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呪殺師は可愛い男の子が好き

指導室1

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やしろ君。続きを読んでください」

 は! 氷室ひむろ先生に、名前を呼ばれて我に返った。

 いけない! 国語の授業中だというのに、考え事をしていた。

「ええっと……」

 ん? 臨席の渡辺君に、わき腹をつつかれた。

 渡辺君の方を見ると、『百六十ページ三行目』と書いたノートをかざしてくれている。

 ありがとう。渡辺君……

 臨席の優しいクラスメートのおかげで、なんとか授業を乗り切った。

 乗り切ったけど、氷室先生はそのまま許してくれそうになかった。

「社君。後で指導室へ来なさい」

 ヤバいな。この人には、女装を見られているから逆らえないし……

「失礼します」

 指導室に入ると、氷室先生が一人で待っていた。

 勧められるままに先生と対面する席に着く。

「社君。先生の顔をちゃんと見なさい」
「は……はあ」

 そんな事言ったって、氷室先生って美人だけど、なんか目つきが怖いし……

 きっと僕の事を、変態女装野郎だと思っているのだろうな。
 
「社君。授業に身が入っていないけど、何か悩み事があるのかしら?」
「はあ……その……」
「あるなら、言いなさい」
「その……言えません」

 だって霊能者協会には、守秘義務があるからなあ。

「次は、どんな服で女装しようか? とでも悩んでいたのかしら?」
「違います! だいたい先生。ちゃんと先輩たちに注意してくれたのですか? 昨日も女装させられたのですよ!」
「彼女たちは、君から女装すると言い出したと聞いたけど……」
「嘘です!」
「嘘なの?」
「嘘ですよ。僕は好きで女装しているわけじゃない!」
「どうして?」
「どうしてって……」
「だって、可愛いじゃない」

 だめだ。この人話が通じていない。

「僕は男ですよ」
「いいじゃない。そういう趣味の人もいるのだし」
「僕にそういう趣味はありません。だいたい気持ち悪いと思わないのですか? 男が女の格好をして」
「ううん……ハゲでデブの中年男が、美少女キャラのコスプレでもしたら、即刻焼却してやりたくなるほど気持ち悪いわね」
「そうでしょう」
「でもね。美少年の女装は、まったく平気というか、もっとやれというか……」

 この人は……

「先生」
「なに!? 社君、その目は? なんか冷たい視線」
「先生も、先輩たちと同じで、僕の女装を見たいとか考えているのですか?」
「か……考えていないわよ。そんな事」

 やっぱり、この人もそういう趣味か……

「じゃあ、今日の授業中に悩んでいたのは、無理矢理女装させられる事なのかな?」
「いえ。今回は、バイトの事です」

 厳密にはバイトとは違うのだけど、そう言った方が楽なのでそう言っている。

「バイト? ああ! 霊能者協会ね。だとすると、守秘義務とかがあって、私には話せないのかな?」
「そうです」
「そっかあ。社君が授業中に凄く悩んでいる顔をしていたから、何か力になって上げたいと思ってここへ来てもらったのだけど、私では力になれないのかな?」

 え?

「僕、そんな顔していました?」
「まるで、この世の終わりみたいな深刻な顔をしていたわよ」

 マジか? いや、正直明日の事考えると、怖くてずっと悩んでいたのは確かだが、顔に出ていたのか?

 だって、相手は悪名高い呪殺師ヒョーだよ。

 指名料十万を協会の口座に振り込まれて、返却先も分からない。
 
 しかも相手は僕の素性を知っている。

 もし、明日行かなかったら、呪いをかけられるかもしれない。
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