620 / 893
第十五章

死ぬな! これは命令だ

しおりを挟む
 廃工場を出た僕は、新たに捕らえた捕虜三人を引きずって、ミールの前に連れて行った。

「ミール。やはり、君の分身魔法が必要だ。だけど、ジジイから情報を聞き出す必要もある。そこで今から僕だけ《海龍》へ戻って、ジジイの分身体から必要な事を聞き出そうと思う。それを済ませてから、こいつらの分身体を作ってほしい」
「分かりました。でもカイトさん、急いで下さい。お爺さんの分身体、もう長くもちません」
「北村さん」

 芽依ちゃんが、駆け寄ってきた。

「《海龍》に戻るなら、私も連れていって下さい。私のロボットスーツも稼働させれば、いろいろとお役に立てると思います」

 なるほど。戦うにしろ、物を運ぶにしろ、ロボットスーツがもう一機いた方がいいな。

 ん? 僕は周囲を見回した。

「ところで、ミクはどうした? さっきから、姿が見あたらないが……」

 僕の質問にミールが答える。

「ミクちゃんなら、《海龍》に戻りましたよ。早くシャワーを浴びたいって。それとあの落書き女も連れて行きました。《海龍》で、ゆっくり仕返しするとか」

 ゆっくり仕返しって……何をするんだ?

 とにかく急いだ方がいいな。

「ミール。ジジイの分身体は、今どこにいる?」
「《海龍》の倉庫にいます」
「分かった」

 僕は、芽依ちゃんを抱き上げて飛び立った。

 アーテミス川の上を飛行中、僕は芽依ちゃんに艦隊内にレムと接続されたスパイがいた事を話す。

「それじゃあ、さっき北村さんが、私とレイホーさんの前に降りてきたのは、私たちが接続されていないかを確認するためだったのですね?」
「そうなんだ。疑ってすまない」
「いいのです。北村さんがやった事は当然です。私だって、同じ事をやります」
「その事だけど、芽依ちゃん。あれは止めてくれないか」
「あれとは?」
「Pちゃんに、自分を殺せと命令するなんて」
「あ! 分かっちゃいました」
「たとえ、レムに接続されたとしても、僕が必ず芽依ちゃんを解放する。だから、自殺は禁止」
「だけど、私が死んでも、誰も悲しみませんよ」
「艦隊のみんなが悲しむ。君のお父さんだって悲しむ。なにより僕が悲しい」
「私が死んだら、北村さんは悲しいですか?」
「当たり前だ。だから、死ぬな! これは命令だ」
「じゃ……じゃあ、その命令に従ったら……」

 ん? 芽依ちゃん、顔を赤らめてどうしたのだ。

「命令に従ったら……私と……その……け……け……」

 け?

「すみません! なんでも無いです! 忘れて下さい!」

 何を言いたかったのだろう? いや、ここは忘れた方がいいな。聞くとなぜか、面倒な事になりそうな気がする。

「ところで、北村さん。私にこの事を話したという事は、もう誰がレムと接続されているのかが分かったという事ですよね?」
「ああ。ただ、本人もそのことに気が付いていない可能性がある」
「そんな事が、あるのですか?」
「それを確認したい。そのために、ジジイの分身体に会いに行くんだ」

 そんな話をしている間に、《海龍》が眼下に見えてきた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...