなら、可能ですにゃん。私のコンテナの上に寝かせて、ベルトで固定すれば連れて行けますにゃん」
そのためにコンテナを大きめに作ってあったのか。
「よし。古淵、捕虜を運ぶから手伝ってくれ」
「はい」
古淵は二人の捕虜の近くに屈み込んだ。
「む?」
古淵は、二人の捕虜の鼻の辺りに手をかざした。
「どうした? 古淵」
「隊長。捕虜が二人とも息をしていません」
「なんだって?」
古淵はさらに脈を測る。
「二人とも心肺停止状態です」
「ばかな!? 二人ともさっきまで生きていたぞ」
医者が二人の元に駆け寄り蘇生処置を施そうとするが……
「ん?」
医者は蘇生処置をやめて、捕虜の口の中を確認した。
「しまった! 毒薬カプセルだ。こんな物を、口に含んでいたとは……」
敵がこっちの接近に気がついたとなると、奇襲が難しくなる。
そうなると、カルル・エステスを人質に取られる危険も……
リーン! リーン!
突然聞こえてきた物音に、僕は思考を中断した。
音は、僕達が来た方向から聞こえてくる。
この音、足音とか走行音とはあきらかに違う。
エンジン音のしないEVが、歩行者に接近を知らせるために出している電子音に似ていた。
いや実際にそうなのだろう。
音の主は曲がり角の向こうにいるのでまだ姿は見えないが、いきなり現れてこちらを脅かさないために、この様な音を出しているらしい。
わざわざ自分の存在を知らせる音を出しているという事は、味方と考えていいだろう。
などという事を、二十一世紀の地球文明を知っている僕はすぐに理解したが、この惑星で生まれ育った者には不安材料のようだ。
「なんだ? この音は?」
不安そうに言う医者を、芽衣ちゃんが宥める。
「先生、大丈夫です。この音は……」
芽衣ちゃんがそこまで言ったとき、曲がり角からそれは姿を現した。
それは、全長二メートルほどの四足歩行ロボット。
ロボットは、僕の前で止まると猫を思わせる顔を僕に向け、中性的な声で話しかけてきた。
「機動服中隊の、北村隊長ですかにゃ?」
語尾に『にゃ』って! まあ、嫌いではないが……
「そうだが。君は補給ロボか?」
「そうですにゃ。私は、補給ロボットのお届けにゃんですにゃ。補給品のお届けに、参りましたにゃん」
「そ……そうか。ありがとう」
まあ語尾に『にゃ』を付けるのは、戦場の殺伐とした空気を和らげようという配慮なのだろう……と、好意的に解釈しておくか。
「にゃん。では、お受け取り下さいにゃ」
ロボットの背中コンテナがパカッと開く。
中には弾薬や医薬品、バッテリー、そして超小型偵察ドローンなどが入っていた。
こいつはいい。
このドローンなら、地下室へ気づかれないで潜入できそうだ。
「必要な物資を受け取ったら、不要になった空のマガジンや空のバッテリー、空薬莢などを入れていって下さいにゃん」
不要品回収もしてくれるのか。
「それと艦長からの、差し入れがありますにゃ」
お届けにゃんは、マニピュレーターで紙箱を差し出した。
「それはありがたい」
紙箱の中に入っていたのは、細長い透明フィルムに包まれたゼリー菓子。
フィルムを切ると、中からオレンジ色のプルプルと震える物体が顔を出し、甘酸っぱい香りが僕の鼻孔をくすぐった。
「みんな一本ずつ取ってくれ。先生もお一つどうぞ」
医者は、透明フィルムを手に取り興味深そうにまじまじと見つめる。
「これは、何かね?」
「ゼリー菓子です、中々いけますよ」
「どれ」
医者は恐る恐るフィルムを切って、ゼリーを口にする。
「ふむ。甘くて美味いな」
気に入ってくれたようだな。
僕はお届けにゃんの方を振り返る。
「捕虜を連れ帰る事は、できるかい?」
「一人だけなら、可能ですにゃん。私のコンテナの上に寝かせて、ベルトで固定すれば連れて行けますにゃん」
そのためにコンテナを大きめに作ってあったのか。
「よし。古淵、捕虜を運ぶから手伝ってくれ」
「はい」
古淵は二人の捕虜の近くに屈み込んだ。
「む?」
古淵は、二人の捕虜の鼻の辺りに手をかざした。
「どうした? 古淵」
「隊長。捕虜が二人とも息をしていません」
「なんだって?」
古淵はさらに脈を測る。
「二人とも心肺停止状態です」
「ばかな!? 二人ともさっきまで生きていたぞ」
医者が二人の元に駆け寄り蘇生処置を施そうとするが……
「ん?」
医者は蘇生処置をやめて、捕虜の口の中を確認した。
「しまった! 毒薬カプセルだ。こんな物を、口に含んでいたとは……」
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