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第十二章

フッ化重水素レーザー

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 通信が入ったのは運河を越えた時……

 ミクからだった。

『お兄ちゃん。町役場に着いたよ』
「様子は?」
『玄関前で二人の人が血を流して倒れている。あれ、警備員の人だよ』

 もう、中に入られてしまったか。

『中から誰か出てきた……きゃ!』
「ミク! どうした?」
『あいつ……レーザー撃ってきた』

 レーザー? なぜそんな物? いや、ナージャはリトル東京に行ってきたという。そこで供与されたのかもしれない。

 とにかく、入手ルートはこの際どうでもいい。敵がレーザーを持っているなら対策を立てないと……

「ミク。大丈夫か?」
『オボロの角を一本やられちゃった。再生に少し時間がかかるけど、あたしは無事だよ』
「レーザーはオボロの結界で防げないのか?」
『無理! 結界は可視光線通しちゃうから』
「よし。僕がいいというまで、建物の陰に隠れていろ」
『分かった』

 レイホーを呼び出した。

『おにいさん。どうしたね?』
「レイホー。役場に攻め込んだ敵がレーザーを持っている。役所周辺に攪乱幕を張れないか?」
『二分待って。二分後に攪乱幕を入れたロケット魚雷を発射するね』
「頼む」
 
 レイホーとの通信を切ったとき、爆音が轟いた。

 町の南と北で爆煙が上がっている。

 今、二つの橋を爆破したのだ。

「北村さん」

 横から芽依ちゃんの声。

「ミクちゃんから、敵の使ったレーザー銃の映像が送られてきたのですが……」

 芽衣ちゃんは、ミクから送られて来た映像を僕のバイザーに転送した。

 この銃は?

「フッ化重水素レーザーです。迂闊に攻撃すると、役所一帯がフッ化水素で汚染されます」

 厄介だな。

「芽依ちゃん。銃器は使用禁止。レーザー攪乱幕が張れたら、奴の背後に降りて銃撃できないように、狙撃手の腕を押さえてくれ。骨をへし折ってもいいから、レーザー銃を無傷で取り上げるんだ。僕は正面に回って奴を牽制するから、その間にやってくれ」
「北村さん。正面に回るのは危険です。正面には私が回りますから……」
「いや……それは……」
「北村さんが、負傷したら作戦全体に支障が出ます」

 ううん、危険な事は男のやる事なんて言ったら、また『ええかっこしい』と言われるな……
 
「分かった。おさえ役は僕がやる。芽依ちゃんはくれぐれも危険のないように」
「はい」

 レイホーからの通信が入ったのはその時。

『お兄さん。今、ロケット魚雷発射したね』
「ありがとう。レイホー」
『大盤振る舞いの四発撃ったね。役所上空で爆発したら、三十秒後に突入してね。レーザー攪乱効果は十分ぐらい続くから、それまでに片づけるね』
 
 話を聞いている間にロケット魚雷が飛んできた。

 役所上空で爆発。

 程なくして役所一帯がキラキラと輝く金属箔で覆われる。

「芽依ちゃん、行くよ」
「はい」

 僕達は、濃密な金属箔漂う空域へ飛び込んでいった。
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