君を奪った暁へ。

音波 桜咲

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昔ばなし

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白本先生こといっくんとは、今から7年前、私が10歳、いっくんが18歳の時に知り合った。 
その頃は私の家族は悲惨なことになっていた。家の中は嫌で嫌で、
1日中外に出てた日もあった。
「ねぇ、君。こんな時間に何してるの?」
今は大体夜中の5時。いや、朝方?
「お兄ちゃんこそなにしてるの?」
「俺は太陽を見に来た。」
へんなの。不思議とこの人を怖いとは思わなかった。
「私も」
「嘘だろ家出だろ」
なんだなんだ。この人なんだ。
「家出じゃないよ、お父さんとお母さんを想って離れたの!」
「なんだそれ」
「お父さん、いつもお母さんの殴るから怖くて逃げたの!」
思わず叫んじゃった。
「それ、怖いだけだろ。お母さんが可哀想だ、今すぐ戻れ」
なんだ、こいつ初対面のくせに色々言いやがって。
「あなたには分かんないもん!お父さん酷いもん!仲直りして欲しいもん!!」
「俺にも分かるし」
その言葉の意味が分からなかった。考えようとした時。
「あ、朝焼けだ」
山の後ろから昇る太陽はとてもとても美しかった。
「暁だな」
「なあに?あかつきって」
「太陽の昇る前のほの暗い頃のこと」
「意味わからない」
「いいよ、今は。いつか分かればそれでいい」
やっぱりこの人変だ。でも、一緒にいると心が落ち着く。
「ねぇ、お兄ちゃん。明日もここ来る?」
「多分ね、でもお前は寝てろ、チビのまんまだぞー」
「お前じゃないし!永絆だし!」
「へぇー。じゃあ、『なず』ね。あ、俺は一稀。白本一稀」
「じゃあ、『いっくん』ね!」
そうやって、2人は毎日ここに来るようになった。暁を見るために来たのに、いつの間にかいっくんと会えるのが楽しかった。
3ヶ月が経った12月。
「あのさ、なず」
どうしたんだろう。いつもより声が低い。
「今日でお別れ」
「え?」
理解出来なかった。正確には理解したくなかった。
「どうして?なんで?」
「俺受験生だろ、それで東京行く」
「そっか」
いっくんは東京の大学に行くんだ。私は泣かない。泣いたら、呆れられる。
「じ、じゃあさ、太陽が昇るまでお話しよ!?いいでしょ?ね!?」
1時間程経っただろうか。徐々に明るくなってゆく。やめて。あぁ、終わる。お別れだ。
「なず?」
泣かないって決めたのに。泣いちゃった。
「また会うから。絶対会いに行くから」
ひたすら泣き続けた。暁がもうすぐ終わる。日が昇った瞬間、その眩しさに目を瞑った。そして、開けた時には行っくんは消えていた。昇ってゆく太陽を私はただただ見ていた。
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