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市場
しおりを挟む「わぁ……」
景色を見て呟くアリア。
この前訪れた都会の街並みとは違い此処は狭い通りに露天が並んでおり、景色の奥には神社らしき建造物が見えた。そしてこの場に居る民衆ののんびりとした場の空気を楽しんでいるその風景に呆然としてしまう。
「良い香り……」
「思ったよりも並んでいる店の数は多いんだな」
鼻を刺激する食べ物の匂い、ロギア的にも都会の様な場所よりもこういった庶民的に感じる雰囲気の方が好きだった。なにより少しはしゃいだ様なアリアの姿に頬が緩んでしまう。
”アリアも楽しそうで良かったな。あの暗く俯いている顔の面影など一切見えない。だが――――”
ロギアは視線を左右へと動かす。
人とすれ違う度にチラチラとこちらを見られている気配がした。ロギアはアリアを見てその髪色に目が留まる。白髪――――今まで気にさえしなかったがこうして見ると周囲の人々とは違いかなり目立っている。
ロギアはアリアから視線を外し、注目する民衆とわざと目を合わせ、その民衆が気まずくなり去っていくのを見届けていると横からアリアの顔が覗き込んできた。
「ロギ、どうしたの?」
「いや、何でもない」
アリアはその言葉を聞き、辺りを見回した後状況を理解したのか少し息を吐いてからロギアの顔をじっと見つめた。
「ん? 何だ?」
「私も色々と目立っているかもしれないけど……多分、ロギもそんなに変わらないんじゃないかなと思うけど……」
「俺も?」
そう言われてみて改めて自信を再確認する。いつ何が起きても対処出来る様に今までの暮らしと変わりが無い一通りの装備はしており、私服も洗いはしたが履きなれたズボンに何か所か破れている上着。ロギアだけは明らかに周囲の人々とは面影も空気もずれていた。
”肌に馴染む服装で気にしてはいなかったが……違ったか……が、この格好の方が動きやすいし、いざって時に対処の為にって考えてもな”
「いや……これはだな――――」
今更どうしようもなく考えているとそんなロギアの様子を見てアリアがクスリと笑う。
「私は他の人からの視線は気にしてないからね」
再びその視線は露天と周囲の人々等を観察し始める。
そんな姿を視界に入れロギアも自身が余計な考えに気を回していた事に反省しつつ、アリアの後を追う様に歩き始めた。
「お二人共、喉は乾いてませんか?」
振り返ると、アリア達が辺りを眺めている内に買ってきたのだろう、桐ケ谷尊信(きりがやたかのぶ)が二人に飲み物を差し出してくる。
「ありがとう……ございます」
二人は飲み物に口を付け水分補給をする。
「一息ついたよ、ありがと」
「晩御飯の時間までまだ時間がありますし此処で何か食べていきましょう」
桐ケ谷尊信は二人の様子に微笑み、辺りの店へと関心を向けると同時に芳ばしい香りが漂って来た。
「こうして見ると、懐かしい気分になるな」
奥に見える建造物まで道の両端に配置される屋台に視線を向けロギアからそんな言葉が漏れ出た。
果物も販売されている様で籠から見える色とりどりの果実を眺めているだけでも気分が上がってくる。
「お祭り、って雰囲気も懐かしくなるね」
アリアがロギアの独り言にそう返すと、各屋台に近寄り何やら思案気な表情をしたり、店員から声をかけられオドオドしたり、笑ったりと表情が変わる様を見てロギアも心を落ち着かせ安心してその様子を眺めていた。
「心配はないでしょう。此処の主催の方には私から話は通してありますし、此処に見える方々は優しい人ばかりですからロギアさんもアリアさんと一緒に」
桐ケ谷尊信がほほ笑む。
「確かに……」
ロギアがアリアと店員のやり取りを眺めてから「それもそうだな」
ロギアはアリアに歩み寄っていく。
一行は特にあてもなく此処の通りをぶらぶらと歩き、それぞれ気になった屋台で購入した食べ物を口に含む。更に通りの奥に見える神社にも足を運び、久しぶりにこんな世界になる前の様な平和で笑っていられる時を過ごした。
公衆便所の一室で石井は戸締りを確認し鏡に映る顔を凝視する。
目の前の鏡に浮かぶ自身の顔からブクブクと気泡が上がる。しだいにその数は多くなり、それが納まる頃には自身の顔に違和感を感じた。
「うわぁ!」
小さく悲鳴を上げ、目を擦りその部分に触れ何度も確認するが先程の鏡に映った異物は全く感じられずただ汗が顎を伝い落ちる。
何度も顔を近づけて注視すると皮膚の下に何かが蠢いているのが見える気がし、その姿が自身が忌み嫌う感染者の容姿と重なり石井は吐き気を起こし餌付いた。
「――――うッ!?」
口を押え後退る。
「このままじゃあ――――間に合わない……」
顔中を触り若干膨らんでいる皮膚に触れ恐怖し絶叫を上げる。
「こうなってしまってはもう自分では何も出来ない――――――どのみち間に合わないなら――――」
石井の頭にアリアが浮かび上がる。
”そんな運命を受け入れられない――どうする、どうする――――?”
現実を直視出来ない。
グルグルと思考をめぐらせながら足取りは重く、公衆便所から出ると近くのベンチで休んでいるロギアとアリアが気付き顔を向けてくる。
「石井さん、大丈夫ですか?」
顔色が悪い様子を見てアリアが首を傾げる。
「ええ、大丈夫です……少しお腹の調子が良くなくて……」
歩き出そうとする運転手を手で制す。
「そのまま……顔色が良くないからまだ座って安静にしていた方がいいかな」
アリアの背後に見える景色はすっかり夕暮れに染まっている。
アリアは端末で野暮用でこの場を離れている桐ケ谷尊信と連絡を取り、運転手から目は離さず状況を説明する。
「石井さんかなり疲れているみたいだし――――」
「――――そうですか」
アリアは相手の言葉に頷き、ベンチに座る運転手に顔を向ける。
「今、桐ケ谷尊信さんと連絡をとっていますから安心してくださいね」
ロギアはその様子に目を配りながら運転手の顔へと目線を送る。
「ぼ、僕は――――取り返しのつかない――」
「?」
「悪気はなかったんだ……これしか――――」
ボソボソと呟く運転手の言動に違和感を覚えた。
「これでしか生き残れるだなんて」
「おい、アンタ本当に大丈――――」
「お待たせ致しました皆さん、今回は私が運転しましょう、石井さんはゆっくり休んで居て下さいね」
桐ケ谷尊信の声が聞こえそれに合わせてアリアも駆け寄ってくる。
桐ケ谷尊信は運転手の様子を軽く診断し、医療チームの兵士と連絡を取ると「見る限り顔色も悪い様ですし貴方は休んだ方が良いですね、休暇の事も私がとっておきます」
「あ、ありがとうございます……」
医療チームの一人の兵士と合流し運転手を預け、桐ケ谷尊信は話をした後ロギア達の元へとやってくる。
「彼等は取り合えず病院の手続きはしましたのでそちらに向かわれると思います」
「そう……か……」
運転手がボソボソと呟いていた事が気になりつつも、医療チームの兵士が運転手を連れて行くその姿を見送ると、桐ケ谷尊信が運転をし自宅へと戻っていった。
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