Ninfea

蠍ノ 丘

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逃走劇

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 戦うそんな選択肢は無い。流石に数が多過ぎる上、見たことの無い個体が居た。だがこのまま逃げ続けても、そう思いアリアの方を見ると息がかなり荒くそんなに長く持ちそうにない。

 背中から感じる圧で血が凍り付く感覚に陥りながらも視線は左右へと移りこの場の打開策を模索しながら一心不乱に走り続ける。

 突然何かの爆発音と共に大きく辺りが揺れた。その揺れで躓きそうになりなつつも軋む建物の音が耳に残った。

「アリア、急げ!」

 速度をアリアに合わせながらも、前方には二股に通路が分かれておりその片方の天井から石がパラパラと落ちているのが視界に入る。

 あそこの天井が落ちれば片方の通路を塞ぎ、自分達が取れるルートは一つになるが、そこまで考えた時そのもう一方の通路の奥から嫌な音が聞こえた。

 呻き声、それは紛れもなく感染者のものだ。

「糞ッ――!」

 天井の一部が崩れ大き目の欠片が落ちる。

 ”考えてる暇は無い”

 大きな音と共に天井が崩れ落ちた。

「アリア!」「えっ!?」

 ロギアはアリアの腕を掴みそこへと飛び込み――――――その直後直ぐ後ろで瓦礫が落ち何とか危機を回避する。

 二人とも大きく肩で息をしながら立ち上がると同時、その瓦礫の隙間から嫌な形が見えた。

 舞い上がる砂埃の隙間からギシギシと不気味な音と共にコオロギの様な細長い六足の脚を持ち、身体部分は脚よりも小さく鋭く長い尾を持つ寄生虫が奇声を上げて這って来るのが見えた。

 顔に目掛けて飛び込んでくる一匹を咄嗟に拾い上げた瓦礫で殴り飛ばす。ビギャという気持ち悪い音を発し真っ赤な体液と共に瓦礫の山へとぶつかる。
 二匹目も同じ様に吹き飛ばすと同時に数匹がロギアを素通りして真っ直ぐアリアへと直進していく。

「――くッ!」
 身体を無理矢理にも動かし何とかその一匹の横腹を蹴り上げる。

 向かってくる寄生虫を見て覚悟を決めたのか慣れない手つきで拳銃を向け、自身にかなり接近していた一匹に銃口を合わせた。
 既に外す外さないと言うほぼゼロ距離射撃だった為、アリアが放った銃弾は寄生虫に確実に命中するが飛び込んできた勢い迄は殺しきれずアリアへと圧し掛かる。 

「うわあ!」
 咄嗟に両手で顔を庇いそのまま倒れ、息絶える迄足掻くそれに腕や腹部を浅く傷つけられる。ただ即座にその腹部を蹴とばし距離をとった為かなりの軽症で済んでいた。

「ロギ!」

 まだ足掻き続けている一匹に近距離射撃で止めをさしロギアに加勢する為視線を上げる。

 そこには既に何匹かの寄生虫の死骸に囲まれながらも果敢に迎え撃っているロギアの姿があった。

 残り三匹、振り回される鋭い尾に全身を斬りつけられながらも確実にアリアとの距離が近い個体から潰していく。

「アリア、伏せろ!」

 腰からナイフを引き抜き勢いよく投げつける。その指示に従っていたアリアの髪を霞め今まさに飛びかかろうとしていた個体の腹部に深く刺さり断末魔を上げた。

 自分達の周囲に集まってきた寄生虫をあらかた片づけた時には二人は息も荒く返り血で酷い有様だった

「ロギア、この形って……」

 アリアが死骸となった寄生虫を見て呟く。

「ああ、ごくまれに見た事がある‥‥人に寄生せずに単体だけで進化した奴だったかな」

 ロギアは転がっている死骸を足で押しのけその表情が仰向けになる。

「進化……」苦虫を嚙み潰した様な顔をし、アリアも死骸を見つめる。

「最近になってこういった奴等が増えてきて前より危険性が増したな」

 ロギアは死骸とアリアを交互に見てから崩れた瓦礫の山に目を移す。未だに銃声が聞こえ橘達がтермит(サーマイト)(白蟻)と交戦中だという事が分かる。

「ここからじゃあ向こうに戻れそうにないな……」

「じゃ、じゃあこの状況をどうやって向こうに知らせよう……」

「こっちも何発か銃声を鳴らしたし寄生虫の奇声も向こうには聞こえているだろうから俺達は……」

 その言葉と同時に傍にある暗がりの通路の奥から奇声が聞こえ、二人の注意が一斉にそちらに向く。

 感染者の群れが物凄い勢いでこちらに向けて突撃して来る。

「今は自分たちの身を守る事を最優先にしようか」

 そういい終えるや否や寄生虫に刺さっているナイフを引き抜きアリアの背を軽く押し先程の奇声とは逆の方向へと誘導する。

「走るぞ」
 ロギアのその言葉と共に脚は遅いが感染者の群れが姿を現した。

 二人は散らばる瓦礫を避けながら走りだす。

 薄暗い地下通路を抜ける時には結構な大所帯になっており流石のロギアの顔にも焦りが浮かぶ。

 ロギアも拳銃を抜き、横から出てくる感染者、道に塞がる様に突っ立ってる感染者に対応していく。勿論アリアに感染者の攻撃が届かない様見極めて、脱出経路を選び道も開けなければならない。

