2 / 16
2. 婚約の無効に向けて
しおりを挟む
「ミレリア様の望む穏便に済ませられるか分かりませんが、先日従姉妹が婚姻を無効に致しました」
「婚姻の無効?」
ミレリアにとって興味深い話だった。
「はい。婚姻の無効は離婚とは異なり、結婚自体を無かった事に出来ます。しかし、白い結婚である事を証明する必要があります」
「その方はどうやって証明したの?」
「医師の診断書を使いました」
「そうなの。医師以外でも白い結婚を証明出来れば、婚姻の無効は可能かしら?」
「と、申しますと?」
ロレッタは首を傾げでミレリアを見た。
「毎晩部屋の前で護衛をしてくれている方が証言してくれると思うの。他には侍女達ね」
「はい。それで十分かと思います」
「ふふ。そう」
ロレッタの返事を聞くと、ミレリアは嬉しそうに笑った。
「ですが、第一王子殿下との婚姻の無効は中々難しいかと思います」
「ええ、分かっているわ。だけど、少しだけ希望が見えたわ。私も夫に愛されて幸せになりたいの。せめて、妻の事を愛している振りが出来る人と結婚がしたかったわ」
悲壮感漂うミレリアの表情に、ロレッタは見入ってしまった。
ロレッタの知るクロヴィスとミレリアの仲は、悪く無かったように思う。
クロヴィスが王太子になれるのは、ミレリアのおかげだ。
それなのにクロヴィスは、結婚してすぐにミレリアを無下に扱った。
ミレリアをこのように扱えば、離婚の話が出て来るのは予想が出来た事で、王太子の座が第二王子に代わる可能性も考えられただろうに。
王太子になりたくないのであれば、ミレリアとの結婚を断われば良かったのだ。
ロレッタの予想ではクロヴィスは、ミレリアの事が好きで結婚をしたのでは無いだろう。もしそうであれば、ミレリアに冷たく当たる必要はないのだから。
ロレッタが知るクロヴィスは、真面目を絵に描いたような人物だ。
だから、ランチェスター公爵家を後ろ盾につけて、王太子に選ばれたのだろう。
そのような人物がいったいなぜ?
ロレッタは首をひねった。
「婚姻の無効となれば、ミレリア様の所にはすぐに次の縁談の話が舞い込むでしょうね」
「そうかしら?」
ミレリアは嬉しそうに笑った。
今日一番の笑顔だ。
先程からミレリアの切なげな顔を見ていたロレッタは、婚姻の無効が無事に成立すと良いと思った。
「ええ。ミレリア様は社交界の華ですから」
「ふふ。お世辞でも嬉しいわ」
お世辞では無いのだが、ミレリアには伝わらなかったようだ。
ロレッタが帰ってから、ミレリアはすぐ行動に移した。
父親のランチェスター公爵に向けて手紙を書き、二日後には実家のランチェスター家の屋敷に帰った。
クロヴィスにも、実家に帰る事を手紙に書き、返事を一日待ったが、返事が届く事は無かった。
公爵家に帰ったミレリアは、父と母に結婚をしてからの半年間の出来事を報告した。
憤慨した公爵夫妻は、すぐに婚姻無効の書類を準備し、陛下との謁見を取り付けた。
ミレリアが実家に帰ってから一週間程経った今日。ミレリアは、王宮に戻って来ていた。
今日は父も一緒だ。心強い。
「愚息が申し訳ない事をした」
陛下からの謝罪の言葉は聞いたが、クロヴィスからは無く、ミレリアは目の前に座る二ヶ月ぶりに会う夫を見た。
クロヴィスは目を瞬かせて固まっている。
もとは王家からクロヴィスを王太子とするためにと打診された婚姻だった。
それをこのような扱いをすれば、こうなる事は分かっていただろうに。
ミレリアは首を傾げてクロヴィスを見たが、クロヴィスの表情からは驚き以外は読み取れない。
ミレリアがクロヴィスを観察している間に、陛下とランチェスター公爵の話し合いは進んで行き、婚姻無効の書類にサインをする事になった。
陛下がサインをすると、慰謝料を支払う事と嫁ぎ先を斡旋すると言ったが、ランチェスター公爵は、慰謝料のみでミレリアの新たな嫁ぎ先を見つけるのに王家の力を借りるのは断った。
陛下が婚姻無効の書類にサインを終えると、空欄はクロヴィスのみとなった。
目の前に置かれた書類を見たクロヴィスは微動だにしなかった。
「ランチェスター公爵」
皆の視線が集まる中クロヴィスは、重々しく顔上げ、ランチェスター公爵を見た。
ランチェスター公爵は、無言のままクロヴィスと視線を合わす。
「……ランチェスター公爵。ミレリア嬢との婚約を続けさせていただけないでしょうか?」
「婚姻の無効?」
ミレリアにとって興味深い話だった。
「はい。婚姻の無効は離婚とは異なり、結婚自体を無かった事に出来ます。しかし、白い結婚である事を証明する必要があります」
「その方はどうやって証明したの?」
「医師の診断書を使いました」
「そうなの。医師以外でも白い結婚を証明出来れば、婚姻の無効は可能かしら?」
「と、申しますと?」
ロレッタは首を傾げでミレリアを見た。
「毎晩部屋の前で護衛をしてくれている方が証言してくれると思うの。他には侍女達ね」
「はい。それで十分かと思います」
「ふふ。そう」
