三ヶ月だけの恋人

perari

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松田は動作が素早く、仁野が待つこと数分もせず、ドアをノックする音が聞こえた。仁野はドアを開け、進むように手で合図する。「ちょっと待って、靴を履くから」 彼の足にはまだホテルの使い捨てスリッパが残っていた。
松田はそのまま部屋に入ってきた。仁野はベッドの端に腰をかけ、前かがみになって靴紐を結ぶ。顔を上げると、松田が机の上のメダルに集中して見入っているのに気付いた。
仁野は立ち上がり、メダルを手に取って差し出した。「見たい?」
松田は慎重に手を伸ばし、低く頭を下げてじっくり眺める。裏面の文字まで確認し、両手で大事そうに包み込んだ。指先で浮き彫りを撫でながら、その重みを確かめるようにしていた。
しばらくして顔を上げると、目の端や口元にささやかな喜びが滲んでいる。「まだおめでとうって言えてなかったね」
仁野はその笑顔を見て、掲示板に貼られていた受賞写真をふと思い出した。松田自身があんな大きな賞を取ったときの表情よりも、今の生き生きとした顔のほうがずっと印象的だ。
世界で、自分の成し遂げたことを純粋に喜んでくれる人は、両親以外にどれだけいるだろうか――仁野はそう思った。
そして手を伸ばし、メダルを松田の首に掛け、両手を肩に置いて、目を見下ろす。「つけてていいよ。夜になったら返して」
松田は驚きと喜びで胸がいっぱいになる。手で冷たく硬い金属を触りながら、衣服の上からメダルを軽く押し込む。ひんやりとした感触が不思議で、すぐに体温で温まるのを感じた。
仁野は彼を見つめ、肩を抱きながら言った。「行こう」
二人は結局、焼き鳥を食べに行った。人通りの多い歩行者天国で、座ってたくさん注文した。仁野はビールを頼み、松田に訊いた。「飲む?」
松田は首を振る。「水でいい」
食べ終える頃には、仁野も少し満腹になっていた。外はすっかり夜になり、街灯がほのかに影を伸ばしている。仁野が会計を済ませ、二人は並んでホテルへ歩いた。風に当たりながら、足取りは穏やかで、ゆっくりと進む。
帰り道、仁野はスマホのナビを使わずに歩いた。途中で少し道に迷い、立ち止まってスマホを取り出す。「ちょっと、ナビ見よう」
松田は道端で静かに待っている。その横顔に街灯の光が落ち、柔らかい輪郭を際立たせる。松田は首のメダルを取り出し、光にかざしてじっと眺めていた。
仁野は思わず笑った。「そんなに気に入ったの?」
松田は照れくさそうに答える。「焼き鳥の匂いがつくのが嫌で…」
仁野は手を伸ばし、メダルを取り、近くで嗅いでみる。メダルはまだ松田の首にかかったままだった。仁野の動作に、松田は胸がどきどきして体が硬直する。
仁野は顔を上げ、微笑みながら言った。「焼き鳥の匂いはしない。でも君のボディソープの匂いがする。嗅いでみる?」
松田は赤面して、どうしていいかわからない。心の奥で膨らむ思いが、すべてを曖昧に染めていた。
仁野は再び笑顔で訊いた。「嗅ぐ?」
松田は無意識に小さく頷くしかなかった。
仁野は手を離し、柔らかく笑った。
松田の顔はさらに赤くなる。
仁野は笑みを収めつつ、淡い笑顔を残して名前を呼ぶ。「松田」
松田はその視線を受け止める。
暖かい街灯の光が松田の横顔を包み、柔らかな髪が光を受けてきらめく。小さな産毛まで見え、頬には温かい金色の縁取りが差す。緊張で軽く固まった顎、唇はほんの少し閉じられ、首にはメダルのリボンが銀色の光を反射して揺れていた。
仁野は手を伸ばし、そっと松田の顎を支え、額に軽く口づけした。

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