霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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嫌悪の魔神

タトウ

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「奥様。ちょっとこちらへ……」

 ん? 樫原の声の方へ目を向けると、隣室の扉を開き手招きしている。

 なんだろう?

「なんなの? 樫原?」

 婦人が立ち上がり隣室へ向かう。

 僕も立ち上がると……

「君は来なくていい! そこで待っていろ! しっ! しっ!」

 人を犬みたいに……!

 寒太も着いていくが、樫原には見えないのでどうにもできないのだろうな。
 
 扉が閉じて、僕だけが部屋に取り残される。

 寒太の霊が扉をすり抜けて出てきたのは、数分後。

「樫原の奴が、おまえの事をインチキ霊能者とか言っていたぞ」
「なに!?」
「おまえ、インチキなのか?」
「あのなあ、もし僕がインチキだったら、君の姿も見えないし、声も聞こえないのだが……」
「そういう事じゃなくてさ、なんか霊能力を利用して大金を巻き上げる奴がいるって話だぞ。おまえが急に俺ん家に来たいとか言い出したのは、ママから金を巻き上げるつもりだったのか?」

 う! そういう目で見られていたのか。

 つくづく、樒が一緒にいなくて良かった。

「寒太……そういう霊能者がいるのは事実だ。だが、僕はそんな事はしない」

 隣室の扉が、突然開いたのはその時。

 婦人がツカツカと僕の方へ歩み寄る。

 なんか、ややこしくなりそう。

「ぼうや。寒太は今どこにいるの?」
「ですから、寒太君は行方不明で……」
「肉体ではなくて、霊体の方よ」

 僕は寒太のいる方を指さした。

「ここにいますよ」

 不意に樫原が詰め寄ってきた。

「本当だろうな? 我々に霊が見えないのをいいことに、出鱈目を言っているのではないのだろうな?」
「困ったなあ。どうしたら、信じてもらえますか? 樫原さん」
「なに!? どうして俺の名を?」
「ここにいる寒太君に聞いたのですが、信じてもらえましたか?」
「いや、それぐらいは調べれば分かるはずだ」
「しょうがないな」

 僕は寒太の方を向く。

「寒太しか知らない樫原さんの秘密とかないか?」
「んん……? あるけど」
「どんな?」
「背中の刺青タトウ

 刺青タトウ!? やはり樫原ってスジの人なのか?

 やだな、関わりたくないな。

「ええっと、樫原さんの背中に刺青タトウがあると寒太君が言っていますが」

 樫原は、顔にギョっとした表情を浮かべた。

 あ! ひょっとして秘密にしていたのかな?

「すみません。刺青タトウの事は知られたくなかったのですか?」
「いや……別にかまわんが……」
「坊や。樫原に刺青タトウがある事ぐらい知っているわよ」
「そうだったのですか?」
「ていうか、刺青タトウが、家の警備員になる採用条件なのだから」
「え!? 刺青タトウが採用条件? 普通逆では?」
「警備員に刺青タトウがあると、いろいろと便利なのよ」

 どう便利なのか、あえて追求はしないでおこう。

 ん? 寒太がニヤニヤしているが……

「あのさあ、この事ママは知らないのだけど、樫原の刺青タトウ、実は身体に絵を描いただけなんだよ。だから風呂に入ったら、落ちちゃうんだ」

 なるほど。

「樫原さん、ちょっと耳を貸して」
「なにか?」
「あなたの刺青タトウ、実はボディペインティングだと寒太君が言っていますが、そうなのですか?」

 樫原の表情が一気に強ばったところを見ると、事実のようだな。

「わかった。君がインチキではないことは認める。だから、そのことは……」
「はいはい、黙っていますよ」

 樫原は婦人の方を振り向く。

「奥様。この子がインチキというのは、私の邪推だったようです」
「そう」

 そこで婦人は僕の方を向く。

「坊や。話を戻すけど、寒太は今この部屋にいるのね?」
「ええ」

 婦人は隣室の扉を指さす。

「私と樫原が、隣で話をしていた時、話を盗み聞きしに行かなかったかしら?」
「行きましたよ。僕の事を、インチキと言っていましたね」
「う! それは私ではないわ。樫原よ。それより、他に何か聞かなかった?」

 僕は寒太の方を向いて言った。

「他に何か聞いたか?」

 寒太は首を横にふる。

「聞いていないそうです。寒太はすぐに部屋から出てきたし……」
「そう。良かった」

 どうやら、寒太が部屋から出た後で何かよからぬ話をしていたみたいだな。
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