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第八章

カルカシェルター

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「なんで、そんなに嫌なのですか?」

 いや、ミール……そんな悲しそうな目で見られても……

「たかが、入れ墨タトゥーじゃないですか?」
「たかがってな……」

 入れ墨タトゥーなんて入れたら、今後ブールにも銭湯にも行けなくな……ん? この惑星に、そんなものなかったっけ……それなら……いや、やはりよくない。

「ああ! そうか」

 香子は、何かを思い出したかのように言う。

「ミールさん。私達が生きていた時代の日本では、入れ墨タトゥーはヤクザ者が入れるものだったのよ」
「え? そうなのですか?」
「オシャレで入れる人もいたけどね。その代わり、色々と差別を受けたわ。私たちは電脳空間サイバースペースで暮らすうちに、その固定観念はほとんどなくなったけど、生データから作られた海斗には、まだその固定観念が残っているのよ」

 なんか、そういう言われ方すると、僕が頭の古い人間みたいに聞こえるのだけど……まあ、二百年前の人間なのだから仕方ないか。

「だから、入れ墨タトゥーを入れるのは、もう少し待ってあげて」
「それでは、仕方ないですね」

 どうやら、諦めてくれたようだ。

「あんた達!」

 ドームの入り口から、また別の女の声が……
 見ると、そこにいたのは……

「レイホー!?」
「ん?」

 レイホーが僕の方を向いた。

「あいやー! お兄さんじゃないの。ゴメンネ。一昨日は急用で店を空けちゃって」
「いや……それはいいんだけど……」
「それより、あんた達、早くシェルターに入ってくれないと困るね。扉が閉められない」

 そうだった。

 僕達は、大急ぎでカルカシェルターの中に入って行った。

 シェルター内は意外と広い。
 通路も、車が余裕で通れる広さがある。
 ただ、車は徐行せざるを得なかった。
 通路の横幅は広いが天井が低いために、トレーラー上のテントは畳まなくてはならなかったので、そこに人を乗せられない。
 車の後部シートではPちゃんを膝枕にしてダモンさんが横たわり、点滴を受けている。
 助手席にミールが座ると、後は人が乗る余裕がない。
 乗り切れなかった香子は、芽衣ちゃんのロボットスーツにお姫様抱っこで運ばれ、ミクはオボロを召還して、その後ろにミーチャとキラを乗せて車の横を低空飛行。
 レイホーは、スケボーのような板に乗って、僕達を先導していた。
 スケボーとは言ったが、板の下に車輪はなく板が宙に浮いているのだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』に出てきたホバーボードみたいだ。
 重力制御、あるいはマイスナー効果を利用して浮いているのだろう。
 しばらくの間、緩やかな傾斜が続いていた。
 大きな鉄扉が見えてきたのは、五百メートルほど進んだ時。
 レイホーが扉の横にあるテンキーを操作すると、鉄の扉はゆっくりと開いていく。
 その扉の向こうに、大勢の人達が待ち構えていた。
 そのほとんどが、猫耳ヒューマノイドのナーモ族。トカゲ型異星人のプシダー族もちらほら。それらに混じって東洋系の地球人達がいた。

 《天竜》の人達?
  
 扉が開き切ると、代表者らしき女性が進み出る。
 歳の頃は五十代だろうか?

『カルカシェルターへようこそ。《イサナ》の人達。私は、カルカシェルターの代表者 ヤン 美雨メイユイ。あなた達が来るのを、ずっと待っていた』

 どこかで聞いた名前? あ! 《天竜》との交流会で会った人!
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