霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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事故物件2

母さん! なんて事を……

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 ボロアパートの一室で、老人が布団を頭から被って怯えている様子がテレビに映っていた。

 そこへ鳴り響く電話の着信音。

 老人が電話を取らないでいると、留守電に切り替わる。

 中年男の恫喝するような声が、留守電に吹き込まれた。

『津嶋(仮名)さーん! 居ますか!? 本日三時までに入金してくださあい!』
「ひいいい!」

 布団を被った老人はますます怯える。

 そこへ六道魔入のナレーション。

『連日のように掛かってくる闇金からの督促電話。津嶋さん(仮名)は、次第に心労が重なっていきました』

 次の場面で、警備員の制服を着た老人が、勤務先で心臓麻痺を起こして倒れるという再現映像がテレビに映った。

「怖いわね」

 突然、僕の背後から樒の声が……

 心霊現象よりこっちの方が怖い。

「樒。いつの間に、僕の部屋に入って来たんだよ?」
「いや、一応ノックはしたのだけど、気がつかなかったみたいだから」

 テレビに集中しすぎたか。

「で、こんな夜中になんの用?」
「夜這いに……」
「帰れ!」
「じゃなくて、今夜は魔入さんのテレビあるから、優樹と一緒に見たくて来たら、優樹は部屋で見ているってお母さんから聞いて」

 何で僕と一緒に……いや、それより……

「樒。まさか、今夜のテレビに僕が出ている事を、母さんに話したのか?」
「え?」
「話したのか?」
「優樹。ひょっとして、お母さんに隠していたの? テレビに出たこと」
「そうだよ! 話しちゃったのか?」
「話してないわよ」

 なんだ。

「だって、優樹のお母さん、知っていたわよ。あんたがテレビに出たこと」

 なぬ?

「私が来たときには、リビングのテレビに『六道魔入の怪奇レポート』が映っていたし、お母さんは嬉しそうに『今夜、優樹が出るのよ』と言っていたし」

 うわわわわ! あんな恥ずかしい姿を親に見られるなんて……

「SNSで、親戚や友達に自慢しまくっていたそうよ」

 母さん! なんて事を…… 

「それにしても怖いわね。これ」

 樒がテレビを指さす。

「樒。闇金が怖いの?」

 まあ、普通の人は闇金を怖がると思うけど、樒ってどっちかというと、将来は闇金側の人間になりそうだし……

「いや、闇金なんて怖くないけど」

 だろうな。

「こんなデマを、捏造するマスコミが怖いと言ったのよ」

 同感。

 この後、爺さんが闇金の社長宅に化けてでるシーンがあったけど、もちろんこんな事は現実には起こっていない。

「ところで、魔入さんからまた仕事の依頼があったんだって?」
「うん。さっきメールで」
「引き受けるの?」
「うん。引き受けたくないけど……」

 引き受けないと、美少女霊能者の正体が僕だとばらされかねないし……

「優樹。イヤそうに言っているけど、実は女装趣味に目覚めたなんて事は?」
「ない! 断じてそんな事はない!」
「分かった、分かった。で、仕事はいつ?」
「明後日だけど、樒は空いている?」
「空いているけど、無難な霊ばかりで退屈なのよね。いっそ、私もテレビに出してもらおうかしら」
「いや、顔が映ったらまずいだろ」
「だから、私は男装して」
「何も、男装しなくても……」
「だからさ、優樹の女装見た人が、付きまとってくるかもしれないじゃない。だから私が男装して『彼氏』だと言っておけば、そういうの減るかもよ」
「まあ……それなら……魔入さんに相談して……あれ?」
「どうしたの?」
「メールが入っている。魔入さんから」

 スマホを操作してみると……

「明後日、樒は来なくてもいいって」
「どうしてよ?」
「今度の物件は、ディレクターが直接指定した物件だって」
「それで?」
「なんでも、この物件の霊は危険がないという事が確認されているので、護衛は特に必要ないと……」
「なにそれ? そもそもどうやって危険がない事を確認したというのよ?」
「さあ?」
「まあ、いいわ。明後日は私、家で待機しているから、危なくなったら呼んでね」
「分かった」

 まあ、ディレクターさんが安全を保証してくれるのだから、大丈夫だろう。


 と、この時はそう思っていた。
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