治療と称していただきます

茜菫

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第一部

そばにいるから(21)

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(こんなところまで再現しなくていいのに…)

 二年も拉致監禁されただけあって、魔女のエレノーラへの執着は非常に強かった。魔女の目はレイモンドに目が向けられているが、その目が自分に向けられるのが怖くて、彼女は俯く。すると、レイモンドが片腕で彼女を引き寄せ、抱きしめた。

「エレノーラは、お前のものじゃない」

「…へえ。じゃあ、お前のものだってか?」

「違う」

 魔女を睨みつけながら静かに言い放った彼に、魔女は同じように睨みつけ、低い声を出す。

(そこは僕のものだと言ってくれても良かったのだけれど)

 それを言わないのが、彼女が好きになったレイモンドだ。

「エレノーラは、彼女自身のものだ。誰に心を許すのかは、彼女が決めることだ!」

 ありありと憎しみの念を浮かべた目に怖気付くことなく、レイモンドは言葉を続けた。エレノーラはその言葉に顔を上げ、まっすぐ前を見据えるレイモンドの横顔を見つめる。言い淀むことなく、はっきりと言い放った彼に、彼女の胸が高鳴った。

(…レイモンドはいつだって、私の気持ちを優先してくれる)

 エレノーラは強引にされても、何をされてもレイモンドなら許せるのに、彼は決して、そんなことをしない。

「エレノーラは、僕を選んでくれた」

「…は、ずっと選ばれ続けるとでも?女の心なんて、すぐ移り変わるだろ」

「いいや、僕がずっと選ばれ続ける…選ばれ続けるために、僕は心を尽くす。…お前みたいに、無理に奪ったりしない!」

 エレノーラは少し声を荒らげて魔女を威圧するレイモンドに胸が高鳴り、頬が熱くなるのを感じる。彼女の目には、レイモンドしか映っていなかった。エレノーラは魔女の幻がどうでもよくなり、最早、レイモンドしか見えなくなっている。

「レイモンドぉ…っ」

「ちょっ、エレノーラ…む、胸がっ」

「あてているのよ」

「っ…この状況で?!」

 エレノーラはレイモンドのことしか考えられない、今はその気持ちに全て委ねてしまうことにした。

「ね、レイモンド。キスして、キス!」

 彼女はレイモンドの胸にしがみつき、甘えた声で見上げる。彼は小さく唸りながら頬を赤らめらちらりと彼女を見たが、我に返ったように直ぐ前を向く。

「いや、駄目だろ今はっ、魔女の幻が…えっ?!」

 エレノーラは驚いた様子でに前を見ているレイモンドの頬に手を伸ばす。視線を前と彼女と交互に向けた彼は、戸惑っているようだ。

「っくそ…おい、エレノーラ!」

「エレノーラ、これは一体…」

「今、私の頭はレイモンドのことでいっぱいなの!ね、だから、もっといっぱいにして」

 レイモンドはエレノーラを見て目を見開き、顔を赤くして動揺したが、直ぐに何か察したようで、彼女の唇にキスをした。
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