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「でね。その後はアンドリュー様と踊ったわ」

「何?」

「ダンスの後にお話をしようと誘われたのだけど、そこにデュラン様が現れて助けていただいたの」

「そうか、デュランが」

「さっと現れてね。華麗に私とアンドリュー様を離して下さったのよ。あれ?」

「そうか、アネモネがアンドリュー様に何もされなくて良かった。どうかしたか?」

「アリスとオーウェン様の法則だと、私はデュラン様に恋をする事になるわね」

「何?  そんなの許さん!」

「だから、なんでロンの許可が必要なのよ……」

  ロンは机の上をうろちょろとし始めた。

「ロン?  おーい。聞こえていますか?」

「むう。とにかく、デュランはアネモネが思うような男じゃないんだ」

  おやおや、またその話ですか。

「はいはい。分かったわ。それにしばらくデュラン様とは会わない方が良いと思うの」

「うん。そうした方がいい。大した噂では無いが、デュランとは少し距離を置いた方が良いだろう」

「うん!  だから、レイラール領に帰ろうと思うんだけれど……ロンはどうする?」

「どうするも何も、俺はアネモネについて行くぞ!」

「そう。分かったわ」

「どのくらい居るのだ?」

「そうねー。ほうれん草祭の前後かな」

  ほうれん草祭とは、ほうれん草の収穫を祝う祭りだ。

「そうか。ほうれん草祭の時期か……」

  ロンは考え込んでいるのか、遠くを見つめた。

「ロンは、いつもは王都のほうれん草祭に参加をしているの?」

「ああ、王都のほうれん草祭にも参加をするが、マードック領とかぶった時は、マードック領のほうれん草祭が優先だ」

「そう」

  そうよね。セシルお兄様がレイラール領のほうれん草祭に出なかったらまずいものね。
  それと同じよね。

  レイラール伯爵家の夜会から数日、今はセシルお兄様と馬車に揺られている。
  家族四人で乗っても良かったが、長距離だったのでゆとりをもって二人ずつ乗っている。
  お父様とお母様は前を走る馬車に乗っている。

  私はセシルお兄様にアリスとオーウェン様の話をした。

「そうなのか!  アリス嬢に先を越されたな」

「むう。勝負なんてしていないもの」

「まあ、頑張って」

「セシルお兄様もね」

「ああ」

  セシルお兄様も私もモテないから大変だわ。

「チュー!」

  私の膝の上に乗っている籠からロンが顔を出した。
  ロンもセシルお兄様の事を応援しているのかしら?
  けれど、ロンもモテない仲間よね。ふふふ。
  だって、今だにネズミのままだもの。

  途中の町で宿に泊まり、やっとレイラール領に着いた。

「うわー、やっと着いたわ」

  久しぶりのレイラール領の屋敷は大きく見えた。
  中に入るとメイド達が出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。旦那様、奥様、お坊っちゃま、お嬢様」

「ただいま帰った」

  レイラール領の私の部屋の方が広くていいわね。
  メイド達はロンを見て驚いた顔をしていたが、王都の屋敷からついて来た、メイドのアリサの指示でロンはいつも通り快適に過ごせているようだ。
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