隠された乙女の甘やかな最愛婚―虧月―

くろのあずさ

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 動けないままでいる絲に鵺雲は自分の外套をかけた。彼に支えられ、絲は覚束なくも立ち上がる。

「あの、川崎先生は……どうなったんですか?」

 なにかしゃべらなくては、と思ったものの出てきた話題は微妙なものだった。それを彼に聞いてどうするのか。

「ああ。心配ない。マレビトがあの程度で消えるわけがない。捕獲して軍へ連れて行くまでだ」

 しかし鵺雲はたいして気にしていないふうに答える。彼女したことは許されないし、ひどい目にも合わされたが、死んだわけではないと聞いてどこか安堵している自分もいた。

「相変わらず甘いな」

 鵺雲の指摘はもっともだ。絲は反射的に身を縮める。

「ごめん、なさい」

「謝る必要はない」

 そう告げる鵺雲の声はどこか優しい。そこで絲は目を見張る。暗い空に様々な色の火の玉が浮かんでいた。絲の視線に気づいた鵺雲が「ああ」と納得した様子で口を開く。

「川崎に捕らわれていた魂が解放されたのだろう」

 この魂たちはどうなるのか。形も色も光の強さもそれぞれ違うが、恐怖ではなく温かい気持ちになる。

「極夜」

 そこで男性の声が聞こえる。見ると軍服を着ている男性がこちらに近づいてきた。中性的な美しさがあり、涼しげな目元は鵺雲とはまた異なる雰囲気の美丈夫だ。

「天明」

「予定通り終わったのか」

 尋ねられ、鵺雲は軽く頷く。上官や部下といった軍の立場に関係はなく、個人的に親しいのが伝わってくる。

「ああ。もうすぐ丑三つ時だろ? きちんと全員送ってやってくれ」

「言われなくてもわかっている。それが俺の仕事だからな」

 天明と呼ばれた男性は真面目な顔で答えた。

「その前に、ひとり魂をつれて席を外す」

 突然の発言に鵺雲がなにか尋ねる前に彼は続ける。

「事情を説明している暇はない。きずながまた無茶をしているんだ」

 その発言を聞いて、鵺雲が口角を上げた。

「お前がそうやって余裕をなくすのは、たいてい妻絡みだからな」

 からかい混じりの口調に天明はなにも答えない。切羽詰まった状況なのが伝わってくる。

「奥方によろしく伝えておいてくれ」

 鵺雲の言葉に天明は軽く手を上げ、屋上から去っていく。
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