ロレッタの返事を聞くと、ミレリアは嬉しそうに笑った。
「ですが、第一王子殿下との婚姻の無効は中々難しいかと思います」
「ええ、分かっているわ。だけど、少しだけ希望が見えたわ。私も夫に愛されて幸せになりたいの。せめて、妻の事を愛している振りが出来る人と結婚がしたかったわ」
悲壮感漂うミレリアの表情に、ロレッタは見入ってしまった。
ロレッタの知るクロヴィスとミレリアの仲は、悪く無かったように思う。
クロヴィスが王太子になれるのは、ミレリアのおかげだ。
それなのにクロヴィスは、結婚してすぐにミレリアを無下に扱った。
ミレリアをこのように扱えば、離婚の話が出て来るのは予想が出来た事で、王太子の座が第二王子に代わる可能性も考えられただろうに。
王太子になりたくないのであれば、ミレリアとの結婚を断われば良かったのだ。
ロレッタの予想ではクロヴィスは、ミレリアの事が好きで結婚をしたのでは無いだろう。もしそうであれば、ミレリアに冷たく当たる必要はないのだから。
ロレッタが知るクロヴィスは、真面目を絵に描いたような人物だ。
だから、ランチェスター公爵家を後ろ盾につけて、王太子に選ばれたのだろう。
そのような人物がいったいなぜ?
ロレッタは首をひねった。
「婚姻の無効となれば、ミレリア様の所にはすぐに次の縁談の話が舞い込むでしょうね」
「そうかしら?」
ミレリアは嬉しそうに笑った。
今日一番の笑顔だ。
先程からミレリアの切なげな顔を見ていたロレッタは、婚姻の無効が無事に成立すと良いと思った。
「ええ。ミレリア様は社交界の華ですから」
「ふふ。お世辞でも嬉しいわ」
お世辞では無いのだが、ミレリアには伝わらなかったようだ。
ロレッタが帰ってから、ミレリアはすぐ行動に移した。
父親のランチェスター公爵に向けて手紙を書き、二日後には実家のランチェスター家の屋敷に帰った。
クロヴィスにも、実家に帰る事を手紙に書き、返事を一日待ったが、返事が届く事は無かった。
公爵家に帰ったミレリアは、父と母に結婚をしてからの半年間の出来事を報告した。
憤慨した公爵夫妻は、すぐに婚姻無効の書類を準備し、陛下との謁見を取り付けた。
ミレリアが実家に帰ってから一週間程経った今日。ミレリアは、王宮に戻って来ていた。
今日は父も一緒だ。心強い。
「愚息が申し訳ない事をした」
陛下からの謝罪の言葉は聞いたが、クロヴィスからは無く、ミレリアは目の前に座る二ヶ月ぶりに会う夫を見た。
クロヴィスは目を瞬かせて固まっている。
もとは王家からクロヴィスを王太子とするためにと打診された婚姻だった。
それをこのような扱いをすれば、こうなる事は分かっていただろうに。
ミレリアは首を傾げてクロヴィスを見たが、クロヴィスの表情からは驚き以外は読み取れない。
ミレリアがクロヴィスを観察している間に、陛下とランチェスター公爵の話し合いは進んで行き、婚姻無効の書類にサインをする事になった。
陛下がサインをすると、慰謝料を支払う事と嫁ぎ先を斡旋すると言ったが、ランチェスター公爵は、慰謝料のみでミレリアの新たな嫁ぎ先を見つけるのに王家の力を借りるのは断った。
陛下が婚姻無効の書類にサインを終えると、空欄はクロヴィスのみとなった。
目の前に置かれた書類を見たクロヴィスは微動だにしなかった。
「ランチェスター公爵」
皆の視線が集まる中クロヴィスは、重々しく顔上げ、ランチェスター公爵を見た。
ランチェスター公爵は、無言のままクロヴィスと視線を合わす。
「……ランチェスター公爵。ミレリア嬢との婚約を続けさせていただけないでしょうか?」
28
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
似合わない2人が見つけた幸せ
木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。
*1日1話、18時更新です。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
【完結】「お前を愛することはない」と言われましたが借金返済の為にクズな旦那様に嫁ぎました
華抹茶
恋愛
度重なる不運により領地が大打撃を受け、復興するも被害が大きすぎて家は多額の借金を作ってしまい没落寸前まで追い込まれた。そんな時その借金を肩代わりするために申し込まれた縁談を受けることに。
「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」
「…かしこまりました」
初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。
そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。
※なろうさんでも公開しています。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる