怪盗ミルフィーユ

津嶋朋靖(つしまともやす)

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なんで、あんたがここにいる?

戦闘中〈ショコラ〉

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 タルトは砲撃手席に掛けたまま目を閉じていた。
 額から少し離れたところに彼の左手のこぶしが握られている。
 こぶしからは、金色の鎖につながれた水晶の振り子が垂れ下がっていた。タルトがオーパーツを捜す時に使っている愛用の振り子だ。
 不意にタルトは目を開いた。
 振り子が揺れ出す。
 最初は小さな揺れだった。次第に揺れは大きくなる。
 振り子の揺れ幅が安定したとき、タルトはつぶやいた。
「つかまえた」
 次の瞬間、彼は右手のトリガーボタンを続け様に押した。
 待つこと数分。反応が帰って来た。
 二つの時間圧縮フィールドを通過した事と、海賊船との相対速度から起きるドップラーシフトを考慮してあたしは反応を分析する。
 レーザーが何に当たったかは、これで分かるわけだ。
 程無くして結果が出る。ベリリウム、タングステン、炭素、アルミニウム、鉄、シリコンそれに水素の反応を確認した。
 ほとんど、宇宙船の構造材に使われている元素だ。
「やったわ! シールドを、突き抜けて本体に命中している」
「ショコラ……炭化水素化合物の反応はなかったか?」
 弱々しい声でタルトが尋ねた。
 こんな時でも、相手の事を心配しているのね。
「大丈夫! 人間には当たってないわ」
「そうか。よかっ……」
 不意に彼の言葉が途切れ、水晶の振り子が膝の上に落ちた。
 続いて、タルトは砲撃手席から転げ落ちる。
「きゃあー! タルト! しっかりして」
 あたしは、床に倒れたタルトの元に駆け寄った。抱き起こそうとしたけど、ほっそりした体形のわりにはタルトの体は重い。
 あたしの力じゃ、上半身を起こして支えるのがやっとだ。
「無理もないで。何時間も掛けて、ダウジングで相手の位置を探っとったんや。疲れたんやろ。部屋へ通れってって寝かしたり」
 ミルがコンソールを操作すると、メディカルロボットがコックピットに入って来た。そのまま、タルトの体を軽々と持ち上げ、担架に乗せて出て行く。
「ミル。あたしもついてくね」
 コックピットを出かかったあたしに、ミルが声を掛けた。
「ついていくのはええけど、寝てるすきにタルトの唇、奪ったらあかんでぇ」
「するかあぁぁ!!」
 扉が閉まる寸前にあたしは叫んだ。
 狭い通路を器用に抜けてロボットは担架を押して行く。
 その上でタルトは死んだように眠っていた。大丈夫かな?
「心配ない。すこし眠ったら回復する」
「本当ですか?………え!?……」
 あたしは周りを見回した。狭い通路に、あたしとロボットしかいない。今の声……誰? 中年の男の人の声だったけど……空耳かな? 程無くして、ロボットはタルトの部屋に入った。
 タルトが、あたし達の仲間に加わってから、四ケ月過ごした部屋は、わりとこざっぱりしていた。あたしやミルの部屋と比べて、整頓が行き届いている。かといって、殺風景でもない。
 ホログラフィーなど、程よく配置された装飾が、部屋の主の趣味の良さを物語っている。でも、やっぱり男の子の部屋なんだから、捜せばエッチ本とかエッチソフトが出てくるんじゃないかしら?
 いや、いやタルトに限ってそんな事は……ガサ入れしたい気持ちを押さえつつ、あたしはベッドに横たわったタルトの元に寄った。
 静かな寝息をたてて眠るタルトの枕元に、小さなサボテンの鉢が置いてある。
 鉢の周りに付いている七色のLEDが、仕切りに明滅していた。
 このLEDは、サボテンに繋いだ電極からサボテンの感情を読み取って明滅するらしい。サボテンも、タルトを心配しているのだろうか?
 あれ!? 二十一個のLEDが、全部真っ赤になった。
 怒ってる? いや……これは、サボテンが危険を察知した時にこうなるって、前にタルトに聞いた。
 ガクン! 突然、部屋全体が揺れた。
「わわわっ!」
 攻撃を受けたんだ!! あたしは、バランスを崩してベッドに倒れ込む。目を開けると、数センチ先にタルトの顔があった。

 わー! 急接近!! あたしの心臓は、爆発しそうなほど脈打つ。

「ううん」
 タルトが呻いた。
「ごめん! 起こしちゃった?」
 あたしはパッとベッドから離れる。
 動悸は、まだ治まらない。
「ううん……み……」
 タルトは目を開けずに呻いた。
「どうしたの? どっか痛いの?」
「……み……」
「水が欲しいの?」
「ミル……さん」

 ピシ!!
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