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第十七章

ブラック上司にはなりたくない

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 ミーチャが戦いたいと望むなら、僕にはそれを止める事はできない。

 だが、ミーチャはまだ知らない。人を殺す事の辛さを……

 ならば、一生知らないままでいさせたい。

 そう考えるのは、僕のワガママだろうか?

「隊長! 今がチャンスです」

 古淵の声が、僕の思考を中断させた。

「隊長。今のうちに、残りのOL10を落としましょう」
「古淵。そろそろ教えてくれ。OL10を優先的に落とす理由を」
「すべてを落とせば分かります」

 確かに残り二機だし、落とした方が早いな。それに何となく理由は分かるし……

 OL10やS131は、AIを搭載している。

 したがってワームホールが閉じて、誘導波が途切れても戦闘を継続できた。

 それに対して、今回投入してきた小型ドローンはAIを搭載していないタイプだという事はカタログと照合して判明している。

 そうなると、ワームホールが閉じた場合、OL10のAIが、小型ドローンをコントロールするものと考えられた。

 つまり、ワームホールが閉じて、さらにOL10を落としてしまえば、小型ドローンは戦闘を継続できなくなるはず。

「逃がしません!」

 芽依ちゃんの放ったワイヤーが、一機のOL10を捕らえた。

「でええぃぃぃぃ!」

 芽依ちゃんのワイヤーで動きを封じられたOL10に、橋本晶が切りかかる。

 OL10は右主翼を失い、海へと落ちていった。

 残るは一機。

 その一機は、海面に向かって急降下していた。

 その先にあるのは、小型ドローンの群。

 OL10がドローン群と合流されると面倒だな。

 と思ったその時、どこからか飛来した空対空ミサイルがOL10を撃破した。

 姿はまだ見えないが、小机准尉の疾風はやてが放ったミサイルなのだろう。

 とにかく、OL10はこれで全滅。

 後はワームホールを塞げば、誘導波が途切れて小型ドローンは無力化できるはず……あれ?

 今まで群を成していた小型ドローンは、個別にそれぞれ迷走している。

 すでにコントロールを失っているようだが?

「隊長」

 古淵の方を振り向く。

「水柱で見えませんが、ワームホールはすでに閉じているのではないのでしょうか?」

 なるほど。《はくげい》に連絡して砲撃を止めてもらった。

 水柱が収まると、そこにあったはずのワームホールはすでに無くなっている。

「ちちい、逃げられたか。次は、どこにワームホールが開くのやら?」
「大丈夫だよ、橋本君。次の出現先は、分かっているから」
「え?」

 彼女がそう言った直後、《はくげい》から通信が届いた。

『北村隊長。水中ドローン《わだつみ》二号機の近くに、ワームホールが開きました』
「そうか。それで攻撃は?」
『ワームホール内に、ミサイル二発を撃ち込むことに成功。現在、ワームホール内では激しい誘爆が続いています』

 詳しい戦果はドローンを送り込んでみない事には分からないが、おそらくワームホールはしばらく使用できないだろう。

「ワームホール無力化には成功した。これより機動服中隊は《はくげい》で弾薬とエネルギーの補給を受けてから、要塞攻撃に向かう。しかし、これ以上の戦闘継続不可能という者は、ここで申し出てほしい」

 誰も名乗り出ないな。

「戦闘継続不可能なんてとんでもない。まだまだ暴れたりないぐらいです」

 橋本君、分かったから日本刀をブンブン振り回すのはやめて……

「私も平気のへい子ちゃんです。まだまだ戦えます」

 芽依ちゃんも元気そうだな。

「ははは! この古淵、まだまだ若い人に負けられませんな」

 いや、古淵。あんただって若いだろう。

 それにしても、本当にみんな大丈夫なのかな?

 戦えない人を無理に戦わせるような、ブラック上司にはなりたくないし。

 確か九九式には、搭乗者のバイタルチェック機能があったな。
 
 これで搭乗者の疲労度が数値化されて、隊長機ではそれを確認できるはず。

 よし! 
 
 疲労度の一番高い隊員は、《はくげい》での待機任務を命じよう。

「バイタルチェック」

 ううむ、確かにみんな疲労度が低いな。

 ん? 一人だけ疲労度の高い人がいる。

 レッドゾーンとまで行かないが、イエローゾーンに入っているな。

 え? これ、僕のデータじゃないか。 
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