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第十章

エラの恐怖再び

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 レーザーを潰した事と、船にはナーモ族の漕ぎ手がいるから迂闊に攻撃しないようにと、カルカシェルターに伝えている途中で、電波状態が悪くなり通信が途絶えた。
 レーダー画面を見ると真っ白になっている。さっき、僕がロケット砲でばらまいた金属箔が、もっとも濃密に漂っている空域に入った影響だな。
 視界も良好とは言えない。念のため速度を落とした。

「私達が《マカロフ》へ着く前に、ミールさんとミクちゃんだけで終わっていそうですね」

 隣を飛行している桜色のロボットスーツの中から、芽依ちゃんが話かけてくる。
 この短距離なら、通信障害はなさそうだ。

「そうだと、いいのだけどね。成瀬真須美によれば、あの船にはエラ・アレンスキーがいるそうなんだ」
「大丈夫ですよ。エラ・アレンスキーさんの能力も、ミクちゃんの式神には、まったく歯が立たなかったじゃないですか」
「そうだね」

 視界が晴れてきた。レーダーも回復してきている。レーザー攪乱幕を抜けてきたようだ。
 映像を拡大してみると《マカロフ》の甲板上で、帝国兵と分身達ミールズが戦っていた。それは一方的な戦いだ。銃も剣も通じない不死身の分身達ミールズ相手に、帝国兵は為すすべもなく倒されていく。
 視線を移すと、ミクの式神アクロが、アスロックランチャーを船体からもぎ取っているところだった。それを運河に放り込むと、次は短魚雷発射管を剥がして運河に捨てる。
 対空機関銃ファランクスと爆雷投射機は、すでに潰してあった。今は、五インチ速射砲を潰しにかかっている。
 帝国兵に勝ち目があるとしたら、分身を操っているミール本人と、式神を操っているミク本人を倒す事だが、二人とも潜水艦の中にいる。
 それを攻撃する手段をすべて失った今、帝国軍に勝ち目はまったくない。

 ん? アクロの様子がおかしい。消えかかって……いや、消えてしまった。

 ミクに何かあったのか? 近くの水面には、潜望鏡もフローティングアンテナも見あたらない。これじゃあ《水龍》と連絡とれないな。分身の誰かに、通信機を持たせておくとミールが言っていたが……

 お! ミールとの通信がつながった。

「ミール。ミクに、何かあったのか?」
『カイトさん! ミクちゃんが、魔力切れで倒れてしまったのです』
「魔力切れ? だって、回復薬が……」
『回復薬ごと、吐いちゃったのですよ』
「吐いた?」
「ああ! いけない!」

 隣で、突然芽依ちゃんが叫んだ。

「ミクちゃん。船酔いに、弱かったのですよ」
「なんだって!? さっきは、平気そうだったぞ」
「たぶん、酔い止めの薬を飲んでいたのだと思います。でも、さっきの進路反転百八十度が、堪えたのではないかと……」

 あちゃあ!

「ミール。ミクが吐いたのは、船酔いのせいだ。介抱を頼む」
『分かりました』
「それと、その船にはエラがいる。出て来ても、まともに相手にしないで逃げ回れ」
『分かりましたけど……ミクちゃんが回復してくれないと勝ち目は……』
「大丈夫。エラの攻略法は考えてある。前にも、そう言って負けたけど、今度は大丈夫だ」
『はい……カイトさん! エラが現れました。戦闘に戻ります』

 通信が切れた。まあ、いい。《マカロフ》まではあと少し……

「北村さん!」

 突然、芽依ちゃんが叫んだ!

「ドローンが、こっちへ向かってきます」
「なに?」

 レーダーに、七つの光点が現れていた。
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