28 / 91
🌹『翠玉のケエス:芽吹』🌹 本編 💎 The EMPEROR:U 💎
Drop.010『 The EMPEROR:U〈Ⅰ〉』【2】
しおりを挟む
もしかしなくとも、雷が法雨の前に姿を現さない理由は、雷が法雨に対して気分を害したままだから、ではないか――。
雷の名刺を見やりながら、法雨はふと、そんな事を思ったのだ。
(――もし、そうだとしたら、お詫びの機会を頂く事自体が迷惑よね。――ううん。でも、そうじゃなかったら、このままにしておきたくないし……。――と云っても、アタシがどれだけ念じたって雷さんの気持ちは分からないし……。――まずは、アタシが連絡しても迷惑じゃないかって事だけでも、あの子たちに訊いてもらおうかしらね……)
そして、そんな結論に至った法雨は、中空にやっていた視線を再び名刺に戻し、雷の名を見つめる。
――オオカミ族の彼。
――見ず知らずであるにも関わらず、一切の迷いなく助けに駆けつけてくれた、法雨の救世主。
そう云えば、子供の頃に読んでいた絵本では、囚われの姫には、そんな、――姫を救うべく悪の城へとやってくる、勇敢な王子様や勇者がつきものだった。
そして、そんな勇敢な者たちには、ライオン族やオオカミ族などの亜人が抜擢される事が多かった。
(――王子様ねぇ……。確かに、勇敢で救世主らしくもあるけれど……、でも……、――あの人のイメージは……王子様でも勇者でもないわねぇ……。――……あぁ、そうだわ。――あの人のイメージは、王子でも勇者でもなく、――狩人って感じじゃないかしら)
雷を想い起こしたついで――、幼い頃を楽しませてくれた絵本たちと彼の“イメージ”について相談した後、そんな結論に至ると、法雨は、ふふ、と小さく笑った。
(――“狩人”……。――そうね。――オオカミにも、あの人にも、――そのイメージがピッタリだわ)
💎
「――お客様。お水を失礼いたします」
「――あぁ。有難うございます」
季節の移り変わりは相変わらずと気が早いもので――、梅雨が駆け抜けていったと思えば、その夏らしい気候はついに夜にまで届き始めていた。
そんな初夏の夜――、店内の賑わいも少しばかり和らいできた頃合いに、バーのスタッフであるユキヒョウ族の桔流は、妙に見覚えのある顔立ちの客に、レモンの香るグラス水を提供すると、続けて問うた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
すると、その客は、丁寧にメニューを指し示しながら、低く穏やかな声で言った。
「――そうですね。――じゃあ、コチラを」
「サマーレインですね。かしこまりました。――ご注文は、以上でよろしいですか?」
「えぇ。――とりあえず、それでお願いします」
桔流は、その季節限定のクラフトビールの名を読み上げ、客の注文を受け取ると、改めて一礼をし、テーブルを離れようとした。
その時――。
そんな桔流を呼び止めるようにして、その客がひとつ声をかけた。
「――あの、――ひとつよろしいですか?」
桔流は、それを不思議に思いながらも、笑顔で応じた。
「――はい。――なんでしょう?」
すると、その客は、桔流にとある事を尋ねた――。
💎
「――あの、法雨さん」
桔流は、その――妙に見覚えのある顔立ちの客の対応を終えた後、店の裏に入り、法雨が仕事をする事務室を訪れていた。
雷の名刺を見やりながら、法雨はふと、そんな事を思ったのだ。
(――もし、そうだとしたら、お詫びの機会を頂く事自体が迷惑よね。――ううん。でも、そうじゃなかったら、このままにしておきたくないし……。――と云っても、アタシがどれだけ念じたって雷さんの気持ちは分からないし……。――まずは、アタシが連絡しても迷惑じゃないかって事だけでも、あの子たちに訊いてもらおうかしらね……)
そして、そんな結論に至った法雨は、中空にやっていた視線を再び名刺に戻し、雷の名を見つめる。
――オオカミ族の彼。
――見ず知らずであるにも関わらず、一切の迷いなく助けに駆けつけてくれた、法雨の救世主。
そう云えば、子供の頃に読んでいた絵本では、囚われの姫には、そんな、――姫を救うべく悪の城へとやってくる、勇敢な王子様や勇者がつきものだった。
そして、そんな勇敢な者たちには、ライオン族やオオカミ族などの亜人が抜擢される事が多かった。
