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1章 異世界女神とアンデッドジジイ
11 大愚者フェグワート
しおりを挟む古代都市アルカニオン。
その全盛期には、8人の賢者と2人の大賢者と呼ばれる者がいた。
彼らは魔法の才に秀で、世界をその叡智で導いていった。
だが一人の大賢者は禁忌を犯し、後に大愚者と呼ばれることになる。
名をフェグワート・リール・サンダルフィア。
始まりの不死の帝王とも呼ばれる元大賢者である。
彼の才能は別格であった。
8人の賢者ともう1人の大賢者を合わせたとしても、彼には敵わないと言わしめる程の天賦の才。
追随ゆ許さぬほどの魔術の腕は、単騎で魔王を凌駕するとまで言われていた。
彼は勤勉で、常に人々の為に新たな魔法、新たな魔道具の開発を行なっていた。
どれもが生活の助けになり、民を支えていたことは間違いない。
彼は全ての民にとって英雄であったのだ。
彼が禁忌に触れるあの日までは。
◇
死霊魔術。
死そのものを操る魔術である。
ある者には、死は恐怖の象徴。
ある者には、死は無の象徴。
またある者には、死は救済の象徴であった。
その概念を嘲笑うかのごとく、死者を操り、死期を操る。
それが死霊魔術であり、人々には到底受け入れ難いものであった。
だが、死霊魔術は難解過ぎた。
死という概念はそうそう操れるものではない。
魔術を志した者の中には、少なからずその深淵を覗き見た者がいただろう。
だがそれも覗き見るだけに過ぎず、自らの手に収められた者は誰一人としていなかった。
彼が死霊魔術に手を出すまでは。
◇
彼は幸運にも並々ならぬ才能を持っていた。
いや、不運にも才能を持ち過ぎていたのかもしれない。
彼は今まで様々な魔術の難題に取り組んできた。
空間と空間を繋ぎ、その距離をゼロにすることができる転移魔術。
特定の条件下で、時を遅らせることを可能にする時空魔術。
皆が不可能と思い諦めた魔法を、彼は時間をかけてだが成立させた。
彼に使えない魔法は無い。
人々は口々にそう言った。
しかし彼にも人としての限界があった。
いくら天才といえど、人の身である以上は寿命という壁にぶち当たる。
彼はそれを憂いた。
自分にはまだ使命がある。自分には果たさねばならない約束があると。
その約束を果たす為には、寿命という存在が邪魔をした。
人であるという枷が重くのしかかった。
彼は魔法で幾度となく問題を解決してきた。
今回もまた同じだ。
新たな魔法を使い、枷を取り除けばそれで良いと。
彼は探究した。
死の概念を。死を操る魔術を。
そして彼は完成させた。
いや、完成させてしまった。
ついに彼の歯車は大きく崩れることになった。
◇
少年は魔法が得意であった。
村の神官が魔法を見せると、彼は見ただけで魔法を行使してみせた。
攻撃魔法、補助魔法、治癒魔法。
ありとあらゆる魔法を覚えた彼は、意気揚々と家に帰っていった。
大きな声で帰宅の挨拶を済ませた彼は、床に伏せる弟の元へと駆け寄った。
大きな音を立てながら近寄れど、弟は目を覚さない。
弟は生まれてから一度も目を覚ましたことがない。
原因は呪いであった。
それも、人の身には過ぎる呪い。
彼は覚えた魔法を弟に使っていった。
一つ一つ、効果や反応を見ながら。
しかし何一つとして効果は無かった。
そんな日々が10年も続いた。
やがて賢者と呼ばれるようになった彼には、使えない魔法はなくなっていた。
しかしそれは、現存する魔法では、だ。
存在する全ての魔法どれを試しても、弟の呪いは消えることはなかった。
彼は新たに魔法を創り出す研究を始めた。
いくつも魔法を創り出したが、その最中に弟は天に旅立ってしまった。
結局彼は、弟の声も知らぬまま悲しみに暮れることになった。
自分に才能があったのは、弟を救う為だと確信めいたものを感じていたのだ。
彼は決意した。
弟のような呪いに苦しむものが二度と出ないようにすると。
そのときまでに魔法を完成させて見せると。
幸いなことに、彼の弟のような重過ぎる呪いを抱えた者が現れることはなかった。
やがて彼は大賢者と呼ばれるまでの地位と名声を得た。
ただ彼はまだ、弟のような重い呪いを祓う魔法は完成させていなかった。
◇
王は耳を疑った。
目の前の大賢者が、死霊魔術を完成させたと。
寿命がなくなり、いつまでも研究ができると喜び勇みながら報告を上げていた。
疑ったのはそれが真実かではない。
彼ならばそれを完成させるだけの実力と実績があったからだ。
耳を疑ったのは他でもない。
彼が人としての禁忌、命を冒涜する魔術である死霊魔術に手を出してしまったという点である。
果たして、寿命をどうにかするなら他になかったのか。
彼ならば寿命の100年や200年を延ばしたり、肉体を衰えさない魔法だって作れたはずだ。
それなのに、何故死霊魔術なのか。
王は頭を抱えた。
喜ぶ彼を一旦研究施設に帰し、国の重鎮を集めて話し合いを行った。
話し合いは王の望まない結果に終わった。
王は最後まで彼の肩を持ったが、彼を邪魔に思う勢力の声が大きかった。
そして彼の犯した罪は、大々的に国全体に広まっていった。
◇
魔物は討伐すべし。
あまりにも当たり前であるが故に、国民も納得せざるを得なかった。
力持つ者が魔物と化した。
そのフレーズだけで、人々が恐怖するには十分であった。
賢者たちに命がくだり、兵士たちと共に魔物討伐が行われた。
大規模な被害が予想された。
だが、予想に反して被害は皆無であった。
彼は人の心を残した魔物であった。
討伐隊の誰もがそれを理解したが、国の命令には逆らうことができなかった。
お世話なった人物に魔法を放ち、憧れの人物の肉を切り裂き、敬愛する師匠を吹き飛ばした。
やがて血肉は失せ、骨のみ残した彼の姿を見て、もはや討伐隊は皆耐えられなかった。
そして討伐隊は国に討伐完了の報告をした。
◇
年月は流れ、彼の名は悪名として広がっていった。
己の欲望の為に不老不死を求め、魔物に身を窶した大愚者フェグワート。
その者の最後はスケルトンとなったが、その実力は魔王をも凌駕したと。
彼こそが、始まりの不死の帝王にして人類史上最強のアンデッド。
彼を知る人も、真実を知る人ももう誰もいない。
あの日までは。
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