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15.あんた、なんかムカつく
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依頼先の村へと続く一本道。舗装もされておらず、土埃が風に舞うたび、セリアが鼻をひくつかせて顔をしかめた。
「はあ……この私が、こんな泥臭い道を歩かされる日が来るとはね」
「なら、来なきゃよかったんじゃないか?」
レンがぼそっと返すと、セリアはムッとした顔で睨み返してきた。
「勘違いしないでくれる? これは、私が“神の意思”に従って同行してやってるだけ。あんたのためじゃないんだから」
言葉に棘があるのはいつものことだが、それも今日までかもしれない。というのも——。
「ねえ、なんか、向こうから人が来るよ」
リズがそう言って指をさす。視線の先には、野営用の荷物を背負った少女がひとり、こちらへ歩いてきていた。黒い髪を後ろで結い、きびきびとした足取りで歩いてくる。目元はキリッとしていて、鋭い印象を受けた。
すれ違いざま、その少女がピタリと足を止めて、こちらを睨むように見上げてきた。
「ちょっと、あんたたち。まさか同じ依頼を受けてるわけじゃないよね?」
開口一番、喧嘩腰。
「いや……『魔物の掃討』の依頼だけど、もしかして君も?」
「はあ? まじで!? あーもう最悪!」
頭を抱える少女。後ろからメルがレンの耳元で小声で囁く。
「なんだか、あの方……すごく気が強そうですね……」
「見れば分かるよ」
レンがぼやくと、少女は腰に手を当ててこちらを睨んできた。
「私はアオイ。冒険者ランクはC。あんたたちみたいな野良集団と一緒にされる筋合いはないんだけど?」
「野良は言いすぎだろ……」
セリアがすぐに食ってかかる。
「この私を、何と心得る! 神殿に仕える神官だぞ?」
「ふーん。神様の名前でも言ってみたら? 私は聞く気ないけど」
容赦ないアオイの口ぶりに、セリアの眉が引きつった。レンが慌てて割って入る。
「まあまあ……とりあえず、依頼内容は同じなら、情報だけでも共有しないか?」
「ふん、まあ、最低限の協力はしてあげてもいいけど?」
口では高圧的だが、アオイはそれ以上の拒絶はせず、しぶしぶ歩調を合わせてきた。
その後、現場の村までの道中で、アオイが弓使いであること、過去に別の世界から転移してきたらしいことなどが、ぽつりぽつりと明かされた。
「異世界……?」
レンが思わず問い返すと、アオイは「あー、別にそんな珍しくないでしょ?」と一蹴した。
「よくある話。転生してきて、気がついたらこの世界だったってだけ。ま、運が悪かったねって話よ」
「……そっか」
レンは妙な胸騒ぎを覚えた。彼女の言葉の端々に、どこか“既視感”のようなものがあったのだ。でも、それが何なのかまでは分からなかった。
(……気のせいか)
無理やり思考を切り替える。隣では、アオイがまた誰かに喧嘩を売っていた。
「で、あんた。名前は?」
「レン」
「ふーん。なんか聞いたことあるような……いや、ないか。まあいいや、足引っ張んないでよ、レン」
どこか引っかかる言い回しだったが、アオイはそのまま歩き出してしまった。
(聞いたことあるような……か)
彼女も気づいてはいない。ただの偶然。——でも、それは本当に偶然だろうか?
そんな思いが、レンの胸の奥に、小さく残った。
アオイが先頭を歩きながら、ときおり後ろを振り返ってはレンを睨む。
「ねえ、レン。あんた、どこで剣習ったの? ちょっとはまともな腕前なら、まだ期待できるけど」
「特に習ってないよ。こっちに来てから独学で何とかしてるだけ」
「は? 独学? まじで言ってんの? この世界ナメてない?」
吐き捨てるように言われても、レンは肩をすくめて受け流す。アオイの態度はとにかく強気で、ちょっとの隙も見せようとしない。だが、その強気の裏に、何かを隠しているようにも見えた。
「お前こそ、どうなんだよ。元の世界じゃ剣とか弓とか使ってたのか?」
「まさか。私がそんなことしてるタイプに見える?」
「……いや、まあ、確かに」
「ふん。けど、こっちに来てからは死にたくなかったから、必死に覚えたってだけ」
そう言ったアオイの背中に、一瞬だけ、何か重たい影が差した気がした。
レンは何も言えず、そのまま歩を進めた。メルが後ろから、少し心配そうにレンの袖を引っ張る。
「レンさん、あの方……言葉はきついですけど、すごく必死な感じがします」
「ああ、分かってる。たぶん、いろいろあったんだろうな」
そうして三人が村の門にたどり着いたころには、すっかり夕日が落ち始めていた。
門番の男がこちらを見て首をかしげる。
「おや? 冒険者かい? もしかして、魔物退治の依頼で?」
「はい、ギルドから派遣されてきました」
レンが答えると、アオイがすかさず前に出た。
「こっちが先だから。私が代表で話すわ」
「はあ……じゃあ、よろしく」
「まったく、男ってのは使えないわね」
ぶつぶつ文句を言いながらも、アオイは門番から状況を手際よく聞き出していく。どうやらこの村では最近、夜になると周辺に正体不明の魔物が出没しているらしく、家畜がいなくなったり、畑が荒らされたりと被害が広がっているらしい。
説明を聞き終えたアオイは、レンたちのほうをちらりと見て言った。
「とりあえず、今日は宿に入って夜を待つしかないわね。出るのはいつも夜なんでしょ?」
「ああ。そいつらは夜になると……」
門番の声が消えていく中、レンはふとアオイの横顔を見る。その顔はもう、さっきまでの刺々しい態度とは打って変わって、まるで戦いに臨む戦士のような鋭さを持っていた。
(やっぱり女はよくわからん......)
レンはそう胸の奥で呟きながら、村の中へと足を踏み入れた。
──次回、魔物討伐の夜が始まる。
「はあ……この私が、こんな泥臭い道を歩かされる日が来るとはね」
「なら、来なきゃよかったんじゃないか?」
レンがぼそっと返すと、セリアはムッとした顔で睨み返してきた。
「勘違いしないでくれる? これは、私が“神の意思”に従って同行してやってるだけ。あんたのためじゃないんだから」
言葉に棘があるのはいつものことだが、それも今日までかもしれない。というのも——。
「ねえ、なんか、向こうから人が来るよ」
リズがそう言って指をさす。視線の先には、野営用の荷物を背負った少女がひとり、こちらへ歩いてきていた。黒い髪を後ろで結い、きびきびとした足取りで歩いてくる。目元はキリッとしていて、鋭い印象を受けた。
すれ違いざま、その少女がピタリと足を止めて、こちらを睨むように見上げてきた。
「ちょっと、あんたたち。まさか同じ依頼を受けてるわけじゃないよね?」
開口一番、喧嘩腰。
「いや……『魔物の掃討』の依頼だけど、もしかして君も?」
「はあ? まじで!? あーもう最悪!」
頭を抱える少女。後ろからメルがレンの耳元で小声で囁く。
「なんだか、あの方……すごく気が強そうですね……」
「見れば分かるよ」
レンがぼやくと、少女は腰に手を当ててこちらを睨んできた。
「私はアオイ。冒険者ランクはC。あんたたちみたいな野良集団と一緒にされる筋合いはないんだけど?」
「野良は言いすぎだろ……」
セリアがすぐに食ってかかる。
「この私を、何と心得る! 神殿に仕える神官だぞ?」
「ふーん。神様の名前でも言ってみたら? 私は聞く気ないけど」
容赦ないアオイの口ぶりに、セリアの眉が引きつった。レンが慌てて割って入る。
「まあまあ……とりあえず、依頼内容は同じなら、情報だけでも共有しないか?」
「ふん、まあ、最低限の協力はしてあげてもいいけど?」
口では高圧的だが、アオイはそれ以上の拒絶はせず、しぶしぶ歩調を合わせてきた。
その後、現場の村までの道中で、アオイが弓使いであること、過去に別の世界から転移してきたらしいことなどが、ぽつりぽつりと明かされた。
「異世界……?」
レンが思わず問い返すと、アオイは「あー、別にそんな珍しくないでしょ?」と一蹴した。
「よくある話。転生してきて、気がついたらこの世界だったってだけ。ま、運が悪かったねって話よ」
「……そっか」
レンは妙な胸騒ぎを覚えた。彼女の言葉の端々に、どこか“既視感”のようなものがあったのだ。でも、それが何なのかまでは分からなかった。
(……気のせいか)
無理やり思考を切り替える。隣では、アオイがまた誰かに喧嘩を売っていた。
「で、あんた。名前は?」
「レン」
「ふーん。なんか聞いたことあるような……いや、ないか。まあいいや、足引っ張んないでよ、レン」
どこか引っかかる言い回しだったが、アオイはそのまま歩き出してしまった。
(聞いたことあるような……か)
彼女も気づいてはいない。ただの偶然。——でも、それは本当に偶然だろうか?
そんな思いが、レンの胸の奥に、小さく残った。
アオイが先頭を歩きながら、ときおり後ろを振り返ってはレンを睨む。
「ねえ、レン。あんた、どこで剣習ったの? ちょっとはまともな腕前なら、まだ期待できるけど」
「特に習ってないよ。こっちに来てから独学で何とかしてるだけ」
「は? 独学? まじで言ってんの? この世界ナメてない?」
吐き捨てるように言われても、レンは肩をすくめて受け流す。アオイの態度はとにかく強気で、ちょっとの隙も見せようとしない。だが、その強気の裏に、何かを隠しているようにも見えた。
「お前こそ、どうなんだよ。元の世界じゃ剣とか弓とか使ってたのか?」
「まさか。私がそんなことしてるタイプに見える?」
「……いや、まあ、確かに」
「ふん。けど、こっちに来てからは死にたくなかったから、必死に覚えたってだけ」
そう言ったアオイの背中に、一瞬だけ、何か重たい影が差した気がした。
レンは何も言えず、そのまま歩を進めた。メルが後ろから、少し心配そうにレンの袖を引っ張る。
「レンさん、あの方……言葉はきついですけど、すごく必死な感じがします」
「ああ、分かってる。たぶん、いろいろあったんだろうな」
そうして三人が村の門にたどり着いたころには、すっかり夕日が落ち始めていた。
門番の男がこちらを見て首をかしげる。
「おや? 冒険者かい? もしかして、魔物退治の依頼で?」
「はい、ギルドから派遣されてきました」
レンが答えると、アオイがすかさず前に出た。
「こっちが先だから。私が代表で話すわ」
「はあ……じゃあ、よろしく」
「まったく、男ってのは使えないわね」
ぶつぶつ文句を言いながらも、アオイは門番から状況を手際よく聞き出していく。どうやらこの村では最近、夜になると周辺に正体不明の魔物が出没しているらしく、家畜がいなくなったり、畑が荒らされたりと被害が広がっているらしい。
説明を聞き終えたアオイは、レンたちのほうをちらりと見て言った。
「とりあえず、今日は宿に入って夜を待つしかないわね。出るのはいつも夜なんでしょ?」
「ああ。そいつらは夜になると……」
門番の声が消えていく中、レンはふとアオイの横顔を見る。その顔はもう、さっきまでの刺々しい態度とは打って変わって、まるで戦いに臨む戦士のような鋭さを持っていた。
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