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第十五章

クローン

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 ミーチャが最初に僕たちの前に現れた時、ミールはスパイではないかと疑っていた。

 エラ・アレンスキーから虐待されている姿を僕たちが見た直後に投降して来たのが、あまりにもできすぎという事からだ。

 しかし、ミールの分身魔法での尋問結果はシロ。

 だが、本人がスパイだと自覚していなければ、その尋問は無意味ということになる。

 しかし、自覚していないという事は、レムはミーチャを操ってはいないわけで、僕たちのところへやってきたのはやはり偶然だろうか?

 いや、今はそれを考えても仕方がない。

 今考えるべきは、ミーチャがレムと接続されているという事実と、これにどう対処するかだ。

 木箱の方を見ると、ジジイの分身体はいなかった。

 時間切れで消えてしまったのか。

 ちょうどいい。

 レムに接続されていて、そのことを自覚しているダニというサンプルが手に入ったところだし、こいつの分身体をミールに作ってもらえば……

「もう一つ、思い出した事があったぞ」

 ん? 背後からジジイの声。

 振り向くとジジイは、別の木箱の上に腰掛けていた。

「なんだ。まだ消えていなかったのか。それで、何を思い出したのだ?」
「うむ。今朝、見かけたミーチャ・アリエフ君という少年のことじゃ」
「ミーチャが、どうかしたのか?」
「あの少年、どっかで見たような気がしていたのじゃが、やっと思い出した」
「どこで見たのだ?」
「わしのオリジナル体が、レム君のオリジナル体とBMIで互いの脳を接続した事を島で話したが、覚えておるか?」
「ああ、覚えている。少年時代のレム・ベルキナが体験した戦争の記憶を、あんたは見たんだったな。それが何か?」
「そうじゃ。レム君の戦争体験を見ているときに、鏡に映ったレム君の顔を何度か見ているのじゃが、その顔とミーチャ・アリエフ君の顔がそっくりだったのじゃ」
「なんだって? どういう事だ?」
「落ち着いて、聞くがよい。レム君は精神生命体となって、電脳空間サイバースペースの中に入っていったわけじゃが、肉体の三次元データもコンピューターに取り込んでいた。この惑星に到着した後、そのデータから肉体の一部を再生して、そこから取り出したDNAを使い、自分のクローン人間を大量に作っていたのじゃ」
「じゃあ、ミーチャはレムのクローンだというのか!?」
「おそらく、そうじゃ」
「しかし、なんのためにクローン人間が必要なんだ?」
「端末に使うためじゃ」
「端末?」
「精神生命体となったレムは、コンピューターの中にいる。そこから、外部にいる人間を脳間通信で操るには、プシトロンパルスを人工的に発生させる必要がある。じゃが、機械的にプシトロンパルスを発生させる事はできなかった」

 まさか!?

「そこでレムは自分のクローンを大量に作り、その脳をBMIでコンピューターとつないでプシトロンパルスの発生装置として使う事にしたのじゃ」
「じゃあ、あいつは生きている人間を、機械の部品にしているというのか?」
「実におぞましい話じゃ。一応わしは、機械的にプシトロンを発生させる方法を開発してやるから、それだけはよせと忠告した。だが、レムは聞く耳を持たなかったのじゃ」
「コンピューターにつながれたクローン人間たちは、どんな状態になっている?」
「培養液に満たされたカプセルの中で、意識のない状態で生かされている。プシトロンパルスを送受信するアンテナとしてな」

 なんておぞましい。

 自分のクローンに、そんな非道ひどい事を……

 クローン人間もコピー人間も、一人の人間として生きる権利がある。オリジナルが好きにしていいわけがない。

「マザーコンピューター一台に、千人ぐらいが接続されておる。もちろん、生体だから寿命もあって、定期的に、補充の必要があるのじゃ。だから、レムはクローンを帝国内にばらまいて、予備のクローンを常に用意しているのじゃ」
「じゃあ、ミーチャはレムの消耗品として育てられていたクローン人間の一人というのか?」
「うむ。そんなところじゃな」
「帝国内にばらまかれたクローンは、逃げたりしないのか?」
「クローンが逃げられないように、常に脳間通信で接続されておる。逃げることは無理じゃ。居場所は常に把握されており、十八歳ぐらいになったら、回収されてマザーコンピューターに接続されてしまうじゃろう」

 そんな事、させるものか。

 ミーチャは必ず、レムの手から解放してやる。

「さて、そろそろわしは消えるとしよう」

 木箱の方に視線を向けると、今後こそジジイの分身体は消えていた。
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