646 / 893
第十六章
再燃。入れ墨問題。
しおりを挟む
格納庫は爆煙に包まれた。
地上の様子は見えないが、どうやら仕留められなかったようだ。
爆煙の中では可視光線は通らないが、赤外線は通過できるため、熱源体がその中を移動しているのが分かる。
もうしばらくしたら、爆煙の中からさっきの球体が姿を現すだろう。
ふいにPちゃんが僕の方を振り向く。
「ご主人様。母船が通信を求めています」
「つないでくれ」
「はい」
モニターに現れたのは、電脳空間の香子。
カルカで再会した香子と違い、二十代前半の若い姿をしている。
『海斗。さっき送られて来た球体機動兵器の映像を照合した結果、一致する機動兵器のデータが見つかったわ』
「どうだった?」
『ロシア製の機動兵器で名称はイワン。西暦二千八十年頃に開発された兵器よ。地球上で実戦に使われた記録はないけど、植民惑星で使われたという情報があるわ』
「それで、スペックは?」
香子は首を横にふる。
『《イサナ》のデータベースには、外見のデータしかないの。レーザー砲を出してこなければ、イワンかどうかも特定できなかったわ。球体機動兵器は、米国も日本も中国も作っていたけど、外見上の差異がほとんどないの』
「イワンが、レーザー砲を搭載していることは分かるのか?」
『内蔵しているレーザー砲を出している映像があったからね。出力までは分からないけど。他にもガトリング砲や、多関節マニピュレーターを出している映像があったわ』
「防御力は?」
『それは分からない。少なくとも、ロケット砲の一発や二発じゃ倒せないと思うわ』
だろうな。
『それと海斗。ついでに確認したい事があるのだけど、今いいかしら?』
「なんだい?」
『ここ数日、体調に異常はない?』
「いや……特には」
『そう。頭の中で、誰かの声が聞こえるとかいう事はない?』
はあ?
『その顔だと、ないみたいね』
「当たり前じゃないか。いったいなんでそんな事を……まさか!?」
『数日前、海斗のコピーを一人作ったの』
やっぱし……
『シンクロしていないか確認する必要があったのだけど、どうやら大丈夫みたいね?』
「おいおい……大丈夫で無かったら、どうするつもりだった?」
『その時は、こっちのコピー人間を処分するわ』
「処分って……殺人だぞ」
『電脳空間の海斗には、万が一の時コピー人間を殺処分することへの同意書に署名捺印してもらったから。コピー人間の海斗にも、その記憶があるから大丈夫よ』
いいのかな? 法律上の問題とかは……
『とにかく、そちらの海斗に問題がないと分かったので、コピーは地上に降ろすから、自分と同じ顔の男に出会う事があっても驚かないでね』
「いいけど、どこに降ろすの?」
『カルカよ』
「カルカ? リトル東京じゃないのか?」
『リトル東京にはもちろん行くけど、最初にカルカにいるあたしのコピーを回収してから、二人でリトル東京へ向かうわ』
「そうか。しかし、移動手段はあるの?」
『カルカでは、飛行船を用意してもらう事になっているの。そうそう。リトル東京へ出発する前に、あたしのコピーに求婚すると言っていたわ』
なに!? いや、落ち着け。それをやるのは、僕ではなくて僕のコピーだ。
ふいにミールが僕にしがみついてくる。
「では、海斗さん。さっそく、コピーと見分けが付くように入れ墨を……」
忘れていた! コピーが出来たら、入れ墨を入れる事になっていたんだ。
「待て! ミール! それは作戦が終わってから……」
『ミールさん。入れ墨なら必要なくなったわ』
「え? いらないのですか?」
『コピーの海斗に、先に入れ墨を入れておいたから』
「なんだ、残念」
いや、助かった。
「ちなみに、どんな入れ墨を入れたのだ?」
『アルファベッドの『K』の文字を額に』
香子は言うと同時に、画像データを送ってきた。
デザインされた『K』の文字が額に入っている自分の……いや、自分そっくりの顔がそこにあった。
なんかヤダなあ。
すまん。コピー君。僕の代わりにこんな顔にされてしまって……
もし、地上で出会えたら、お詫びに一杯奢ろう。
「あら! かっこいいわね」
え? 『かっこいい』って、何を言っているのですか? アーニャさん。
「本当。なかなかいかすわ」
馬艦長まで……
「お兄ちゃん。かっこいい」
ミクまで! この流れでいくと……
「カイトさん。みんなもこう言っている事だし、あれと同じ入れ墨を入れましょうよ」
やっばり、こういう展開になったか……
「待って下さい! ミールさん。北村さんに入れ墨を入れる話は、別のコピーと区別するためですよ」
芽依ちゃん。君なら止めてくれると思っていたよ。
「メイさん。それは分かっていますけど、おしゃれで入れ墨するのもいいじゃないですか」
良くない。
「ミールさん。同じデザインの入れ墨を入れたら、見分けがつかなくなるじゃないですか。違うデザインにしないと」
え? 止めてくれるのではないのか?
「そうでした。ではどうしましょう?」
「向こうの北村さんが『K』なのだから、こっちは『L』にして対抗しないと」
なんで『L』なら『K』に対抗できるのだ?
