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五、深草別業
(十三)
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誰かが障子を開けて中に入ってきた。始めて見る男だったが、萎烏帽子に直垂の侍風情の男で高折敷を両手で捧げ持っていた。そして、何も言わずに高折敷を置いて出て行った。
高折敷の上には、ご飯とおかずが二品に羹の入ったお椀が一つ、調味料が入った小皿が二つ、手前には台(箸置き)が置いてあり、箸と匙(スプーン)が置いてあった。ご飯は山盛りの固粥で円筒状に固められていた。おかずは小魚の干物と大根の煮物であった。調味料は塩と醤が別々の小皿に一掴みずつ盛られていた。
固粥とは、炊いたご飯のことで現代のご飯と同じである。当時、普段は固粥を食べていたが饗応などの際は米を甑で蒸した強飯が供された。また、ご飯をよそるときは、ご飯を高盛りに盛り、箸置きに箸を置かない場合は、箸をご飯に斜めに差したりする。現代では、縁起が悪いと嫌がられるが、当時は普通のことだった。
芳野は早速食べてみたが、小魚の干物も大根の煮物も全く味付けされていなかった。純粋に素材の味しかしない。びっくりしたが、それで、わざわざ塩と醤が別に用意されていたのかと合点がいった。羹の方も味がしない。具として青菜が入っているようだが、青菜も味付けされていないので、煮た青菜を白湯に入れているだけという代物であった。これも、きっと、青菜を塩か醤に付けて食べるのであろう。しかし、おかずの量に比してご飯の量がやたらに多い。円筒状に固められているのも奇異な感じだ。芳野はかなり気になったものの、空腹だったので、ささとおなかにかきこんだ。
食べ終わった頃、丁度、計ったように先程の侍風情の男がやってきて食べ終わった高折敷を持って出て行った。それから、少しの時間を置いて、再び、男がやって来た。褥と衾を持って来たようだ。部屋の中に置くと、今度もさっさと出て行ってしまった。自分で敷くようだ。
芳野は褥を敷いて、その上に衾を広げると、とりあえず、部屋の外に出て、障子の前に座った。簀子に出ようかとも思ったが、勝手を知らない他人の屋敷なので、自由に徘徊することは遠慮しておこうと思ったものの、外で少し、頭を冷やしたくなってきた。そもそも、平安オタクの女性二人につかまって、ここまで連れてこられたのだが、やってきたところは、まさに平安時代の館である。ここまで手の込んだセットを作るなど、彼女等にできようはずがない。また、登場人物も完璧に平安時代人を演じきっているようだ。芳野は、現下の状況がどういうことなのか、全く呑み込めていなかった。芳野のような、この状況には、全く異質で浮いているはずの男が、周囲から驚かれることもなく、忌避されることもなく、受け入れられていることに違和感を覚えるし、そうなる理由もわからない。どこまで考えても疑問は解けそうにないので、夢を見ているということにして、考えることは放棄した。これからは要らぬ詮索はせず、流れるままに身を任せようと、改めて心に決めた。
高折敷の上には、ご飯とおかずが二品に羹の入ったお椀が一つ、調味料が入った小皿が二つ、手前には台(箸置き)が置いてあり、箸と匙(スプーン)が置いてあった。ご飯は山盛りの固粥で円筒状に固められていた。おかずは小魚の干物と大根の煮物であった。調味料は塩と醤が別々の小皿に一掴みずつ盛られていた。
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食べ終わった頃、丁度、計ったように先程の侍風情の男がやってきて食べ終わった高折敷を持って出て行った。それから、少しの時間を置いて、再び、男がやって来た。褥と衾を持って来たようだ。部屋の中に置くと、今度もさっさと出て行ってしまった。自分で敷くようだ。
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