 アリアも何とかロギアに付いて行き、感染者との距離もある程度離れた所で角を曲がり一息つこうとした時また最悪なケースに陥った。

「嘘だろ」ロギアが毒づき、アリアが息を呑む。

 白い防護服を纏った集団が数十メートル先、少し広くなっている場所にいた。そして視線もこちらを向いている。

「不味い! アリアこっちだ!」

 ロギアは咄嗟にアリアの手を握ると近くにある廃墟へと走り出す

 白い防護服の集団は二人の出現に最初こそびっくりしていたが「見つけたぞ!」そんな声と同時に携帯しているアサルトライフルを二人目掛けて撃ち始める。耳元で銃弾の雨が霞む音が聞こえロギアとアリアは建物の物陰へと滑り込む。ロギアは数発被弾したのか腹部を抑え、アリアも肩から血を流していた。

 しかしロギア達に傷の心配をしている時間なんてものは無い。

「アリア、大丈夫だ。行くぞ!」

「う、うん」
 アリアの状態をさっと見てから再び立ち上がると建物の中を抜けて行く。

「待て!」白い防護服を着た連中がその後を追おうとするがアリア達が駆け抜けてきた小道から大勢の感染者が現れ、それ処じゃなくなっていた。指揮官らしき者が咄嗟に大声で指示を飛ばすが、直ぐにロギア達を追跡し始めた者の多くが目の前で感染者の餌食になる。

「くそったれ!!」
 指揮官もそう毒づく暇も無い状況に、感染者達の視線が遥か先を行くロギア達より目の前の新鮮な肉へと向けられる。

 後方で叫ぶ男達の悲鳴と怒号、感染者の呻き声を背に受けながらも二人は廃墟となった住居を走り抜け周囲を警戒しながらも足は止めない。


 ある程度の距離を進んだ所で二人は近くにあった元喫茶店へと入るとロギアは先客がいないか中を調べ、アリアはきょろきょろと周囲に警戒する。

「大丈夫そうだ、傷を見せてくれ」
 ロギアがアリアの傷口を確認するが既に古い傷口は殆ど塞がっており、一先ず大きく息を吐く。すかさず自身の怪我を確認し、緊急手当てを行いながらも周囲へと注意を向ける。

「私やる」
 そう言うとアリアは自身がしょっているバックから応急道具を出し、ロギアの応急処置を開始する。

「ああ、ありがと」

 ロギアは窓から外の様子を伺う。自分達が来た方角からは何も来る気配が無い、それどころか銃声は収まり辺りには二人の息遣い以外何もない。

「あの人達は?」

「どうだろうなぁ、あの感染者の数だど上手く捌けてもтермит(サーマイト)(白蟻)奴等には流石に俺達を追う
余力は無いだろうな……あいつらはな――」

「それって‥‥」
 アリアは顔を硬直させロギアの顔に視線を向ける。

「橘達の所に表れて、尚且つそこから離れているこの場所にも居た。こりゃ相当連中はアリアにお熱だな」
 冗談ぽく言うロギアにアリアは頬を膨らませ不快感を示す。

「急いでここを出るぞ、安全じゃない」

「うん――――」

 アリアの返事が終わると同時に喫茶店内の奥の扉が開き二体の感染者が現れる。一体は身体の所々が腐敗し始めており動きが遅いが、「キチキチキチキチ」既に一体は不快音を鳴らしこちらに向かって大口を開け走り始めている。

「すまん」
 ロギアは応急処置中のアリアを強く押しのけると砕けて落ちている椅子の足を掴み接近する感染者の顎に向け大きく振りかぶりフルスイングした。

 顎が砕ける音と共にその重量で自身の腕が悲鳴を上げた。「ぐッ」その痛みに声が漏れるが、感染者は後方へと吹っ飛びもう一体の腐った感染者に激突しもみくちゃになる。鋭い爪で攻撃されなかっただけマシだ、ロギアはそう自身に言い聞かせ腕を抑えながら、アリアの元へと戻る。

「急ぐぞ……」
 アリアもその言葉に続き二人は喫茶店を急いで後にした。
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