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七、三条烏丸の御所
(二十八)
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なかなか良案が思い浮かばず、到頭、匙を投げたのか、長刀の男は、
「姫君を救いに中に入れてくれるよう掛け合ってみるか?」と冗談めかしく口にした。
「誰に?」
「あの武者どもに。」
こんな状況で軽口を叩く男に呆れたのか、三郎は、吐き捨てるように言った。
「馬鹿言うな。入道殿を見つけようと殺気立ってる連中に、そんな話が通用すると思うか?疑われて打ち殺されるぞ。」
長刀の男は、苦笑いして、「まあ、そうだろうな。」と応えた。
少し間を置いて、長刀の男は落ち着いた口調で独り言を言うように「しかし、今すぐ何とかしないとまずい。」と口にした。それが聞こえた三郎は、「それは言われなくともわかってる。」とキレ気味に反応して眉間にしわを寄せた。
この時、西門を固めていた武者たちが急にそわそわし出して、怒鳴り声がかすかに聞こえたかと思うと、一斉に、門前から南に三条大路の方へ走って来るように見えた。
急にこちらに向かってきたので、焦った芳野らは、小径の奥に逃げて、やり過ごした。
実は、この火災は、愚管抄や百練抄などが記しているように左馬頭の軍勢が火を掛けたのではなく、屋敷内に突入した武者たちに慌てふためいた院庁の官人や女房たちが起こした失火と言う説もある。真偽のほどはわからないが、恐らく本当のところは、院と女院をお遷し参らせた後、御所に火を懸け、信西等を焼き殺すか、逃げてきたところを捕縛、あるいは討ち取るという計画だったのだが、連携がうまく行かず、院と女院を遷幸させる前に御所に火を懸けてしまったというところであろう。
いずれにしろ、この火災によって、御所を包囲していた左馬頭の軍兵たちは慌てたようだ。と言うのも、まだ、御所には院や女院がおり、その御身に危険が及ぶことは彼らの望むところではなかった。彼らの標的はあくまでも信西とその子息等であった。
そして、このとき、この御所にいた伏見源中納言は、火が上がったのを見て、急いで車を東中門に寄せ、後白河院と上西門院を乗せて御所から脱出させようとした。そして、諸門を固めていた武者たちに呼集をかけ、急遽、院と女院の乗られるお車の守護をさせた。そのため、車が出る東門以外の諸門を固めていた武者たちは急にいなくなったのだ。
ちなみに、このとき、信西の妻、紀伊二位は女院の御側近くに仕えていたらしいが、小柄な女性だったため、女院の裾に隠れて同乗に成功し、三条烏丸殿からの脱出に成功したと、愚管抄には書かれている。
「姫君を救いに中に入れてくれるよう掛け合ってみるか?」と冗談めかしく口にした。
「誰に?」
「あの武者どもに。」
こんな状況で軽口を叩く男に呆れたのか、三郎は、吐き捨てるように言った。
「馬鹿言うな。入道殿を見つけようと殺気立ってる連中に、そんな話が通用すると思うか?疑われて打ち殺されるぞ。」
長刀の男は、苦笑いして、「まあ、そうだろうな。」と応えた。
少し間を置いて、長刀の男は落ち着いた口調で独り言を言うように「しかし、今すぐ何とかしないとまずい。」と口にした。それが聞こえた三郎は、「それは言われなくともわかってる。」とキレ気味に反応して眉間にしわを寄せた。
この時、西門を固めていた武者たちが急にそわそわし出して、怒鳴り声がかすかに聞こえたかと思うと、一斉に、門前から南に三条大路の方へ走って来るように見えた。
急にこちらに向かってきたので、焦った芳野らは、小径の奥に逃げて、やり過ごした。
実は、この火災は、愚管抄や百練抄などが記しているように左馬頭の軍勢が火を掛けたのではなく、屋敷内に突入した武者たちに慌てふためいた院庁の官人や女房たちが起こした失火と言う説もある。真偽のほどはわからないが、恐らく本当のところは、院と女院をお遷し参らせた後、御所に火を懸け、信西等を焼き殺すか、逃げてきたところを捕縛、あるいは討ち取るという計画だったのだが、連携がうまく行かず、院と女院を遷幸させる前に御所に火を懸けてしまったというところであろう。
いずれにしろ、この火災によって、御所を包囲していた左馬頭の軍兵たちは慌てたようだ。と言うのも、まだ、御所には院や女院がおり、その御身に危険が及ぶことは彼らの望むところではなかった。彼らの標的はあくまでも信西とその子息等であった。
そして、このとき、この御所にいた伏見源中納言は、火が上がったのを見て、急いで車を東中門に寄せ、後白河院と上西門院を乗せて御所から脱出させようとした。そして、諸門を固めていた武者たちに呼集をかけ、急遽、院と女院の乗られるお車の守護をさせた。そのため、車が出る東門以外の諸門を固めていた武者たちは急にいなくなったのだ。
ちなみに、このとき、信西の妻、紀伊二位は女院の御側近くに仕えていたらしいが、小柄な女性だったため、女院の裾に隠れて同乗に成功し、三条烏丸殿からの脱出に成功したと、愚管抄には書かれている。
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