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《月ノ歌聲》シリーズ【BL×退魔師&憑物憑き×現代系】
『美形の遺伝子は身内にも効く』-(恵夢×恋羽×桜愛) from[兄、タピオカになる]
しおりを挟むさらりと肌を掠める外気は、いよいよと夏の終わりを感じさせるものとなっていた。
そんな、とある日の事。
蛇神憑きの退魔師として名高い、そのひと家族が住まう一軒家の廊下では、軽やかな二つの足音が、ぱたりぱたりと弾けていた。
そんな二つの足音を発しているのは、それぞれの柔らかく波打つ髪を、ほのかな木の葉色、桜色に染めた、双子の兄弟たちであった。
その日。
彼らはそうして、正午を知らせるかのように、足取り軽やかに彼らの兄の部屋へと向かっていたのであった。
――『美形の遺伝子は身内にも効く』――
そうして兄の下へ向かう双子のうち、左目を隠すようにして整えられた木の葉色の髪を揺らすのは、班目恋羽だ。
そして、そんな双子の兄の後に続き、右目を隠すようにして整えた桜色の髪を揺らすのが、班目桜愛である。
また、そんな彼らがいよいよと辿り着いた目的地で未だ眠っている、彼らが敬愛する長男の名は、班目恵夢と云う。
そんな三兄弟が今まさに、この班目家長男の部屋に集ったというわけであるが、敬愛する兄に対しても、そして、成人目前の齢であろうとも、双子の無邪気さは健在なのであった。
双子たちは、ノックもせずに恵夢の部屋に入るなり、うつ伏せて寝こけている兄に遠慮なく跨る。
そして、両の掌を軽やかに使い、恵夢の背でぺちぺちと音を奏でては順々に言った。
「お兄ちゃん、タピオカ~!」
「起きて~っ、タピオカ~!」
すると、突然背に跨られようが、さらけ出した背でぺちぺちの合奏をされようが眠り続けていた恵夢は、弟たちの声で覚醒した。
そんな恵夢は、むくりと上体を起こすが、その両目はといえば、暖簾のように垂れた真っ白な前髪に隠れたままである。
そして、そのまま現状把握に多少のラグを感じさせるような間を置いた恵夢は、その低い声色でのんびりと言葉を紡いだ。
「こらお前たち。寝起きドッキリついでに、お兄ちゃんをタピオカにしたらダメだろ~?」
すると、そんなのっそりとした恵夢の言葉に対し、双子たちは、動物園で平和に浸る猛獣を観覧するかのように楽しげに言った。
「あ! 起きた~!」
「お兄ちゃん起きた~!」
「おはよ~! お昼だよ~!」
「お兄ちゃんお昼お昼~!」
恵夢は、そんな愛らしい観覧者たちに対し、――今日も俺の弟たちは天使だな――などと浸りながら、己の言葉が馬耳東風となった事実も意に介さず、平然とファンサービスの掛け合いを始める。
「ハイ。お前たちのお兄ちゃんは~?」
すると、そんな投げかけを楽しむようにして、恵夢の背に乗った天使たちは、語尾に音符マークを添えるような調子で順々に答えた。
「天才~」
「世界一かっこいい~」
恵夢は、そんな愛らしい天使たちの応答を耳に入れるなり、一切のラグを感じさせないどころか、その応答を尾から喰らうようにして言った。
「よぉしそうだ~。――それじゃあタピオカ飲みに行こうなぁ~」
すると、弟たちは万歳をするようにして揃って声を上げた。
「やった~」
恵夢は、未だ垂れ下がる暖簾の内側からその愛らしい天使たちを眺めては、ひとつ思う。
(ハイ可愛い。ハイ天使。美形の弟は美形。世の定め。今日もありがとう。美形の遺伝子)
そして、そんな遺伝子への感謝の儀を終えた恵夢は、天使たちを背から降ろすなり伸びをした。
その最中も、天使たちはその愛らしく鮮やかな赤色の瞳で、相変わらずとキラキラとした視線を恵夢に送っている。
それはまさに、期待の眼差しといえよう。
恵夢は、そんな眼差しを受けながらベッドから腰を上げ、順々に弟たちの頭を撫でては廊下に出た。