意味が分からないが……
「とにかく、入れ墨の話は作戦が終わってから考えよう」
爆煙の中から、球体機動兵器イワンが姿を現したのはその時だった。
地上の様子は見えないが、どうやら仕留められなかったようだ。
爆煙の中では可視光線は通らないが、赤外線は通過できるため、熱源体がその中を移動しているのが分かる。
もうしばらくしたら、爆煙の中からさっきの球体が姿を現すだろう。
ふいにPちゃんが僕の方を振り向く。
「ご主人様。母船が通信を求めています」
「つないでくれ」
「はい」
モニターに現れたのは、電脳空間の香子。
カルカで再会した香子と違い、二十代前半の若い姿をしている。
『海斗。さっき送られて来た球体機動兵器の映像を照合した結果、一致する機動兵器のデータが見つかったわ』
「どうだった?」
『ロシア製の機動兵器で名称はイワン。西暦二千八十年頃に開発された兵器よ。地球上で実戦に使われた記録はないけど、植民惑星で使われたという情報があるわ』
「それで、スペックは?」
香子は首を横にふる。
『《イサナ》のデータベースには、外見のデータしかないの。レーザー砲を出してこなければ、イワンかどうかも特定できなかったわ。球体機動兵器は、米国も日本も中国も作っていたけど、外見上の差異がほとんどないの』
「イワンが、レーザー砲を搭載していることは分かるのか?」
『内蔵しているレーザー砲を出している映像があったからね。出力までは分からないけど。他にもガトリング砲や、多関節マニピュレーターを出している映像があったわ』
「防御力は?」
『それは分からない。少なくとも、ロケット砲の一発や二発じゃ倒せないと思うわ』
だろうな。
『それと海斗。ついでに確認したい事があるのだけど、今いいかしら?』
「なんだい?」
『ここ数日、体調に異常はない?』
「いや……特には」
『そう。頭の中で、誰かの声が聞こえるとかいう事はない?』
はあ?
『その顔だと、ないみたいね』
「当たり前じゃないか。いったいなんでそんな事を……まさか!?」
『数日前、海斗のコピーを一人作ったの』
やっぱし……
『シンクロしていないか確認する必要があったのだけど、どうやら大丈夫みたいね?』
「おいおい……大丈夫で無かったら、どうするつもりだった?」
『その時は、こっちのコピー人間を処分するわ』
「処分って……殺人だぞ」
『電脳空間の海斗には、万が一の時コピー人間を殺処分することへの同意書に署名捺印してもらったから。コピー人間の海斗にも、その記憶があるから大丈夫よ』
いいのかな? 法律上の問題とかは……
『とにかく、そちらの海斗に問題がないと分かったので、コピーは地上に降ろすから、自分と同じ顔の男に出会う事があっても驚かないでね』
「いいけど、どこに降ろすの?」
『カルカよ』
「カルカ? リトル東京じゃないのか?」
『リトル東京にはもちろん行くけど、最初にカルカにいるあたしのコピーを回収してから、二人でリトル東京へ向かうわ』
「そうか。しかし、移動手段はあるの?」
『カルカでは、飛行船を用意してもらう事になっているの。そうそう。リトル東京へ出発する前に、あたしのコピーに求婚すると言っていたわ』
なに!? いや、落ち着け。それをやるのは、僕ではなくて僕のコピーだ。
ふいにミールが僕にしがみついてくる。
「では、海斗さん。さっそく、コピーと見分けが付くように入れ墨を……」
忘れていた! コピーが出来たら、入れ墨を入れる事になっていたんだ。
「待て! ミール! それは作戦が終わってから……」
『ミールさん。入れ墨なら必要なくなったわ』
「え? いらないのですか?」
『コピーの海斗に、先に入れ墨を入れておいたから』
「なんだ、残念」
いや、助かった。
「ちなみに、どんな入れ墨を入れたのだ?」
『アルファベッドの『K』の文字を額に』
香子は言うと同時に、画像データを送ってきた。
デザインされた『K』の文字が額に入っている自分の……いや、自分そっくりの顔がそこにあった。
なんかヤダなあ。
すまん。コピー君。僕の代わりにこんな顔にされてしまって……
もし、地上で出会えたら、お詫びに一杯奢ろう。
「あら! かっこいいわね」
え? 『かっこいい』って、何を言っているのですか? アーニャさん。
「本当。なかなかいかすわ」
馬艦長まで……
「お兄ちゃん。かっこいい」
ミクまで! この流れでいくと……
「カイトさん。みんなもこう言っている事だし、あれと同じ入れ墨を入れましょうよ」
やっばり、こういう展開になったか……
「待って下さい! ミールさん。北村さんに入れ墨を入れる話は、別のコピーと区別するためですよ」
芽依ちゃん。君なら止めてくれると思っていたよ。
「メイさん。それは分かっていますけど、おしゃれで入れ墨するのもいいじゃないですか」
良くない。
「ミールさん。同じデザインの入れ墨を入れたら、見分けがつかなくなるじゃないですか。違うデザインにしないと」
え? 止めてくれるのではないのか?
「そうでした。ではどうしましょう?」
「向こうの北村さんが『K』なのだから、こっちは『L』にして対抗しないと」
なんで『L』なら『K』に対抗できるのだ?
意味が分からないが……
「とにかく、入れ墨の話は作戦が終わってから考えよう」
爆煙の中から、球体機動兵器イワンが姿を現したのはその時だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる