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第十五章

アーテミス

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 ミールの話によると、アーテミスは製鉄の盛んな町。たたら製鉄のような製法で、鉄を作っているらしい。

 らしいと言ったのは、それを言っていたミール自身は、製鉄にはあまり詳しくないので。

 ただ、砂鉄を原材料にしている事と、足踏み式送風機を使っているとミールから聞いた僕は、たたら製鉄のような製法だと推測したのだ。

「あたしもあまり詳しい事は分かりませんが、三年ほど前に、この町は帝国軍に攻め込まれたそうです。その時にかなりの損害はありましたが、撃退できたと」
「撃退できたのか?」
「どういう状況で、撃退できたのかは分かりませんが……」

 撃退できたからと言って、安心できるとは限らない。

 帝国軍の目的が、アーテミスの占領であったのか? 

 あるいは戦闘のどさくさに紛れて、住民の何人かをブレインレターでレムと接続することであったのか?

 前者なら帝国軍が間抜けだっただけで済むが、後者なら……

「Pちゃん。ブレインレターは、地球人以外にも有効なのか?」
「基本的にブレインレターは、地球人向けの機械ですから、異星人相手には使えません。ただ、異星人の精神に合わせて調整できる可能性はあります」

 可能性はあるのか。だとしても、後者の可能性は低いかな?

 その考えをミールに話してみると……

「カイトさん。話していなかったのですが、この町にはかなり多くの亡命帝国人がいます」
「なに?」
「だから、三年前の侵攻の時に、亡命帝国人がレムと接続された可能性は十分にあります」

 そうなると、やはりミクが危ない。

「ご主人様。ボートがアーテミスに到着しました。みなさん、四グループに別れて町へ入っていきます」

 Pちゃんの説明によると、組み合わせは……

Aグループ アーニャ・マレンコフ マー 美玲メイリン

 この二人、三十年来の戦友だから一緒に行動したいのだろうな。アーニャは『二十年来』だと言い張るだろうけど……

Bグループ エラ・アレンスキー カミラ・マイスキー

 妥当な組み合わせだな。それにこの二人はスパイの容疑から外しているから、他のメンバーと別行動してくれてちょうど良い。

Cグループ キラ・ガルキナ ミーチャ・アリエフ

 微笑ましい、おねショタカップルだな。

Dグループ チャン 麗華レイホー  森田もりた 芽依めい
 
 レイホーと芽依ちゃん、頼むから喧嘩しないでくれよ。

 全員に、ニミPちゃんを一体ずつ持たせてあるので、それぞれの会話を聞く事ができる。

 しかし、その機能を使うのは盗聴しているみたいだし、気が引けるな。

「Pちゃん。レイホーと芽依ちゃんは仲良くしているかい?」
「ご主人様。なんでしたら、向こうの音声を中継しましょうか?」
「いや、それは盗聴みたいで」
「芽依様は、かまわないと言っています」
「そうなの? じゃあ、頼む」
「それでは中継します」

 ズドン!

 なんだ!? この爆音は?

『芽依ちゃん。この勝負、負けるわけにはいかないね』
『レイホーさん。私だって負けません』

 なんだ!? 早々に喧嘩か?

 ズドン!

 また爆音……

『なぜ? レイホーさんがこんなに……』
『ふ。私、普段は中華料理屋の店員だけど、戦闘訓練は欠かしていないね』

 いったい、どういう状況なんだ?

 ズドン!

『そんな! なぜ? 私だって、訓練は欠かしていないのに』
『道具が違うね。私が普段使っているのはライフル。でも、芽依ちゃんはショットガン。その上、ロボットスーツの補正機能に頼っているね。だから、こんな原始的な銃だと狙いが雑になるね』

 銃?

「Pちゃん。二人はどういう状況なんだ?」
「ご主人様。お二人は、射的屋に入って火縄銃を撃っているのです」
「火縄銃だと。帝国軍のフリントロック式よりも古いじゃないか」
「帝国軍も、初期は火縄銃を使っていました。フリントロック式ができて使われなくなった火縄銃が、このような遊戯施設に流れたそうです。ここは、帝国領ではありませんが、亡命帝国人が持ち込んだ可能性があります」

 なるほど。

『私、負けましたわ』

 回文かい。

『じゃあ、スイーツは芽依ちゃんの奢りね』

 とりあえず、喧嘩しないで仲良くしてくれていて良かった。

 それは良いとして……

「Pちゃん。確認したい事があるのだが……」
「何でしょう?」
「芽依ちゃんは、君の生みの親だ。その芽依ちゃんを疑う事はできるのか?」
「ご主人様。私はロボットですから、その心配はありません。それに、私は芽依様から命令を受けています」

 命令?

「もし、自分がレムに接続されるような事になったら、その解放を優先するように。その為には芽依様に対して、嘘をついても良いと」

 なるほど。

「そして、レムからの解放が不可能な場合は、直ちに自分を殺せと」

 なに?

「Pちゃん。君は僕と芽依ちゃん、どっちの命令を優先するようになっている?」
「ご主人様です」
「では、命令する。たとえレムからの解放が不可能でも、芽依ちゃんを殺すな」
「ご主人様の命令とあらば」

 芽依ちゃん。自分の命をもっと大切にしてくれ。

 君が死んだら、泣く人がいっぱいいるんだ。
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