すると、弟たちはまたぱたりぱたりという音を奏でながら、そんな恵夢の後に続いた。
そんな中。
浴室へと向かう恵夢に対し、恋羽がスマートフォンのディスプレイを見せながら言った。
「お兄ちゃん見てみて~! 今ね~、秋の限定メニューが出てるんだよ~」
そんな恋羽からスマートフォンを受け取ると、ディスプレイを眺めるなり、恵夢は言った。
「ん~? "限定メニュー"? タピオカってミルクティーだけじゃねぇのか?」
すると、その問いに対し、今度は桜愛が言った。
「うん! ミルクティー以外にもね、秋はパンプキンとかマロンとかがあるんだよ~!」
恵夢は、一度受け取ったスマートフォンを丁寧に恋羽に返すなり、感心した様子で言った。
「ははぁ、ただのタピオカミルクティーじゃあ競争できなくなってきたわけだ。――タピオカ業界もご苦労な事だな」
そして、兄弟たちがそんなタピオカ談義を交わしているうちに、一同は浴室へと到着した。
恵夢はそこで、軽くうがいを済ませると、唯一身に着けていた着衣であるボトムに手をかける。
そんな恵夢の横で交互にぴょんぴょんと跳ねながら、弟たちはまた順々に言った。
「お兄ちゃん、そのままお風呂で寝ないでね~!」
「お昼ごはん食べたらタピオカだからね~!」
恵夢は、そんな弟たちの言葉を背に受けながら浴室のドアを開け、言った。
「おう、任せろ~」
そして、――顔面は暖簾で防備していながらも全裸――という状態で、そんな頼もしい言葉を返す兄を見送った弟たちは、また軽やかな足取りでリビングへと戻って行った。
恵夢は、そんな弟たちの足音を聞きながら、舌で言の葉を転がすようにしてぽつりと呟いた。
「寝ない寝ない。愛する弟たちの笑顔の為ですからねぇ」
そして、それからしばしの間。
恵夢は、心地よいシャワーの温もりに身を任せたのだった。
そんな恵夢が、無事に睡魔との逢引きを終えた正午の事。
兄弟たちは家族一同での昼食を済ませ、恐らくは店前に大蛇が生まれているのであろうタピオカ店へと出陣した。
かくして、その日。
班目家の末双子は、念願であった兄とのタピオカデート計画を、無事成功させたのである。
兄の背に倣い、それぞれが有する遺伝子の力を巧みに使いこなして――。
Fin.
===後書===
この度は、本作をご覧頂き誠に有難うございました。
お楽しみ頂けましたようでございましたら幸いでございます。
コチラは拙作の1コマ漫画
『兄、タピオカになる』(《月ノ歌聲 1pc Comics BL Side》収録作品)
の小説スピンオフ作品となっております。
その為、派生元が収録された1コマ漫画集の方では、
本作挿絵の漫画仕様版(フキダシ挿入版)が収録されておりますので
よろしければ本作と合わせ、1コマ漫画の方もお楽しみ頂けましたら幸いです。
また、本作品集に収録されているスピンオフ作品の派生元の1コマ漫画集へのリンクは
当ページの最下部にまとめて掲載しておりますので、是非ご参照ください。
そして、いつも通りの余談ではございますが
執筆活動におきましては、皆様のお気に入りやご感想などが活動の励みになります。
もしお気に召して頂けましたら、是非宜しくお願いいたします。
その他、ルビが欲しかった漢字、掲載形式(1頁に表示される文字数をもっと少な目にしてほしいなど)に関するご要望なども今後の参考になりますので、お声をお寄せいただけましたらと思います。
それでは、こちらまでご覧頂きました方々、本当に有難うございました。
今後も精進してまいりますので、これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
SJ-KK Presents
偲 醇壱 Junichi Sai
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