(――王子様ねぇ……。確かに、勇敢で救世主らしくもあるけれど……、でも……、――あの人のイメージは……王子様でも勇者でもないわねぇ……。――……あぁ、そうだわ。――あの人のイメージは、王子でも勇者でもなく、――狩人って感じじゃないかしら)
雷を想い起こしたついで――、幼い頃を楽しませてくれた絵本たちと彼の“イメージ”について相談した後、そんな結論に至ると、法雨は、ふふ、と小さく笑った。
(――“狩人”……。――そうね。――オオカミにも、あの人にも、――そのイメージがピッタリだわ)
💎
「――お客様。お水を失礼いたします」
「――あぁ。有難うございます」
季節の移り変わりは相変わらずと気が早いもので――、梅雨が駆け抜けていったと思えば、その夏らしい気候はついに夜にまで届き始めていた。
そんな初夏の夜――、店内の賑わいも少しばかり和らいできた頃合いに、バーのスタッフであるユキヒョウ族の桔流は、妙に見覚えのある顔立ちの客に、レモンの香るグラス水を提供すると、続けて問うた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
すると、その客は、丁寧にメニューを指し示しながら、低く穏やかな声で言った。
「――そうですね。――じゃあ、コチラを」
「サマーレインですね。かしこまりました。――ご注文は、以上でよろしいですか?」
「えぇ。――とりあえず、それでお願いします」
桔流は、その季節限定のクラフトビールの名を読み上げ、客の注文を受け取ると、改めて一礼をし、テーブルを離れようとした。
その時――。
そんな桔流を呼び止めるようにして、その客がひとつ声をかけた。
「――あの、――ひとつよろしいですか?」
桔流は、それを不思議に思いながらも、笑顔で応じた。
「――はい。――なんでしょう?」
すると、その客は、桔流にとある事を尋ねた――。
💎
「――あの、法雨さん」
桔流は、その――妙に見覚えのある顔立ちの客の対応を終えた後、店の裏に入り、法雨が仕事をする事務室を訪れていた。
0
あなたにおすすめの小説
僕のポラリス
璃々丸
BL
陰キャでオタクなボクにも遂に春が来た!?
先生からだけで無く、クラスカースト上位の陽キャ達も、近隣に幅を効かせる不良達からも一目置かれるまるで頭上の星のようなひとだ。
しかも、オタクにまで優しい。たまたま読んでいたボクの大好きなコミック「恋色なな色どろっぷす」を指差して、「あ、ソレ面白いよね」なんて話しかけられて以来、何かと話しかけられるようになっていった。
これだけだとたまたまかな?と思うけど距離も何かと近くて・・・・・・コレ、ってボクの勘違い?それとも?
・・・・・・なぁーんて、ボクの自意識過剰かな。
なんて、ボクの片思いから始まる甘酸っぱいお話。
みたいなBSS未満なお話。
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
役を降りる夜
相沢蒼依
BL
ワンナイトから始まった関係は、恋じゃなくて契約だった――
大学時代の先輩・高瀬と、警備員の三好。再会の夜に交わしたのは、感情を持たないはずの関係だった。
けれど高瀬は、無自覚に条件を破り続ける。三好は、契約を守るために嘘をついた。
本命と会った夜、それでも高瀬が向かったのは――三好の部屋だった。そこからふたりの関係が揺らいでいく。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
カーマン・ライン
マン太
BL
辺境の惑星にある整備工場で働くソル。
ある日、その整備工場に所属不明の戦闘機が不時着する。乗っていたのは美しい容姿の青年、アレク。彼の戦闘機の修理が終わるまで共に過ごすことに。
そこから、二人の運命が動き出す。
※余り濃い絡みはありません(多分)。
※宇宙を舞台にしていますが、スター○レック、スター・○ォーズ等は大好きでも、正直、詳しくありません。
雰囲気だけでも伝われば…と思っております。その辺の突っ込みはご容赦を。
※エブリスタ、小説家になろうにも掲載しております。
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる