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17 力への意志
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「〝来たれ、赤き炎〟!」
誰もいなくなった闘技場で、弔木は勇者時代の火炎魔法を詠唱した。
しかし何も起こらなかった。
「……やはり闇属性の魔力とは互換性がない、ってことか。まあ、敵の魔力だからなあ」
弔木は次の検証に移った。
「じゃあ、こっちはどうだ? いよっと」
弔木は、右手に意識を集中させた。
ドス黒い瘴気がゆらめき、闇の力が滾る。
その拳を前に繰り出す。
――バガッ! という轟音とともにアリーナの壁が大破した。
闇の魔力は、絶大な威力を持っていた。
詠唱も祈りも不要。
必要なのはただ力を求める〝意志〟のみだ。
だが火力が強すぎる。
加減を間違えれば、殺すつもりのない者も殺すことになるだろう。
「闇の魔力……強すぎだろ。もはやチートだな」
〝光の勇者スターク〟とその仲間達が魔王を倒せた事が、奇跡にすら感じられる。
「さて、どうしたものか」
弔木は状況を整理する。
闇の魔力はまだ誰にも認識されていない。
政府ですらも、弔木の力を測定できていなかったほどだ。
そして、〝闇の力〟という存在そのものについて。
シンプルに言えば、普通に印象が悪い。
この力をただ身にまとっているだけで面接に落ちまくるし、人に気持ち悪がられる。
バイト先の店長も病気になって倒れた。今になって思い返せば、弔木の魔力が影響していたのは間違いない。
闇の魔力を持っていたことが明るみになれば、弔木の立場は余計に悪くなるだろう。
仮にダンジョンで荒稼ぎできたとしても、世界中の人間に警戒される可能性もある。
最悪な未来しか見えない。
面倒なトラブルは避けたいところだ。
弔木の中で結論が出た。
「ダンジョンのボスを倒して、さっさと帰るしかないな。この力を世間に公表するのはリスクが高すぎる」
そうと決まればやることは簡単だ。
弔木は拳に意識を集中させた。
「ハアッ!!!」
気合いとともに、拳を地面に振り下ろした。
魔力の塊が打ち出され、地面に直撃する。
その勢いは衰えることなく、次々とダンジョンの地面を貫いていった。
――バガガガガ!!
――ドゴゴゴッ!!!
耳を聾さんばかりの轟音が収まると、ダンジョンに巨大な大穴が空いた。
弔木は地下数百メートルまで穿たれた穴を覗きこんだ。
「お、いたいた」
予想通り、最下層には弔木が知っている迷宮の主が立っていた。
見覚えがある敵だ。
「やっぱり、この世界のダンジョンは〝レイルグラント〟と関係があるっぽいなあ。……まあ、今はどうでもいい。考えるのは後回しだ」
ダンジョンの主は二体だ。
〝闇底の複眼竜、ウドゥール〟
〝盲目の竜騎士、リガンディヌス〟
〝試練の幽老〟の戦いを乗り越えた先には、さらに20階層ほどのダンジョンが広がっている。
そのダンジョンをも越えた先に、最悪の敵が待ち構えているのだ。
勇者として戦った時は、いずれも苦戦した強敵だった。
だが弔木の心は軽い。負ける気が全くしなかった。
「よし、いくか」
弔木は、ひょいっと穴に飛び込んだ。
まるで自殺行為のような自由落下。
もちろん死ぬつもりは毛頭ない。
莫大な魔力をもってすれば、落下の衝撃など無いに等しいのだ。
弔木は既に、ある程度の魔力操作を体得していた。
「ひゃっはー!!!!」
弔木は驚喜に満ちた叫びをあげた。
死に直面し、力に目覚めた。
その経験によって弔木の中で何かが変わった。
心が軽くなった気がした。
異世界から戻ってきてから、ろくな事がなかった。
就活は失敗し、フリーター生活に突入。
井桐とか言うイキり大学生にマウントを取られる。
やることなすこと上手くいかず、世界にダンジョンが出現しても勇者の力は発揮できず。
最悪としか言いようがない。
「新しい力か。勇者の時とは違うけど……うん、悪くないな」
暗いダンジョンの底に落ちながら、弔木は呟いた。
勇者時代に手に入れた魔法は全て使えない。
その代わり、弔木には別の力が宿った。
理由は分からない。
そのことに一抹の不安はあるが、心は晴れやかだった。
大げさに言えば、新しい人生が始るような気分だ。
ダンジョンで冒険をしよう。
魔物を狩ろう。アイテムを手に入れよう。
金を稼ごう。
人生を、やりなおそう。
「まずは手始めにあいつらを倒すか。ワンパンでいけるかな?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『新宿駅周辺に突如として超巨大ダンジョンが現れました。およそ数千人が、このダンジョン化現象に巻き込まれたものと見られます』
『ご覧ください! 新周辺が巨大な岩の塊になっています! 専門家の分析では、これは出入り口が存在しない、閉鎖型ダンジョンであると見られています!』
『政府は何をやってるんだ! 娘がダンジョンの中に閉じ込められているんだぞ!』
『早くお母さんを助けて! 誰かああああ!!!!』
誰もいなくなった闘技場で、弔木は勇者時代の火炎魔法を詠唱した。
しかし何も起こらなかった。
「……やはり闇属性の魔力とは互換性がない、ってことか。まあ、敵の魔力だからなあ」
弔木は次の検証に移った。
「じゃあ、こっちはどうだ? いよっと」
弔木は、右手に意識を集中させた。
ドス黒い瘴気がゆらめき、闇の力が滾る。
その拳を前に繰り出す。
――バガッ! という轟音とともにアリーナの壁が大破した。
闇の魔力は、絶大な威力を持っていた。
詠唱も祈りも不要。
必要なのはただ力を求める〝意志〟のみだ。
だが火力が強すぎる。
加減を間違えれば、殺すつもりのない者も殺すことになるだろう。
「闇の魔力……強すぎだろ。もはやチートだな」
〝光の勇者スターク〟とその仲間達が魔王を倒せた事が、奇跡にすら感じられる。
「さて、どうしたものか」
弔木は状況を整理する。
闇の魔力はまだ誰にも認識されていない。
政府ですらも、弔木の力を測定できていなかったほどだ。
そして、〝闇の力〟という存在そのものについて。
シンプルに言えば、普通に印象が悪い。
この力をただ身にまとっているだけで面接に落ちまくるし、人に気持ち悪がられる。
バイト先の店長も病気になって倒れた。今になって思い返せば、弔木の魔力が影響していたのは間違いない。
闇の魔力を持っていたことが明るみになれば、弔木の立場は余計に悪くなるだろう。
仮にダンジョンで荒稼ぎできたとしても、世界中の人間に警戒される可能性もある。
最悪な未来しか見えない。
面倒なトラブルは避けたいところだ。
弔木の中で結論が出た。
「ダンジョンのボスを倒して、さっさと帰るしかないな。この力を世間に公表するのはリスクが高すぎる」
そうと決まればやることは簡単だ。
弔木は拳に意識を集中させた。
「ハアッ!!!」
気合いとともに、拳を地面に振り下ろした。
魔力の塊が打ち出され、地面に直撃する。
その勢いは衰えることなく、次々とダンジョンの地面を貫いていった。
――バガガガガ!!
――ドゴゴゴッ!!!
耳を聾さんばかりの轟音が収まると、ダンジョンに巨大な大穴が空いた。
弔木は地下数百メートルまで穿たれた穴を覗きこんだ。
「お、いたいた」
予想通り、最下層には弔木が知っている迷宮の主が立っていた。
見覚えがある敵だ。
「やっぱり、この世界のダンジョンは〝レイルグラント〟と関係があるっぽいなあ。……まあ、今はどうでもいい。考えるのは後回しだ」
ダンジョンの主は二体だ。
〝闇底の複眼竜、ウドゥール〟
〝盲目の竜騎士、リガンディヌス〟
〝試練の幽老〟の戦いを乗り越えた先には、さらに20階層ほどのダンジョンが広がっている。
そのダンジョンをも越えた先に、最悪の敵が待ち構えているのだ。
勇者として戦った時は、いずれも苦戦した強敵だった。
だが弔木の心は軽い。負ける気が全くしなかった。
「よし、いくか」
弔木は、ひょいっと穴に飛び込んだ。
まるで自殺行為のような自由落下。
もちろん死ぬつもりは毛頭ない。
莫大な魔力をもってすれば、落下の衝撃など無いに等しいのだ。
弔木は既に、ある程度の魔力操作を体得していた。
「ひゃっはー!!!!」
弔木は驚喜に満ちた叫びをあげた。
死に直面し、力に目覚めた。
その経験によって弔木の中で何かが変わった。
心が軽くなった気がした。
異世界から戻ってきてから、ろくな事がなかった。
就活は失敗し、フリーター生活に突入。
井桐とか言うイキり大学生にマウントを取られる。
やることなすこと上手くいかず、世界にダンジョンが出現しても勇者の力は発揮できず。
最悪としか言いようがない。
「新しい力か。勇者の時とは違うけど……うん、悪くないな」
暗いダンジョンの底に落ちながら、弔木は呟いた。
勇者時代に手に入れた魔法は全て使えない。
その代わり、弔木には別の力が宿った。
理由は分からない。
そのことに一抹の不安はあるが、心は晴れやかだった。
大げさに言えば、新しい人生が始るような気分だ。
ダンジョンで冒険をしよう。
魔物を狩ろう。アイテムを手に入れよう。
金を稼ごう。
人生を、やりなおそう。
「まずは手始めにあいつらを倒すか。ワンパンでいけるかな?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『新宿駅周辺に突如として超巨大ダンジョンが現れました。およそ数千人が、このダンジョン化現象に巻き込まれたものと見られます』
『ご覧ください! 新周辺が巨大な岩の塊になっています! 専門家の分析では、これは出入り口が存在しない、閉鎖型ダンジョンであると見られています!』
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