34 / 109
🌹『翠玉のケエス:芽吹』🌹 本編 💎 The EMPEROR:U 💎
Drop.011『 The EMPEROR:U〈Ⅱ〉』【4】
しおりを挟む
「そうでしたか。――それなら良かった。――やはり、あれだけの事を経験された後ですから、例え加害者ではなくとも、俺もまた、あの時の嫌な記憶をフラッシュバックさせるような要因になっているのではと考えていたもので……」
「ま、まぁ。そうだったんですね。――それはまた、余計なお気遣いをさせてしまって。――でも、アタシ、そんな事は全然な……」
雷の底知れぬ心遣いに感銘を受けつつ、雷を安心させるべく言葉を紡ごうとした法雨だったが、咄嗟にとある記憶が過り、思わず口を噤む。
なぜ、今日と云う日まで、この店に――、法雨の前に――雷が姿を現さなかったのか、と云えば、――それは、“そういう事”だったのだろう。
「あ、あの。――もしかして、――だから、これだけ長い時間を空けてから、ここにいらしたんですか?」
驚きながら法雨が問うと、雷は苦笑し、頷くようにして言った。
「鋭いですね。――えぇ。――実を云えば、――そうです」
「――………………」
“そのような事”までを考えたからこそ、敢えて、すぐには様子を見に来ないという判断をした雷に、法雨は心底感心した。
(これも、探偵業の経験から来るものなのかしら……。――依頼の内容によっては、そういう事もありそうだものね……)
また、恐らく、雷がそのような選択をした理由は、法雨が孤独の身ではなかったから――という事も、ひとつあるだろう。
まず、法雨には大切にしている従業員たちがおり、彼らとの関係は良好そのもの――ともなれば、店以外での人付き合いも良好である可能性が高い事から、頼れる友人の存在もすぐに想像はできる。
そして、その事を踏まえれば、その中で最も親しみの浅い雷が、法雨の様子をいち早く確認しにゆく必要性は非常に低く、さらには、雷が推察したように、もしも京たちとの事が酷いトラウマにでもなっていたとすれば、その場合、雷がフラッシュバックのトリガーとなる可能性も大いに考えられる。
(そう考えたら、確かに、アタシに会うとしても、十二分に時間を空けてからの方が、いいに決まってる……)
法雨が何か月も深く後悔し続けるほどに酷い態度をとったにも関わらず、雷はその間もそうして、ただ、法雨の身を案じるに徹していた。
(本当に……、――アタシには勿体ないくらいの、優しい人ね。――絶対に、もう二度と、アタシみたいなのがお世話になんてなってはいけない人だわ)
法雨は、そんな深すぎる優しさだけを丁寧に受け取るようにして、心の内で抱きしめると、雷に微笑み、言った。
「そんなお気遣いまでして頂いて、本当に有難うございます。――でも、安心してください。――アタシ、本当に何ともありませんから。――あの時にも言いましたけど、アタシ、――雷さんが思われるほど、か弱くないんですよ?」
すると、雷は、降参――と云った様子で笑いながら言った。
「確かに。――とても強いお心をお持ちようですね。――恐れ入りました」
そんな雷に、法雨は悪戯っぽく上品な笑みを返す。
「ふふ。――こちらこそ、恐れ入りますわ」
そして、それからしばし、雷と静かに笑い合うと――、法雨は、またひとつ紡いだ。
「あぁ。そうでした。――あの、雷さん。――実は、アタシの方からも、――雷さんに、ひとつお伺いしたい事があるのですけれど……」
Next → Drop.012『 The EMPEROR:U〈Ⅲ〉』
「ま、まぁ。そうだったんですね。――それはまた、余計なお気遣いをさせてしまって。――でも、アタシ、そんな事は全然な……」
雷の底知れぬ心遣いに感銘を受けつつ、雷を安心させるべく言葉を紡ごうとした法雨だったが、咄嗟にとある記憶が過り、思わず口を噤む。
なぜ、今日と云う日まで、この店に――、法雨の前に――雷が姿を現さなかったのか、と云えば、――それは、“そういう事”だったのだろう。
「あ、あの。――もしかして、――だから、これだけ長い時間を空けてから、ここにいらしたんですか?」
驚きながら法雨が問うと、雷は苦笑し、頷くようにして言った。
「鋭いですね。――えぇ。――実を云えば、――そうです」
「――………………」
“そのような事”までを考えたからこそ、敢えて、すぐには様子を見に来ないという判断をした雷に、法雨は心底感心した。
(これも、探偵業の経験から来るものなのかしら……。――依頼の内容によっては、そういう事もありそうだものね……)
また、恐らく、雷がそのような選択をした理由は、法雨が孤独の身ではなかったから――という事も、ひとつあるだろう。
まず、法雨には大切にしている従業員たちがおり、彼らとの関係は良好そのもの――ともなれば、店以外での人付き合いも良好である可能性が高い事から、頼れる友人の存在もすぐに想像はできる。
そして、その事を踏まえれば、その中で最も親しみの浅い雷が、法雨の様子をいち早く確認しにゆく必要性は非常に低く、さらには、雷が推察したように、もしも京たちとの事が酷いトラウマにでもなっていたとすれば、その場合、雷がフラッシュバックのトリガーとなる可能性も大いに考えられる。
(そう考えたら、確かに、アタシに会うとしても、十二分に時間を空けてからの方が、いいに決まってる……)
法雨が何か月も深く後悔し続けるほどに酷い態度をとったにも関わらず、雷はその間もそうして、ただ、法雨の身を案じるに徹していた。
(本当に……、――アタシには勿体ないくらいの、優しい人ね。――絶対に、もう二度と、アタシみたいなのがお世話になんてなってはいけない人だわ)
法雨は、そんな深すぎる優しさだけを丁寧に受け取るようにして、心の内で抱きしめると、雷に微笑み、言った。
「そんなお気遣いまでして頂いて、本当に有難うございます。――でも、安心してください。――アタシ、本当に何ともありませんから。――あの時にも言いましたけど、アタシ、――雷さんが思われるほど、か弱くないんですよ?」
すると、雷は、降参――と云った様子で笑いながら言った。
「確かに。――とても強いお心をお持ちようですね。――恐れ入りました」
そんな雷に、法雨は悪戯っぽく上品な笑みを返す。
「ふふ。――こちらこそ、恐れ入りますわ」
そして、それからしばし、雷と静かに笑い合うと――、法雨は、またひとつ紡いだ。
「あぁ。そうでした。――あの、雷さん。――実は、アタシの方からも、――雷さんに、ひとつお伺いしたい事があるのですけれど……」
Next → Drop.012『 The EMPEROR:U〈Ⅲ〉』
0
あなたにおすすめの小説
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる