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事故物件2
警備員の霊
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その日の仕事は、無難に終わった。
今回の物件は、半年以上借り手が着かない空き店舗。
そこにいたのは、勤務中に心臓麻痺で急死した警備員の霊。
自分が死んだことも知らないで、警備を続けていたわけだが……
「本日は、もう閉店しました。翌日お越しください」
店舗に入ってきた僕に懐中電灯を向けてそう言ったのは、六十代半ばの爺さんの幽霊。
ちなみに今は真っ昼間で、懐中電灯など必要ないのだが、本人は深夜だと思いこんでいるらしい。
まあ地縛霊なんてだいたいそんなものだけど、この爺さんが昼夜かまわず入ってくる人を追い払っているものだから、この店舗は借り手が着かなくなってしまったわけだ。
「警備員さん。僕、忘れ物しちゃって」
「忘れ物? お嬢ちゃんは、アルバイトの子?」
お嬢ちゃん! まあしょうがない。
今の僕は頭に黒髪ツインテールのウィッグを被り、白いプリーツスカートとブラウスの上に黒いベストをまとった姿。
これで男だと思われるわけがない。
人称代名詞は『僕』のままだけど、僕っ娘と思われたのだろう。
ちなみに魔入さんは、店の外からカメラを回しているが、幽霊爺さんはその事に気がついていないようだ。
「それじゃあしょうがない。一緒に行ってあげよう。どこに忘れたのだい?」
「ロッカールームです」
「では、着いて来なさい」
僕が爺さんについて店舗内に入って行くと、すぐ後を魔入さんがカメラを回しながら着いてくる。
さらに、魔入さんの助手が操縦するドローンも店内に入ってきたが、爺さんは気がつかない。
というより、認識ができていないようだ。
しばらくして……
「おかしいな? ロッカールームはこの当たりのはずだが……」
爺さんは周囲を見回した。
「やや! ロッカールームだけでない。事務所も店も無くなっている。ていうか、もう昼間ではないか!」
ようやく気がついたか……
爺さんは僕の方を向き直る。
「すまないが、私の勤務時間は終了していた。もう疲れたので家に帰って寝るから、忘れ物は勝手に探してくれ」
「帰るのはいいですが、ロッカーが無いのにどうやって私服に着替えるのですか?」
「え? そうだ。どうすればいいのだ? あの中に定期もあるのに……」
「警備員さん。今回の勤務を始めてすぐに、胸が苦しくなりませんでしたか?」
「え? なぜそれを知っている? 確かに死ぬほど苦しくなったが……」
そりゃあそうでしょ。その後、本当に死んだのだから……
「しかしあれは、すぐに治まったぞ」
「治まったのは、あなたが肉体から離れたからですよ」
「肉体から離れた? 何を言っているのだ?」
僕はベストの内側に手を突っ込んだ。
退魔銃を握りしめる。
万が一、爺さんが自分の死を知った後に悪霊化したら、ただちに払えるように……
今回の物件は、半年以上借り手が着かない空き店舗。
そこにいたのは、勤務中に心臓麻痺で急死した警備員の霊。
自分が死んだことも知らないで、警備を続けていたわけだが……
「本日は、もう閉店しました。翌日お越しください」
店舗に入ってきた僕に懐中電灯を向けてそう言ったのは、六十代半ばの爺さんの幽霊。
ちなみに今は真っ昼間で、懐中電灯など必要ないのだが、本人は深夜だと思いこんでいるらしい。
まあ地縛霊なんてだいたいそんなものだけど、この爺さんが昼夜かまわず入ってくる人を追い払っているものだから、この店舗は借り手が着かなくなってしまったわけだ。
「警備員さん。僕、忘れ物しちゃって」
「忘れ物? お嬢ちゃんは、アルバイトの子?」
お嬢ちゃん! まあしょうがない。
今の僕は頭に黒髪ツインテールのウィッグを被り、白いプリーツスカートとブラウスの上に黒いベストをまとった姿。
これで男だと思われるわけがない。
人称代名詞は『僕』のままだけど、僕っ娘と思われたのだろう。
ちなみに魔入さんは、店の外からカメラを回しているが、幽霊爺さんはその事に気がついていないようだ。
「それじゃあしょうがない。一緒に行ってあげよう。どこに忘れたのだい?」
「ロッカールームです」
「では、着いて来なさい」
僕が爺さんについて店舗内に入って行くと、すぐ後を魔入さんがカメラを回しながら着いてくる。
さらに、魔入さんの助手が操縦するドローンも店内に入ってきたが、爺さんは気がつかない。
というより、認識ができていないようだ。
しばらくして……
「おかしいな? ロッカールームはこの当たりのはずだが……」
爺さんは周囲を見回した。
「やや! ロッカールームだけでない。事務所も店も無くなっている。ていうか、もう昼間ではないか!」
ようやく気がついたか……
爺さんは僕の方を向き直る。
「すまないが、私の勤務時間は終了していた。もう疲れたので家に帰って寝るから、忘れ物は勝手に探してくれ」
「帰るのはいいですが、ロッカーが無いのにどうやって私服に着替えるのですか?」
「え? そうだ。どうすればいいのだ? あの中に定期もあるのに……」
「警備員さん。今回の勤務を始めてすぐに、胸が苦しくなりませんでしたか?」
「え? なぜそれを知っている? 確かに死ぬほど苦しくなったが……」
そりゃあそうでしょ。その後、本当に死んだのだから……
「しかしあれは、すぐに治まったぞ」
「治まったのは、あなたが肉体から離れたからですよ」
「肉体から離れた? 何を言っているのだ?」
僕はベストの内側に手を突っ込んだ。
退魔銃を握りしめる。
万が一、爺さんが自分の死を知った後に悪霊化したら、ただちに払えるように……
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