1 / 2
プロローグ
訪問者
しおりを挟む
「ぜってーやだ!断固拒否、お断り申し渡す!」
俺の怒鳴り声にポコリナは強風を前にしたように両眼を閉じ、無表情になった。
「なんでだよ、何が不満なんだよ!何も悪いこと無いじゃないか!」
彼女の目が開くと今度は俺が目を閉じる番だった。
事の発端はポコリナが王城に招待されたという事だった。
「おおよかったな、行ってら」
俺の言葉に魔女はかぶりを振った。
「行ってらじゃないよ、あんたも来るんだよホリィ」
「はぁ?」
「王国に訪れる未曽有の危機を救った事に対して陛下から直々にお言葉とご褒美がもらえるんだ、勿論ごちそうもあるし、宴だってあるんだぞ」
うっとりするようにポコリナは言ったが俺はそんな気持ちにはならなかった。
「まあ俺は辞退するからよ、お前だけで行って来いよ。なに俺に遠慮はいらないぞ」
俺の言葉に魔女は目をしばたたかせ、いったい何を言っているのか理解しようとしている風に首を傾げた。
「何を言っているんだ、駄目だぞ。あたしと従者であるホリィ、あんたが招待を受けているんだ、断るなんて無礼な事できないんだ」
「知らん、ご無礼をお許しくださいってお伝えください」
「待ってくれよ、頼むよ!従者だろう、今回ばかりは従ってくれよ!」
何て言い草だ、今回ばかりはだと?
「ぜってーやだ!断固拒否、お断り申し渡す!」
俺の怒鳴り声にポコリナは強風を前にしたように両眼を閉じ、無表情になった。
「なんでだよ、何が不満なんだよ!何も悪いこと無いじゃないか!」
彼女の目が開くと今度は俺が目を閉じる番だった。
「何が悲しくてお前らの親玉にご挨拶しなきゃならんのだ、俺が陛下として敬愛する方は既にいるんだよ!」
「べ、別に敬愛しろって言ってるんじゃないよ、ただお言葉と褒美を賜るだけで、なにも悪い事ないじゃないか」
「いやいやどこの誰だかは知らねえけど、お言葉とやらを偉そうにのたまわられたら、僕笑っちゃうかもしれませんよ?そっちの方が無礼になるかもなあ?」
「ホリィは陛下の事を誤解しているよ、陛下は本物の賢王なんだ……」
ポコリナの言葉はそこで沈黙に飲み込まれ、彼女は何かを警戒するように虚空を見回す。
嫌な予感がした、少し前のあの化け物が現れたときの様だったからだ。
「どうした?瘴気が増えてるのか?」
俺の問に彼女は不安げに眉をひそめた。
「い、いや、瘴気は増してはいないんだ、けど何か不自然なんだ、このおかしなマナの動きはいったい何なんだ……」
俺はため息をついた、こいつらは時々ペテン師でしかなくなるのだ。見えない何かで他人を不安に陥れる悪い奴だ。
「またそういうのかよ、もういい……」
だが俺の言葉もそこで途切れた、ポコリナのいう事かどうかはわからないが明らかに不自然なものが目の前に現れたからだ。
老魔法使いというべき爺の事を俺は知っていた。
「だ、誰だ、あんたは!」
その爺は俺だけではなくポコリナにも見えているようで、彼女は困惑したように叫んだ。
俺をこの世界に攫ってきた張本人である王女、その召使だか何だか、名前は確か…。
「テメー、マリクだな、クソ王女の手下のクソ爺!」
沸騰したかのような泡立つ感覚がつむじからつま先に駆け抜けた。その後は純粋な怒りのみだった、デスクの上にあった詰めたばかりのキノコの薬品付けを手にすると、力の限りで爺に投げつけた。
