霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
108 / 314
呪殺師は可愛い男の子が好き

五年前

しおりを挟む
 巨大な屋敷の敷地内の地下に、昔掘られた坑道があった。

 みがき砂を採掘していた跡らしいが、今はもうほとんどの人から忘れられている。

 その忘れられた坑道の中に、私はいた。

 その中から、私は上の屋敷の主に向けて式神を放っていたのだ。

 今回私が受けた依頼は呪殺。脅しではなく、完全な殺害依頼。

 しかし、ただ殺すだけなら簡単だが、今回は殺害対象者に自分がこれから呪殺されると分からせてから、殺せという依頼だった。

 こういう依頼はたまにある。

 復讐や見せしめで呪殺依頼する者に多い。

 今回は復讐が目的だ。

 私は依頼を遂行するため、一週間前に対象者の元へ式神を送り『七日後に呪い殺す』と宣告しておいた。

 それに対して、向こうは霊能者協会に護衛を依頼。

 だが、この程度の事は想定内。

 霊能者協会なら屋敷の周囲に強力な結界を張るだろう。

 だが、私自身が結界内に入ってしまえば問題ない。

 屋敷の地下に坑道がある事も調査済み。

 私は坑道から結界内に侵入して式神を放ったのだ。

 想定外だったのは、護衛についていた御神楽姉妹の式神が意外と強力だった事。

 だが、式神が強いのなら術者を狙えばいいだけ。

 私は、ネズ子を放って術者を探させた。

 程なくして、ネズ子が術者を見つける。

「ヒョー様。御神楽姉妹の一人を見つけました」
「姉の方か? 妹の方か?」
「姉の槿です。近くに置いてある携帯電話に、名札が貼ってありました」
「携帯もあるのか。それは好都合」

 私はふところから憑代を取り出して床に叩き付けた。

「出でよ。式神」

 紙の憑代は見る見るうちに黒い大蛇の姿になる。

「行け。御神楽槿を捕えて来い」

 大蛇は坑道の天井を抜けて外へ出た。

 そのままネズ子の案内で御神楽槿のいる部屋に入り込む。

 大蛇の目を通して見ると、一人の若い巫女が和室の真ん中で結跏趺坐けっかふざしていた。

 大蛇は大きく口を開き、長い舌で巫女をからめ取る。

「しまった!」

 巫女はもがくがもう遅い。

 そのまま大蛇の口の中に引き摺りこむ。

 同時にネズ子が人の姿に変身すると、携帯電話を拾って大蛇の口の中に飛び込んだ。

 私はそれを確認すると大蛇の口を閉じる。

 後はネズ子に任せるとしよう。

 蛇の舌に絡み取られて、もがいている御神楽槿の前にネズ子が歩み寄る。

「初めまして。御神楽槿さんでちゅね?」
「そうよ。あなたがヒョー?」
「いえいえ。あたしはヒョー様の式神でちゅ。ネズ子と呼んで下さい」
「なにがネズ子よ。くっ! 放せ」
「いやでちゅね。ここは『クッ! 殺せ』と言わないと萌えないでちゅ」
「誰かそんな事。私にとって最も大切なのは私の命よ。殺せなんて、口が裂けても言わないわ」
「そうでちゅか」

 そこで、私は蛇の舌をゆるめて御神楽槿を放した。

「なんのつもり?」
「ここは大蛇の口の中でちゅ。口が閉じてしまえば、ここから逃れることはできないでちゅ」

 そう言ってネズ子は携帯電話を差し出した。

「私の携帯?」
「それで妹さんに、電話をかけてほしいでちゅ。今の状況を伝えるでちゅ」
「分かったわ」

 御神楽槿は携帯を操作した。

 ほどなくして相手が出る。

「もしもし。芙蓉。私よ。槿よ」
『お姉さま、どうしたのですか? さっきから、お姉さまの式神が止まっているのですが』
「ヒョーに捕まっちゃったのよ」
『なんですって!?』
「奴は大蛇のような式神を放ってきたわ。その式神に飲み込まれてしまったのよ」
『自力で出られないのですか?』
「無理よ」

