隠された乙女の甘やかな最愛婚―虧月―

くろのあずさ

文字の大きさ
18 / 18

18

しおりを挟む
 再び、屋上に鵺雲とふたりになり絲は妙な気まずさを感じた。

「あの――」

「危険に晒して悪かった」

 唐突な謝罪に意表を突かれる。目を丸くする絲に鵺雲は続けていく。

「川崎が絲に目をつけていたのは、なんとなくわかっていた。屋上を封鎖すると告げ、動くと確信もしていたが」

 口元に手を遣り、わずかに悔しそうに鵺雲は告げる。

「最初から川崎先生が怪しいって思っていたんですか?」

 そういえば絲が入院となって川崎とやりとりしているときから鵺雲はずっとそばにいた。

「屋上で川崎が現れたときから不信感を抱いていた」

 鵺雲は呟く。そういえばあのとき軍の人間と共に川崎もやってきた。しかし、なにかおかしいことはあったのか。

「あのとき絲が飛び降りようとしたのは人目にはつきにくい正面とは逆の方だった。そのときは俺もそばにいたし、そうやって屋上で動く人影が見え、軍の人間も心配になって様子を見に来たのだろう」

『おい、無事か!?』

『屋上に人影があるとの情報が入り、誰かが飛び降りようとしているのではと、こちらへ参りました』

 そうだ。飛び降りがあったばかりで、皆神経質になっていた。

「けれど、院内にいて騒ぎを聞いた川崎は、はっきりと飛び降りようとしたのが女性だと言っていた」

『女性は無事? 大丈夫?』

「あっ」

 実際に騒ぎを起こしたのは絲自身だったので、あのときはなにも思わず受け入れていた。しかし下から見てもはっきりしない性別をどうして彼女は確信を持っていたのか。

「あいつはわかっていたんだ。術をかけているのは女しかいないからな。飛び降りるのなら女性だと」

 納得する一方で、絲は悟る。鵺雲が自分を心配してそばにいたのは、あくまで一連の飛び降り事件の黒幕である川崎を捕えるためだったのだ。

「少しでもお役に立てたのなら……うれしいです」

 こんな自分でも価値があったのなら。

 絲が続けようとすると、不意に体が宙に浮いた。鵺雲に抱き上げられ、とっさに彼にしがみつく。

「帰るか。もう入院は必要ないだろ?」

「か、帰るってどこにですか?」

 状況にも彼の発言にもついていけない。鵺雲は歩を進め出す。

「もちろん極夜家に連れて行く」

「冗談ですよね。私も軍に連れていかれて、実験とかされるんでしょ?」

 その言葉に鵺雲は足を止めた。

「私が普通じゃないのは、わかっています」

『あなた、やっぱり普通じゃないのね』

 武藤家の人間だけではない。瞳の色、傷や怪我が早く治る体質……マレビトである川崎にまで指摘されたのだ。

「私……自分のことがわかりません。あなたのことだって……」

「なら、これから知っていけばいい」

 薄暗い想いを吐露していると、優しい声色が降ってくる。顔を上げて鵺雲を見ると、彼は微笑んでいた。

「なにが知りたい?」

 まるで子どもに対する言い方だ。

「なにって……。そもそもなぜ初対面の私に結婚なんておっしゃるんですか?」

「誰よりも絲を大事に思っているからだ」

 間髪を入れず、迷いない返事があった。信じられない。どうして鵺雲が自分を大事にするのかが理解できない。詰め寄ってしまいたい。それなのに――

「思う、だけなんですか?」

 絲の問いかけに鵺雲は目を見開き、ややあって今度こそ彼は相好を崩した。

「そうだな。誰よりも大事にする。だから俺と結婚してほしい」

 返事はできない。正確には声にならなかった。目の奥から熱いものが込み上げ、絲は鵺雲にぎゅっとしがみつく。そんな彼女に応えるように鵺雲は絲をさらに抱き寄せる。

 彼をすべて信じきったわけではない。自分が誰かに大事にされるなど想像もつかない。

『お前が本気なら、一緒に落ちてやる』

 けれど、あのときの鵺雲は本気だった。それだけで十分だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

『人間嫌いの狐王に、契約妻として嫁いだら溺愛が止まりません』

由香
ファンタジー
人間嫌いで知られる狐族の王・玄耀に、“契約上の妻”として嫁いだ少女・紗夜。 「感情は不要。契約が終われば離縁だ」 そう告げられたはずなのに、共に暮らすうち、冷酷な王は彼女だけに甘さを隠さなくなっていく。 やがて結ばれる“番”の契約、そして王妃宣言――。 契約結婚から始まる、人外王の溺愛が止まらない和風あやかし恋愛譚。

【完結】偽りの華は後宮に咲く〜義賊の娘は冷徹義兄と食えない暗愚皇帝に振り回される〜

降魔 鬼灯
キャラ文芸
 義賊である養父を助けるため大貴族の屋敷に忍び込んだ燕燕は若き当主王蒼月に捕まる。  危うく殺されかけた燕燕だが、その顔が逃げた妹、王珠蘭に似ていることに気付いた蒼月により取引を持ちかけられる。  逃げた妹の代わりに顔だけは綺麗な暗君である皇帝の妃を決める選秀女試験に出て不合格になれば父の解放を約束するという密約を交わした。    記憶力抜群、運動神経抜群、音楽的才能壊滅の主人公が父のために無難な成績での選秀女試験不合格を勝ち取れるのか。  実は食えない性格の皇帝と冷徹だがマメな義兄蒼月に振り回され溺愛される燕燕は無事2人から解放されるのか。  後宮コメディストーリー  完結済  

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  ゆるゆ
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...