ルームメイトが釣り系男子だった件について

perari

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夜。
俺と仁野は、校内を歩きながら夜風に当たっていた。
人はまばらで、静かだった。
俺は街灯を一つ、また一つと数えていった。
そして、二十本目を数え終えたところで、ようやく決心がついた。
「仁野……話したいことがあるんだ」
ちょうどそのとき、彼のスマホが鳴った。
俺の言葉は、あっさりと遮られる。
彼はスマホを開き、しばらく画面を見つめていた。
眉間に皺が寄っていき、手が小刻みに震えながら、ゆっくりスクロールしていた。
――胸騒ぎがした。
「仁野? どうかしたの?」
俺がそう訊くと、彼はこちらを振り返った。
その目は……冷たくて、まるで知らない人のようだった。
しばらく俺を見つめたあと、唇を震わせながら、静かに問う。
「これ、全部……お前が書いたのか?」
スマホの画面には、俺がうっかりグループに投稿してしまった例の文書が映っていた。
「みんなが言ってた。これ、聡太がグループに流したって……本当なのか?」
声は大きくない。
けれど、その一言一言が、俺の胸に突き刺さる。
言わなきゃ。何か、言わなきゃ。
「違う、仁野、聞いて、説明するから……」
彼は俺の言葉を遮らずに、言った。
「いいよ。説明してみて」
時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。
俺たちは向き合ったまま、沈黙が流れる。
だけど、口を開こうとして気づいた。
――彼が言ったことは、すべて事実だ。
弁明の余地なんて、どこにもない。
仁野は、どこか呆れたように笑った。
「もう話せないの? 聡太。お前が俺に近づいて、優しくしてくれたのって……全部、ネタ集めのためだったのか?」
彼はスマホの画面を指差した。
そこには、俺が固定コメントに書いた文章が表示されていた。
【皆さん、応援ありがとうございます!これからもたくさんインスピレーションを集めて、いい作品を書きます!】
……鼻の奥がツンとした。
俺はかすれた声で言った。
「本当は、それを……今日、話そうと思ってたんだ」
「なるほどね。もう素材は十分集まったし、そろそろネタバレしてもいいかなって?」
――違う。そんなつもりじゃ……。
だけど、顔を上げると、そこにあったのは――
失望の目だった。
俺は、蚊の鳴くような声で言った。
「仁野、ごめん……全部消すから」
彼は何も言わず、背を向け、そのまま行ってしまった。
「本当に……バレちゃったの?」
電話の向こうで、編集さんが頭を抱えていた。
俺は重い足取りで歩きながら、覚悟を決めて言った。
「うん……もう、削除しようと思ってる。仁野に、これ以上迷惑かけたくない」
「やめてって!削除なんてしたら、本当に読者から包丁(ファンの抗議の意)送られてくるって!大炎上不可避だよ!」
「……もう、十分辛いんだ」
「じゃあさ、一旦更新を止めよう。ね?仁野くんとのこと、落ち着いてからまた考えようよ」
――落ち着く?
さっきの仁野のあの顔、あの目……とても話し合えるような雰囲気じゃなかった。
「無理だよ。あいつ……もう完全に縁を切るつもりだと思う」
編集さんはしぶしぶ、小さく息を吐いた。
「……でもさ。誰だって、自分を“ネタ”にされたら怒るよ。ちゃんと、謝って。心から、ね」
俺はスマホを開き、更新停止のお知らせを投稿した。
【しばらく更新をお休みします。再開の時期は未定です。】
コメント欄は泣き叫ぶ読者の声で埋め尽くされていた。
だけど、俺は静かに、プラットフォームをログアウトした。
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