 そこでネズ子は手を差し出した。

「電話を代わってほしいでちゅ」

 御神楽槿は、ネズ子に携帯電話を渡す。

「もしもし。御神楽芙蓉さんでちゅか? あたしは、ヒョー様の式神でネズ子と申しまちゅ」
『姉を人質にしたと、解釈していいのかしら?』
「そうでちゅ。さあ、御神楽芙蓉さん。お姉さまの命が惜しかったら……」
『惜しくないです』
「は? 今なんと?」
『惜しくないと言ったのです。勝手にそっちで、煮るなり焼くなりして下さい』
「だって。実のお姉さまでちゅよ」
『それがなにか? 私よりちょっと早く生まれただけの人が、どうかしましたか?』
「ええっと……仲の良いお姉さんの命が、危ないのですけど……」
『あのですね。兄弟姉妹だから、仲がいいなんて決めつけないでもらえませんか。迷惑なのですよ』
「ええっと……」

 ネズ子は、助けを求めるような視線を御神楽槿に向けた。

「妹さんに、嫌われていたのでちゅか?」
「そんなはずないわ。私は妹から、敬愛されているはずよ」
「でも、妹さんは、煮るなり焼くなり好きにしろと言ってまちゅ」
「なんですって! ちょっと電話を代わりなさい!」
「はいでちゅ」

 美神楽槿は携帯電話を受け取ると、一気にまくしたてた。

「ちょっと芙蓉! 煮るなり焼くなり好きにしろとはどういう事よ!?」
『そのままの意味ですよ。このままとうとくない犠牲となって下さい』
「ははあ、あんたさては支部長の椅子を狙っているのね」
『そんなつまらない地位なんて、興味ありません』
「じゃあなんでよ? 敬愛する姉のピンチなのよ。なんとかしなさいよ」
『はあ? いつから、私がお姉さまを敬愛しているなどと錯覚していたのですか? 私は昔からお姉さまが嫌いでした』
「え? 私……嫌われていたの?」
『なぜ今まで、嫌われている事に気が付かないのですか? 散々私の嫌がる事をやっておいて』
「何かやったかしら? ああ! プリンを勝手に食べた事なら謝るわ」
『あれも、お姉さまがやったのですね』
「あら? 墓穴だったかしら」
『幼稚園児の頃、私に何度もオネショの罪をなすりつけましたね』
「そんな昔の事……子供にはよくあることじゃない」
『小学生の時も、花瓶を割ったり、窓ガラスを割ったりした罪を私になすりつけましたね』
「そんな事あったかしら?」
『中学生のころ、自分の自転車がパンクしたからと言って、私の自転車に無断で乗っていきましたね』
「やあねえ。芙蓉ちゃんたら、細かい事を……そんな細かい事ねちねち言っていたら、彼氏できないわよ」
『高校生の時、私の付き合っていた彼氏にある事ない事ふきこんで、私がフラれるように仕向けましたね』
「だって北村君って可愛いし、私が付き合いたかったし……それにある事ない事なんて言ってないわよ」
『違ったのですか?』
「ない事ない事言ったのよ」
『よけい悪い!』

 激怒した御神楽芙蓉は、式神を操って姉の式神を殴りつけた。

「きゃあ! 私の式神になにするのよ!」
『本人に手が届かないから、代わりに式神を殴ったのです』
「このお」
『ああ! 私の式神を殴りましたね』
「お返しよ」

 そのまま、姉妹の式神同士での戦いとなった。

「妹の癖に生意気よ!」
『ちょっと早く、生まれただけで威張らないで! それに式神の性能は私の方が上です』
「姉より優れた妹などいねえ!」

 二人の喧嘩を、ネズ子はただオロオロと見守っているだけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...