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第十六章

捕らわれた芽衣

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 銀色に輝く触手は、芽依ちゃんの腰に巻き付いた。

「イナーシャルコントロール! マイナス二G!」
 
 重力制御で離れようとするが、ふりほどけない。

 イワンと芽依ちゃんの間で、触手は一直線に張りつめる。

「それならば」

 芽依ちゃんは、胴体を触手にからまれたまま、ロケット砲をイワンに向けた。

 だが、トリガーを押す前に、イワンが機体を高速で回転させる。

「きゃあああ!」

 芽依ちゃんは、回転に巻き込まれて振り回された。

 回転はすぐに止まったが、この時に芽依ちゃんが手放したロケット砲が地面に転がる。

「く! 放して!」

 自由になった両腕で、触手をがそうとするが、うまくつかめないようだ。

 イワンの装甲に小さな穴が開き、スピーカーが出てくる。

「無駄だ、森田芽依。その連続体マニピュレーターは、九十九式の力でも剥がせない」

 連続体マニピュレーターというのが、正式な名称のようだな。まあ、長いから触手でいいか。

「北村さん! 私はどうなってもかまいません。私ごと撃って下さい」
「無駄だ。俺だってイリーナを犠牲にできなかった。まして、俺よりも優しい海斗に、仲間を犠牲にする事などできない」

 カルルの言うとおりだ。芽依ちゃんごと撃つなんてできるわけない。

 こうなったら……

 ロケット砲を岩陰に隠し、僕は背中に背負っていたショットガンを抜いた。

 AA12の威力で、あの触手を切れるだろうか?

 僕は岩陰から飛び出した。

「出てきたな! 北村海斗」

 バルカン砲をかいくぐり、低空飛行でイワンに肉薄。

「どりゃあああ!」

 かけ声と同時に、銀色の触手に向かって弾丸を叩き込んだ。 

 ダメだ! まったく効いていない。

「無駄だ! イワンの連……ええっと……連続体マニピュレーターは、ショットガンごときでは断ち切れん」
「おい、カルル。どうでもいいが、その触手みたいな奴の名称長くないか? 途中でつっかえるぐらいなら、なんか略称使えよ」
「え? いや、俺もちょっとそう思っていたんだ。何か良い略称はないかな……ブツブツ……」

 よし! カルルが考え込んでいる今の内に……

 僕は触手の先端を掴み、渾身こんしんの力で引っ張る。

 触手は少しずつ芽依ちゃんの機体から離れていくが……

「その手に乗るかあ!」

 ちちい! 気づきやがった。

 イワンの機体から、さらに二本の触手が飛び出して僕の方へと向かってくる。 

 かろうじて、僕は触手をけられたが、二本の触手は芽依ちゃんの両腕に巻き付いた。

 人質とは卑怯な……と言ったところで『先にやったのはそっちだろ』と言われるだけだな……

 まてよ。こいつは意外と社会的信用とか世間体を気にする奴だったな。ならば、こう言ってやれば……

「カルル、おまえ……女の子に触手を絡みつかせるなんて……」
「どうした? 女を人質にするなど卑怯だとでも言いたいのか? 言っておくが、先にそれをやったのはこいつだからな」
「そんな事は言っていない。女の子に触手を絡ませるなんて……この……この……」
「ん? 何が言いたい?」
「この変態!」
「え? 変態……なんで?」
「女の子に触手なんか絡ませて、イヤらしい事をしようと企んでいるのだろう!」
「え? いや、そんな事は考えていない」
「嘘をつけ! 触手なんかを武器に使う奴は、太古よりスケベで変態と決まっている」

 根拠はエロゲーだけど……

「ち……違う! これは敵を拘束するために使っているのであって……それに、これは触手ではない」
「どう見ても、触手じゃないか」
「いや、これは触手ではなくて、連続タッチマニピュレーターと言って」
「連続タッチだと!? そのイヤらしい触手で、芽依ちゃんに連続してタッチする気だな」
「いや、言い間違いだ。連続タッチじゃなくて、連続体マニピュレーターと言ってだな……」
「触手と何が違う?」
「つまり、これは……触手のような動きをするマニピュレーターとして開発された機械で……」
「やっぱり、触手じゃないか」
「え? いや……」
「さあ言ってみろ。触手なんか使って、どんなエロい事をしようとしているんだ?」
「そんな事は、考えていない」
「考えていないのなら、その証拠として芽依ちゃんを解放しろ」
「わかった。今から、解放……ん? するわけないだろう!」

 ううん! もう少しだったのになあ。

「安心しろ。女を人質に降伏しろなどとは言わん。だが、おまえの力では、こいつを助ける事はできない」

 く! 確かにその通りだ。

「こいつを助けたかったら、ミクの式神でも連れてくることだな」

 あくまでも、ミクを引き摺り出したいようだな。
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