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第十二章

役場が危ない

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 どうやら、その五隻の小舟で乗り付けた者たち三十人は一般の商人を装っていたらしく、誰からも怪しまれることなくロータスへ上陸してしまったようだ。

 港には役人がいたが、代表者が差し出した身分証を見たほかは、ろくにチェックもしないで通してしまった。

 だが、《海龍》の甲板上でその様子を見ていたミーチャは、一行の中にエラ・アレンスキーがいる事に気がついたのだ。

 カメラ的記憶を持っているミーチャの言っている事だから間違えないだろう。

 さらに聞いてみると、六十代ぐらいの貴婦人が一行の中にいたという。

 おそらく、それがレイラ・ソコロフ。

 とにかく、このままでは役場が危ない。

 ミーチャとの通信を終えると、僕は通信機でミクを呼び出した。

『お兄ちゃん。何か、あったの?』
「ミク。すぐに町役場に向かってくれ」
『どうして? まだ、エラが見つからないよ』
「エラは川から上陸して、役場に向かっているんだ」
『ええ!? 分かった! すぐに行くね』

 続いて、役場にいるアーニャを呼び出す。

『アーニャ・マレンコフです。どうしました?』
「敵の一部が、川から上陸して役場に向かっています」

 それを聞いても、アーニャ慌てることなく冷静に質問してきた。

『敵の数は?』
「三十人ほど。その中にエラ・アレンスキーがいます。今、ミクをそっちへ行かせました」
『分かりました。防御態勢を整えます』
「ミールと代わってもらえますか」

 ミールが通信を代わった。

『カイトさん。エラがこっちへ向かっているのですか?』
「そうなんだ。今、分身を消しても大丈夫か?」
『無理です。今、分身を消したら西の橋を突破されます』
「Pちゃんのドローンと交代できないか?」
『Pちゃんは北の橋の防衛で手一杯……え? 町長さんが話を代わってほしいと……』

 町長が?

『敵がここへ向かっているそうですね?』
「そうです」
『そして、ここに攻め込まれたら、ミールさんの分身が存分に戦えなくなる。そういう事ですね?』
「そうです」
『分かりました。では、南と北の橋を爆破して落とします。戦力を西の橋に集中してください』
「え! いいのですか? 橋を落として」
『かまいません。橋はまた作れば良いだけのことです。それに、盗賊団が攻めてきたら、橋は三つとも落とすつもりでした。西の橋が残るだけでも御の字です』

 意外と思い切りの良い人だな。

 通信を切って、Pちゃんを呼び出した。

『ご主人様。如何いたしました?』
「Pちゃん。エラがそっちへ行った。ドローンのコントロールをロンロンと代わってもらってくれ。君はミールと一緒に安全なところに隠れるんだ」
『了解いたしました』
「くれぐれも、エラから半径五メートル以内に近づくな。ロボットの君が、奴の高周波磁場に触れたらひとたまりもない」

 さて、後は……

 空中に浮いているナージャの方を向いた。

「君はここで釈放する」
「いいのか?」
「ただし、大砲は絶対撃たないと約束してくれないか?」
「いいだろう」

 ナージャを地上に降ろすと、僕と芽依ちゃんは町役場に向かって飛んだ。
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