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第十章

ごめん、名前覚えられない。

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 船から空中に飛び出したものの、すぐには攻撃されなかった。

 どうしたのだろう? と思っているところへ通信が入る。

 通信を求めてきたのは、例のオルゲ……なんたら提督。ごめん、名前覚えられない。

『とうとう隠れ場所から出てきたな。日本の戦士よ。攻撃をする前に、言っておくことがある』

 何だろう?

『先ほど、私は君達がどの船に隠れたか把握していると言ったな』

 うん、言ってた。

『あれは嘘だ』

 知ってた。

『正直言うと、煙幕で完全に君たちの位置を見失っていた。だから、攻撃をしなかったのは、本当に君達がどこにいるか分からなかったからだ。だが、君達は私に欺かれてノコノコ出てきてしまったな』

 いや、別に欺かれてはいないが……

『次に君が船の陰に隠れたら、私は躊躇なく船ごと撃つ。ナーモ族を巻き込みたくなかったら、船の後ろに隠れようなどとはしないことだ』

 僕は送信ボタンを押した。

「よほど都合が悪いみたいだな」
『なに?』
「わざわざ、通信機で『船の後ろに隠れるな』と言ってくるところみると、よほど船を盾に取られるのが嫌みたいだな」
『そんな事はない。私は隠れても無駄だと言っているのだ。君達が我が軍の船を盾にすれば、ナーモ族にいらぬ犠牲を強いることになる。そうなっては、ナーモ族から救世主のように崇められている君達の名誉に傷が付くだろう。私は君達の名誉を守ってあげたいのだよ』

 よく言うよ。このおっさん……

「船を沈めると、ナーモ族の前に帝国軍の軍人が犠牲になるのですけど」
『我が帝国軍人は死など恐れぬ』

 いや、恐れているだろう。

『勝利のために、命を捨てるのは軍人にとって最高の名誉。軍人なら、敵を倒すために喜んでその身を捧げるだろう』

 いや、さっきの船長、思いっきり迷惑そうだったが……

『さて、話が長すぎた。そろそろ死んでもらおう。日本の戦士よ』
「芽依ちゃん! 盾を」
「はい」

 空中で桜色のロボットスーツが《マカロフ》に盾を向ける。
 同時に僕は、最後のロケット砲を《マカロフ》に向けて撃ってから、芽依ちゃんの構える盾の陰に入り攻撃を待った。

 しかし、レーザーは全然関係のない方向へ向かっていく。

「どこを狙っている? 下手くそ」
『やかましい!』

 わ! 通信機を切っていなかった。今の呟き聞かれていたか。
 というか、今の声……提督じゃない。この声は……

「矢納さんですか?」
『ああ、俺だよ。レーザー砲は俺が艦橋ブリッジから操作しているが、けっして俺の腕の悪いんじゃない。てめえがバカみたいに、チャフをバカスカばら撒いたせいで、レーダーの調子が悪いだけだ。今、光学照準に切り替えて、トドメを刺しやる』

 やはり、攪乱幕の影響で、正確なレーダー射撃ができないようだ。

『光学照準に切り替えた。念仏でも唱えな』
「いいのですか? 僕の苦しむ顔を見なくて?」
『ああ、それだけが心残りだが仕方ない。ここでお前に引導を渡してやるよ。北村海斗』
「北村さん! レーザー来ました」

 レーザーがこっちの盾に当たった。
 しかし……

「北村さん。レーザーのエネルギーかなり弱くなっています」 
「どのくらい?」
「九十パーセントは落ちています。これなら当分持ちます」

 よし! これなら……

『ずいぶんと立派な盾だな』

 矢納さん、かなり苛ついているみたいだ。

『だが、そんな盾では、いつまでも防ぎ切れまい』
「それは、どうかな?」
『なに?』

 その時、背後から別の声が聞こえた。なんたら提督の声だ。

『ヤナ君。無駄話は止めて、早く仕留めたまえ』
『今、やっている』

 内輪話する時は通信切っておけよ。

『あまり当てにならないな。君も……なんだ! あの女たちは?』

 提督が何かに驚いたような声を出した時、別の周波数で通信が入った。

 この周波数は《水龍》!

『カイトさん!』

 通信機からミールの声が聞こえてきた。

『分身達を《マカロフ》に移乗させました。ただいま制圧中です』
「待っていたよ。ミール」
『今、ミクちゃんがアクロを召還しました』

 そう。僕達が隠れていた船から飛び出したのは、もちろんハッタリに引っかかったわけじゃない。《マカロフ》の横に《水龍》が浮上するのを、船長室の窓から見ていたからだ。
 分身達ミールズと式神が《マカロフ》に移乗白兵戦を仕掛けるまで、《水龍》が攻撃されないように敵の注意を逸らすのが目的だったのだ。

「北村さん。敵のレーザー照射が止まりました」

 芽衣ちゃんがそう言った直後、ミクの声が通信機から流れる。

『お兄ちゃん。レーザー潰したよ』
「よくやったぞ。ミク」
『えへ! ほめて! ほめて!』

 僕はロケットランチャーを捨てて、ショットガンを手にした。
 隣では芽衣ちゃんも、盾を捨ててやはりショットガンを手にしている。

「芽衣ちゃん。僕達も行くぞ」
「はい」

 僕達は《マカロフ》目がけて、一直線に向かっていった。
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