だがその結果は破裂音を響かせて窓から出て行った瓶詰だけだった。
爺はただただ茫然と俺の顔に見入るだけで何ら反応を示さなかったのだ。
「ペルンの…?だ、だけどどうやってここに…」
ポコリナの困惑と焦りがない交ぜになった表情が唐突に見た事ない程に怒りと嫌悪に満ちたものにとってかわられた、正直魔女が他人にこんな顔をするところを初めて見た気がする。
「なんて破廉恥な真似を!」それは怒鳴り声だった。「魔術師として最悪の禁忌に手を出すなんてペルンは、ペルン王家はいったいどこを向いているんだよ!」
よくわからない、だが目のまえにいる爺は許されない行為に及んだようだ、もっとももともと俺に対する行為は許されないものだと俺は信じていたが。
「わかっているのか老師!あんただってこのまま消えるんだぞ!魔術師としての最期がこんなものであって良いわけがないじゃないか!」
怒りのまま声を張り上げるポコリナの目じりにはついには涙が滲んでいた、それだけ罪深い事なのだろうか。
だが彼女の言葉にもマリクは苦々しい視線を俺に向け、それから失意と苦悶に目を伏せた。
「陛下、ミーナ殿下、こやつは生きておりました…、どうかどうか、それにお気づきになられ、必ずやお見つけ下され、じいの死を踏み越え、必ず…」
爺の言葉は最後まで形にならなかった、その姿が黒い靄の中に消えて、いや黒い靄そのものにとってかわって跡形もなくなったからだった。
残ったのはいつもの魔女の住処と、唐突に不快な訪問を受け、勝手に消えるという意味わからない体験に困惑する俺、そして全身の毛を逆立てさせているかのような怒り心頭なポコリナだけだった。
その怒りそのままでポコリナは俺に視線を向けた、正直その迫力はなかなかだと思った。
「ホリィ、すぐに王都に発つよ、どのみち報告もあるし陛下にもあわなきゃならないけどそれ以上にいろいろ必要になった」
「な、勝手に…」
「わがままは無しだよ従者!何が何でも従ってもらうから、いいね!」
世の中にはNoを言えない雰囲気があるもので、今がそうだった。だから別にビビったわけじゃない。
思わず頷いてしまった俺はそんな風に思う事にした。
俺の怒鳴り声にポコリナは強風を前にしたように両眼を閉じ、無表情になった。
「なんでだよ、何が不満なんだよ!何も悪いこと無いじゃないか!」
彼女の目が開くと今度は俺が目を閉じる番だった。
事の発端はポコリナが王城に招待されたという事だった。
「おおよかったな、行ってら」
俺の言葉に魔女はかぶりを振った。
「行ってらじゃないよ、あんたも来るんだよホリィ」
「はぁ?」
「王国に訪れる未曽有の危機を救った事に対して陛下から直々にお言葉とご褒美がもらえるんだ、勿論ごちそうもあるし、宴だってあるんだぞ」
うっとりするようにポコリナは言ったが俺はそんな気持ちにはならなかった。
「まあ俺は辞退するからよ、お前だけで行って来いよ。なに俺に遠慮はいらないぞ」
俺の言葉に魔女は目をしばたたかせ、いったい何を言っているのか理解しようとしている風に首を傾げた。
「何を言っているんだ、駄目だぞ。あたしと従者であるホリィ、あんたが招待を受けているんだ、断るなんて無礼な事できないんだ」
「知らん、ご無礼をお許しくださいってお伝えください」
「待ってくれよ、頼むよ!従者だろう、今回ばかりは従ってくれよ!」
何て言い草だ、今回ばかりはだと?
