稲荷詣で

斐川 帙

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七、三条烏丸の御所

(九)

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 東門から堀河小路に出ると、左に曲がって北上した。この屋敷を囲む塀は羽目板はめいたの板塀であった。
 駿河守邸の板塀を左にして歩いて行くとすぐに綾小路との交差点に入り、そこから一町ばかりまっすぐ進むと四条大路との交差点に着いた。綾小路を過ぎてからは、左側は築地塀ついじべいが続き、右側には堀川が流れていた。堀川を挟んで東側の堀河小路には、二門、四門の幅の板塀や、築地塀が断続的に続いていて、中規模、小規模の宅地が混在して建ち並んでいるようだった。

 今、板塀の幅を一門、二門と数えたが、この「門」と言うのは、平安京の一町を横に分割した区画の単位を指している。
 平安京は大路・小路で区切られた一区画をちょうと呼び、それを縦に四分割(四ぎょう)、横に八分割(八もん)して、(これを四行八門制と呼ぶが)、合計三十二分割した一区画を戸主へぬしと呼び、これが最小区画とされた。一町は百二十メートル四方だったので、一行は東西幅三十メートル、一門は南北幅十五メートルになっていた。
 一戸主が最小区画とされたので、宅地の売買や譲渡も、これを基本単位とした区画で行われるはずだったが、院政期頃の土地売券などを見ると、売買や譲渡が何回も繰り返された結果、敷地が細分化され、必ずしも戸主の単位にはなっていなかったようである。

 四条大路に着くと、右に曲がって堀川にかかる橋を渡って東に進んだ。この辺りは、棟割長屋むねわりながやのような、通りに直接戸口がある家が並び、庶民層が集住しているところのように感じた。家の前では子供たちが元気に駆け回っていた。

 網代壁が外壁の下半分を占め、上半分の半蔀はじとみが開けられて、中の住人が顔を出している家もあった。
 途中、窓から棚が出ていて棚の上に魚や野菜を陳列しているところもあって、八百屋や魚屋のようであった。
 網代壁ではなく板壁の家や柴垣の家もあった。しかし、どの家も屋根は全て板葺きで、板葺きの屋根の上に、横に角材や細い丸太が置かれて板が風に飛ばされるのを防いでいた。屋根の上に石が置かれている家もあった。

 通りには、頭に野菜の入った桶を乗せた販女ひさぎめや天秤棒を肩に担いだ行商の男が歩いていた。僧侶の一行とすれ違ったり、数人の官人に供奉された牛車が過ぎて行った。壺装束の女性の二人連れが歩いていたり、狩衣に烏帽子の男たちが騎馬で過ぎていくのも見た。
 野菜の入った籠を抱えた小袖にしびらを巻いた中年女性とすれ違った。

 四条大路はさまざまな階層の人々が行き交い、意外に人通りが多かった。

 四条大路を四町ほど進んだところで、左に曲がって、室町小路に入って、三条大路を過ぎるまで北上すると、右側は、はるか先まで築地塀が延々と続いているところに差し掛かった。築地塀は、漆喰もきれいに塗られて、破れているところは見当たらず、管理は行き届いているように見えた。かなり高位の人物の屋敷に感じた。
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