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第十一章

闇の中(天竜過去編)

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 どうやら、電気系統がダメになったみたいだ。エネルギーが無くなったのか、砂の流入で回線がショートしたのか分からないが、船内はすっかり闇に包まれてしまった。

ヤンさん達、どこまで行ったんだろう?」

 暗闇の中、僕は呟いた。

「助けを呼びに行ったのだと思うけど……」
「どこへ?」
「どこって《天竜》……は、もう無理だと思うし、シャトルが降りているはずだから、そこへ行ったんじゃないかしら?」

 その後、しばらく沈黙が続いた。先に沈黙に耐えかねたのは、チョウ 麗華レイホーの方……

「ちょっと、チャン君。何か喋りなさいよ」
「ええっと」
「暗闇で、ずっと沈黙していたらコワいでしょ」
「非常灯を点けようか?」
「バッテリーがもったいないでしょ。どうしても必要になるまで、使っちゃだめよ」

 しょうがないなあ……とにかく話題話題……てか、なんか言うと怒りそうだからな……
 それに、喋ると喉が渇くし……

「あのさ、水は後どのくらい残っているの?」
「さっきのペットボトルが最後」
「え?」
「タンクにはまだ残っているかもしれないけど、電源が切れたらポンプが動かないし、取り出しようがないわ」
「そうか」

 いけない! 水がないと思うと、余計に喉が渇いてきた。

「章君。言っておきたい事があるのだけど……」
「なあに?」
「ごめんね」
「え!?」

 な……なんで、急に謝るんだ?

「私さ、君にいろいろと酷い事言っちゃったじゃない。いつか謝っておきたいと思っていたのよね」

 意外と素直なところがあるんだな。

「いいよ。僕は別に気にしていないから……僕よりもワンに、いろいろと謝るべきじゃないの?」
「そうね。でも、デブはここにいないし、とりあえず手近なところで君に謝っておきたいの」

 手近なところって……

「私さ、考えるより先に口が出ちゃうのよね。言った後で、しまった! と思った時には手遅れで、相手を傷つけてしまって……そんなんだから、ろくに友達もできなくて……でも、魅音ミオンだけはそんな私を分かってくれていたの」

 やっぱり柳 魅音は女神だな。

「そんな魅音が、デブと仲良くしているのを見て、パニックになっちゃったのよね。このままでは、魅音をデブに取られる。なんとかしなきゃって」
「それで王を覗き魔に仕立て上げた?」
「そう。やってから、凄く後悔したけど引くに引けなくなって……もう、デブは私の事を許してくれないだろうね」
「どうかな? あいつ、わりと良い奴だから、真剣に謝れば許してくれるかも」
「本当にそう思う?」
「たぶん」
「はっきりしてよ」

 そんな事言ったって……

「あのさ、砂嵐……もう治まったんじゃないかな?」
「そうね」

 僕達は非常灯を着けてエアロックまで移動した。しかし……

「外扉が開かないわ」

 エアロックは砂に埋もれていたのだ。

「もうおしまいね。私達」

 趙 麗華はヘナヘナと床にへたり込んだ。

「まだ、諦めるのは早いよ」

 彼女は、何も言い返さなかった。

「あのさ、趙さん。僕も、今のうちに言っておきたい事があるのだけど……」
「なに……」
「砂の中から、助け出してくれてありがとう」
「別にいいのよ。苦しみが長引いただけだし……どのみち私達は助からないわ」
「そんな事無いよ。死ぬにしても、あんな狭いところで一人きりでいるよりずっとましだよ」
「そう」
「だから、感謝しているんだ。趙さんには」
「もしかして、私に惚れたの?」
「え?」
「無理もないわね。こんなの美女に助けられたら、恋の一つや二つしても無理はないわね」

 いや、それはないから……

「でも、ダメ。私には好きな人がいるから」

 知っている。

「だけどね、もし助かるような事があって、章君が誰かと結婚して娘ができたら」

 何が言いたいんだ?

「その娘に、私の名前を付けてもいいわ」
「はあ? なんで?」
「ほら。よくあるじゃない。昔好きだった人の名前を子供につけるって」
「よくある事なの?」
「よくある事よ」
「そうなの。じゃあ、ここから出られたらそうするよ」

 もし、将来、僕に娘ができたら、性格の良い子に育てたい。
 麗華という名前を付けておけば、趙 麗華の事を思い出して、こうはならないようにしようとするだろう。

 ん? 今、何か音が聞こえたような……

「絶対つけなさいよ」
「あのさ……」
「なに? 文句あるの?」
「そうじゃなくて、なんか音が聞こえない?」
「え?」

 耳を澄ますと、外扉の向こうから機械音が聞こえてくる。

 もしかして……

「そこに誰かいる?」

 外から聞こえてきたのは、間違えなく楊さんの声……

「いるわ! ここから出して!」「楊さん! 僕達はここにいます!」

 僕達は、あらん限りの声を張り上げた。

「白龍君、趙さん。今、砂をどけているからもう少し我慢して」

 僕達が外へ出られたのは、それから十分ほど後。
 その時初めて、僕は惑星の大地を踏みしめ、この惑星の知的生命体と出会う事になった。
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