エルーシアの物語

ねむ太朗

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「所でフォンダーン王国の方々は、ディリック様以外にもこの国の事を不思議に思っているのですか」

「不思議に思っている人間はいる。しかし、ライングドール王国は豊かだから、あまり刺激をしたくないのだろう。我が国も、ライングドール王国からの支援に感謝をしている」

「ではディリック様が不思議探しをするのは大丈夫なのですか」

「一応、父上経由で国からの許可は貰っている。あまり期待をされていないがな。父上に関しては、俺が家から出る為の言い訳か何かだと思っているようだ。ライングドール王国の王族に直接聞きに行くことはやってはいけないが、こっそりと調べる許可はいただいた」

「それって、スパイと言うのでは……」

  ディリックは、腕を組んで考えはじめた。

「そうとも言うかもしれない」

「私……やはり、家に帰ろうかしら……」

「まあ、安心しろ。真実にたどり着いたとしても、エルーシアが協力した事は伏せといてやる。それに、家に帰りたくないんだろう?」

「ええ、まあ。本当に隠してくれますか?」

「約束をしよう。もし、エルーシアがこの国に居づらくなったら、フォンダーン王国に来ればいい」

「なるほど!  では、問題ないですね」

  私の言葉を聞くと、ディリック様はククッと笑っていた。
  ベルノーさんは、穏やかな顔でこちらを見ていた。

「これから、どうするのですか」

「そうだな……。エルーシアは、ライングドール王国が不思議にはまだ見えないだろう?」

「はい、私はこの国で育ちましたので。いきなり不思議と言われましても……」

  私はまだ、この国の事を不思議に思えなかったので、曖昧に返事をした。

「よし! フォンダーン王国に行くぞ」

「えっ、今からですか」

「早い方がいいだろう。ベルノーもそう思うよな」

「はい。来たばかりですが、エルーシア様にフォンダーン王国とライングドール王国の違いを理解していただくには、見せた方が早いと思います」

「よし、行くぞ」

「分かりました。それから、ベルノーさん。私に様は必用ありません」

「ですが……」

「今の私は家出中です。立派な庶民見習いです」

  ディリック様がまた、ククッと笑っていた。

「分かりました。では、エルーシアさんとお呼びします」

「ベルノーさん、ありがとうございます」

  ベルノーさんは、穏やかに笑った。
  私達は宿屋の外に出た。
  私の目の前には、二頭の馬がいる。

「馬車ではなくて、馬で行くのですか?」

「当たり前だろう。この国の人間は、馬車移動しかしないのか。それとも、女性だからか」

「いや、基本は馬車移動ですね。男女共に……」

「しかし、騎士は普段から馬移動だろう?」

「いえ、馬車で移動をする事が多いような……仕事中は、馬だと思いますが」

「この国の人間は、馬に乗れない人が多いのか?」

「いえ、兄は友人と遠乗りに出かけたりをするので乗れます」

「ふむ。やはり、戦争をしないと文化も変わるのだな」

  ディリック様はまた、考え込んでいた。

「まあいい。とにかく、出発をするか」

「私……馬に乗れないのですが」

「俺と一緒に乗ればいい。支えてやる」

「えっ」

  私はとっさにベルノーさんを見た。穏やかな顔をしている。そして、視線をディリック様に戻す。相変わらず目付きが鋭い。

「私、ベルノーさんと乗りたいです」

「ベルノーの方は、荷物が引っ掛けてある。エルーシアも乗ったら馬が可哀想だ」

「えっ……」

  私はベルノーさんの方を見た。穏やかな顔のままだ。
  ベルノーさんは、私の事を助けてくれなさそうだったので諦めた。

「ほら、早くしろ」

「よろしくお願いいたします」

  私は馬を跨いで座った。横乗りでもいいと言われたが、不安定そうで怖かった。
  ため息をついたディリック様が、店に寄ってズボンを買ってくれた。

「ディリック様ありがとうございます」

「たいした、金額ではないから気にするな」

  今の私は、ワンピースの下に男性用のズボンを履いている。中々気に入っている。
  馬に乗ると視線が高くなり、見える世界が違って見えた。ディリック様の前に座っているので視界も開けている。

「ふふ。楽しい!  馬に乗るってこんなに気持ちいいのですね」

「そうだな。町を抜けたら速く走るぞ、しっかり掴まっておけ」

「はい!」
 
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