稲荷詣で

斐川 帙

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四、二人連れの女性

(十五)

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 三人は店先の床几台に並んで腰を下ろした。メニューを見ると甘酒が目についたので、甘酒を三人分注文した。ソフトクリームとは違い、「米から作る甘い飲み物」という大分大雑把な説明をすると、イメージしやすかったのか、二人とも、すんなりと受け入れたようだ。
 甘酒が注がれた湯呑茶碗が三客、盆に載せられて運ばれてきた。妹は一客を取り、それを姉に手渡すと、自分のための一客を手に取った。芳野も一客、手に取って、一口飲んだ。トロっとした甘さが口の中に広がった。
 芳野は、一息ついた勢いで姉に話しかけてみた。
「お住まいは、この辺りなのですか?」
 姉は右隣に座っている妹に視線を投げた。どう答えたらいいか、問いかけているような感じがした。
 妹は、ちょっと驚いたのか、わずかに見える口元の表情に変化が見えた。姉は、静かに答えた。
綾小路あやのこうじ猪隈いのくまの辺りに。」
 綾小路猪隈の辺りと言われても、どの辺りかピンとこなかった。京都市街地の通りの名前を言っているのか?
「先程、お話されているのが耳に入ってしまったのですが、そちらの方は、あきおぎさんと言うお名前なのですね。」
「ええ、この子はあきおぎと呼んでおります。今年で十五になります。」
 芳野は、妹のことを、勝手に十二、三と思い込んでいたが、もう少し、年上だった。小柄なのもあるが、被衣かずきの陰から見える白塗りの顔が幼く見えてしまっていたせいかも知れなかった。

 妹の方が話しかけもしないのに勝手に話し始めた。
「あきおぎと申します。殿の姫君とは姉・妹の間柄となっておりますが、元は目代もくだいの娘でございまして、父を亡くしましたところ、先年、お情けをいただきまして、もったいなくも御妹として取られました。姫君は、女院の方よりお召しがあり、御所に参り、駿河少輔するがのしょうという名を賜ってお仕えしております。殿は美濃、駿河と上国じょうこくかみに任ぜられ、さきの院の御覚えもめでたく・・・」
 しゃべり過ぎていると思ったのか、姉が「控えなさい。」と軽く諫めた。
 しかし、芳野には話の半分以上が意味不明だった。まず、「目代」という言葉がわからなかった。その後の話も、登場人物の関係がはっきりせず、うすぼんやりとした理解だったが、文脈から推測するに、「殿の姫君」は姉を指しているようで、あきおぎと姉は、もとは姉妹ではなかったが、あきおぎが養子に取られて妹になったという風に聞こえる。そして、姉は、女院の侍女となって仕えるようになり、「するがのしょう」という名前で呼ばれている。「殿の姫君」と姉を呼んでいるのだから、「殿」と言うのは姉の実父で、その父は、美濃みの駿河するがの守を歴任、つまり美濃守みののかみとか駿河守するがのかみとかになっていたということなのだろう。「守」というのが何なのかは知っていた。今で言う都道府県知事みたいなものだ。「するがのしょう」の「するが」は駿河守の駿河のことかもしれない。そう言えば「駿河守為実の娘」と自称していた。ただ、「しょう」の方は何のことかわからなかった。
 芳野の理解は、この程度だった。だが、不明な点を問いただすのも気が引けたので、曖昧な理解のまま、やり過ごすことにした。
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