「ぜってーやだ!断固拒否、お断り申し渡す!」
俺の怒鳴り声にポコリナは強風を前にしたように両眼を閉じ、無表情になった。
「なんでだよ、何が不満なんだよ!何も悪いこと無いじゃないか!」
彼女の目が開くと今度は俺が目を閉じる番だった。
「何が悲しくてお前らの親玉にご挨拶しなきゃならんのだ、俺が陛下として敬愛する方は既にいるんだよ!」
「べ、別に敬愛しろって言ってるんじゃないよ、ただお言葉と褒美を賜るだけで、なにも悪い事ないじゃないか」
「いやいやどこの誰だかは知らねえけど、お言葉とやらを偉そうにのたまわられたら、僕笑っちゃうかもしれませんよ?そっちの方が無礼になるかもなあ?」
「ホリィは陛下の事を誤解しているよ、陛下は本物の賢王なんだ……」
ポコリナの言葉はそこで沈黙に飲み込まれ、彼女は何かを警戒するように虚空を見回す。
嫌な予感がした、少し前のあの化け物が現れたときの様だったからだ。
「どうした?瘴気が増えてるのか?」
俺の問に彼女は不安げに眉をひそめた。
「い、いや、瘴気は増してはいないんだ、けど何か不自然なんだ、このおかしなマナの動きはいったい何なんだ……」
俺はため息をついた、こいつらは時々ペテン師でしかなくなるのだ。見えない何かで他人を不安に陥れる悪い奴だ。
「またそういうのかよ、もういい……」
だが俺の言葉もそこで途切れた、ポコリナのいう事かどうかはわからないが明らかに不自然なものが目の前に現れたからだ。
老魔法使いというべき爺の事を俺は知っていた。
「だ、誰だ、あんたは!」
その爺は俺だけではなくポコリナにも見えているようで、彼女は困惑したように叫んだ。
俺をこの世界に攫ってきた張本人である王女、その召使だか何だか、名前は確か…。
「テメー、マリクだな、クソ王女の手下のクソ爺!」
沸騰したかのような泡立つ感覚がつむじからつま先に駆け抜けた。その後は純粋な怒りのみだった、デスクの上にあった詰めたばかりのキノコの薬品付けを手にすると、力の限りで爺に投げつけた。
だがその結果は破裂音を響かせて窓から出て行った瓶詰だけだった。
爺はただただ茫然と俺の顔に見入るだけで何ら反応を示さなかったのだ。
「ペルンの…?だ、だけどどうやってここに…」
ポコリナの困惑と焦りがない交ぜになった表情が唐突に見た事ない程に怒りと嫌悪に満ちたものにとってかわられた、正直魔女が他人にこんな顔をするところを初めて見た気がする。
「なんて破廉恥な真似を!」それは怒鳴り声だった。「魔術師として最悪の禁忌に手を出すなんてペルンは、ペルン王家はいったいどこを向いているんだよ!」
よくわからない、だが目のまえにいる爺は許されない行為に及んだようだ、もっとももともと俺に対する行為は許されないものだと俺は信じていたが。
「わかっているのか老師!あんただってこのまま消えるんだぞ!魔術師としての最期がこんなものであって良いわけがないじゃないか!」
怒りのまま声を張り上げるポコリナの目じりにはついには涙が滲んでいた、それだけ罪深い事なのだろうか。
だが彼女の言葉にもマリクは苦々しい視線を俺に向け、それから失意と苦悶に目を伏せた。
「陛下、ミーナ殿下、こやつは生きておりました…、どうかどうか、それにお気づきになられ、必ずやお見つけ下され、じいの死を踏み越え、必ず…」
爺の言葉は最後まで形にならなかった、その姿が黒い靄の中に消えて、いや黒い靄そのものにとってかわって跡形もなくなったからだった。
残ったのはいつもの魔女の住処と、唐突に不快な訪問を受け、勝手に消えるという意味わからない体験に困惑する俺、そして全身の毛を逆立てさせているかのような怒り心頭なポコリナだけだった。
その怒りそのままでポコリナは俺に視線を向けた、正直その迫力はなかなかだと思った。
「ホリィ、すぐに王都に発つよ、どのみち報告もあるし陛下にもあわなきゃならないけどそれ以上にいろいろ必要になった」
「な、勝手に…」
「わがままは無しだよ従者!何が何でも従ってもらうから、いいね!」
世の中にはNoを言えない雰囲気があるもので、今がそうだった。だから別にビビったわけじゃない。
思わず頷いてしまった俺はそんな風に思う事にした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる