Ninfea

蠍ノ 丘

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異様な感覚と規律

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「「……」」「……」

 空気が重過ぎる、ロギアが苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべ、アリアも視線が泳ぐ。ついてきた桐ケ谷尊信でさえ何故か笑顔で黙っている。

 お互いに何かを喋る事無く見つめ合う。田緻本 完爾(たちもと かんじ)の威圧感に耐え切れなくなったのかアリアが一旦視線を逸らす。

「お茶でもご用意しましょうか」
 桐ケ谷尊信がそう言うと席を立つ。

 ”この状況をどうにかしてから行け”
 ロギアは部屋を出て行く青年にそう声をぶつけ様とするが声がでなかった。

「むぅ……」
 射貫く様な鋭い視線にアリアの身体が一瞬跳ねたものの、直ぐに姿勢を正し、目に前の田緻本 完爾を見やる。

「あの場では話しづらかったのであろう? 話せ」
 粗暴な言い方がロギアの癪に障ったが一睨みしてから口を開ける。

「どうしてアリアが感染者だと見抜いた? 書類に記載されていたのか?」
 
 その問いに田緻本 完爾は眉一つ動かさない。

「ふむ…………確かにハッキリと書類に記載はなかった。だがお前たちの此処に来る迄の詳細と、マザーがお前達をどの様な扱いで此処に招き入れたのか、それが書かれていた以上、それは深く考えずとも明確だ」

 田緻本 完爾は表情を崩す事無く淡々と述べた。

「純粋に近い……高濃度とはどういう意味ですか?」
 アリアがロギアに続きそう問いを投げる。

「奇怪な話だが私にはそういう事が判る。詳しい事はマザーに聞くと良いが、お前達は聞いた事ないか? 寄生虫の中には非常に弱く、宿主の体内に潜伏する事でしか生きられない物が居る。ソイツは自身が住みやすい環境を形成し、自身の生存の為、宿主が絶命しない様に寄生される以前よりも身体能力を大幅に上昇させる珍しい個体が居る事を」

 アタッシュケースの中にあった寄生虫の特性で似た様な物を見ていたロギアは橘 和倻(たちばな かずや)を含め目の前に居る田緻本 完爾から伝わる異様な感覚に納得がいった。

「寄生虫を制御出来ているのか?」
 ロギアのその質問にアリアは息を呑み田緻本 完爾へと視線を向ける。

「いや、これは時限爆弾の様な物だ、決して制御は出来ないだろう」
 田緻本 完爾は自身の手を見て握りしめる。そして視線が上がりロギアとアリアを捉えると言葉を続けた。

「偶々その様な個体が見つかり研究が進んだだけ、簡単に言えばこれは実験の様な物だ。私のバイタルや生命等は遠隔で管理されているから故、間違って暴走したとしても被害は私一人だけに抑えられる。街の異常をすぐさま察知出来る様、監視人も大勢いるからな」

 平然と言う田緻本 完爾に寄生虫の話もそうだが他人に自身の命を渡している事にアリアは絶句する。

「純粋に近い高濃度。そう言ったのは私の感覚だ。寄生虫が住み着いている身体だ、そう感じても可笑しくはあるまい?」

 他にも対策があるとしても、どんな形であれある程度は寄生虫を管理出来ている事にロギアは驚き、アリアも息を呑む。

「ロギ……」

「ああ、そこまで技術が進んでいるなら――――」
 ロギアはアリアを見てアタッシュケースに入っていた書類に書かれていた事を思い返す。

 アリアの特性の事も、これから共に生きていく上で必要となる情報等。アリアがマザーの親族と言う事もあり、あの態度、悪く扱われる様な事は無いと感じている今この場所でマザーの下で出来るだけ多くの事を知識としても貯め込んでいく必要が見えてきた。

 それはアリアも自身の身体についても似た様な事を考えたのか顔が引き締まる。


「……お前達はこれからもマザーの世話になるのだろう? その時にでも直接聞いたらどうだ? 私よりも情報を多く持つ者に問いただした方がお前達にとっても実りがあるだろう」

「……確かに」
 ロギアは頷くと田緻本 完爾を見る。

「アンタと会った事でこれからの事がより見えて来た気がするよ」

「そうか」
 会話が終わったと思った時、足音が聞こえ部屋にタイミングを見計らっていたであろう桐ケ谷尊信がお茶を持って入って来る。

「お待たせしました、真面目な会合も一通り終わった事ですし、甘いものも如何でしょうか?」
 桐ケ谷尊信が微笑み幾つかの饅頭と共にお茶を配り始めた。




 アリアは視線が外へと動く。

 声を上げ、筋トレから始まり走り込み、常に動き続けていた。

 田緻本 完爾はアリアの視線が外に居る兵士に向けられていると気付いたのか同じ方向へと顔を向ける。

「今この世界では個人で行動するよりも集団での方がいざって時の生存率は高いだろう。その為の規律であり個人の自由は制限をかけてある」

「自由を制限って……」
 アリアの顔が暗くなり、ロギアが心配になり顔を見る。

「嫌われる事は気にしてないのか?」

 その視線が田緻本 完爾と重なる。

「お前は私を恐れないのだな、長く私の下に居る者でさえあの様だと言うのに」
 真っすっぐに目を合わせ言うロギアにそう呟き、田緻本 完爾は外へと目線を向け溜息を零す。

「……お前の抱く感情は理解はしている。あれらも同じ事を抱くのも判るし、私が恐れ恨まれるくらいは問題ない」

「……問題ない――どうしてそこまで?」

「この様な規律程度で、と緩んだゆえに命を落とす者等何百と見たわ、それと比べる迄もないと思うが」

 田緻本 完爾は鼻で笑い兵士達に視線を向けた後、ゆっくりとお茶を口に含む。

 流石に厳し過ぎないか、ロギアはそんな言葉が口から出かかったが、田緻本 完爾のその思考自体が理解出来、反論しなかった。

「何事にも規律が機能し、それに応えられる体力さえ作っていれさえすれば命を失う事も無い。その数が多ければ多いだけそれが生き残った者達の財産ともなりえる」

「だから私は如何なる場面でも対応出来る様、兵士達を訓練せねばならぬのだ」

「それが理解出来たならば余計な心配は不要である。此処は私の居場所だ。もししごかれたいと言うのであらば安心して此処に立ち寄ると良い」

 その言葉にアリアは苦笑いで応じた。



「――――話は終わりましたか? では行きましょうか」
 数分程会話を交わし、出されたお茶を飲み終えると、話が終わりと察したのか桐ケ谷尊信が告げた。

「そうだ、これを持って行くと良い」
 田緻本 完爾は表情一つ崩さず紙袋をアリアに差しだしてきた。

「お、お土産……」
 二人はいきなり渡された事に驚いたが、紙袋の中、幾つかの饅頭と煎餅を受け取ると頭を下げ礼を述べる。

 三人が屋敷を出て門兵から遠ざかると「――――はぁ……」緊張の糸が切れ、今頃疲れがどっと押し寄せて来た。

「ご苦労様です」
 桐ケ谷尊信が笑顔で語り掛けて来る。

「ではそろそろ行きましょうか、石井さんお願いします」

 三人は車に乗り込み、次の会合相手の元へと車を発進させた。
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