稲荷詣で

斐川 帙

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八、現実世界

(七)

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 迷ったが、東寺に行くことにした。
 前回、京都に来た時、東本願寺は訪れていた。駅の近くで塔のある大きな寺にしようと思い、東寺に行くことに決めた。ただ、京都駅の北側に出てしまったので、少々の回り道を強いられることになった。京都タワーを前にして左に向かい塩小路通を西に向かって、国道一号に当たって左に折れ、南下した。何本もの線路の下を数回くぐって、更に行くと、やがて伏見稲荷御旅所が右手に見えてきた。芳野は御旅所と言う場所がどういう場所か知らなかったので、伏見稲荷大社の末社みたいなものなのかなと思いながら横を通り過ぎた。しばらく歩くと、東寺通りに当たった。右に折れてこの通りに入れば東寺に着きそうだと思い、東寺通りに入って東に進んだ。
 瓦葺の屋根を持つ大きな門が見えてきた。門の左側には瓦葺の築地塀がはるか遠くまで伸びていて、大きな木立の上から五重塔が顔を出していた。ここが東寺だと芳野は思った。青信号になるのを待って横断歩道を渡り、門から境内に入った。

 この門は慶賀門と呼ばれていて、これを入って食堂じきどうの前まで進んだ。
 食堂は、言葉通り、本来は僧侶が食事をする堂舎であったが、今では、ここは食事をする場ではなく、堂内には納経所が設けられ、本尊として十一面観音が祀られていて、京都市内三十三か所を巡る觀音巡礼では二十三番札所に定められているそうだ。そもそも仏教では食事も修行の一つだったので、東寺の食堂じきどうもただの食堂しょくどうではなく、建立当初から本尊としてたけ二丈(六メートル)の千手観音が祀られていたそうである。

 芳野は、脇にある手水舎ちょうずやで手を清めて、食堂の前を通り過ぎると、ここから先は拝観料が必要だった。

 受付で拝観料を払うと中に入った。この先は金堂、講堂、五重塔がある。
 食堂は素通りしたので、講堂は入ってみることにした。

 講堂の中に入ってみると、薄暗く、しかし、多数の仏像が居並ぶ圧巻の光景が待っていた。
 中央には五智如来と呼ばれる五体の如来像、右には五大菩薩と呼ばれる五体の菩薩像、左には五大明王と呼ばれる五体の明王像、須弥壇しゅみだんの周囲には計六体の天王てんのう像が取り囲んでいる。五智如来の中心には諸仏の本地ほんじである大日如来が鎮座している。これらの合計二十一体の仏像群は羯磨曼荼羅かつままんだらと呼ばれ、曼荼羅を仏像で表現したものであることから立体曼荼羅とも呼ばれているそうだ。実に壮観で圧倒的な仏像群である。芳野は、暫く、その場に立ち尽くして見惚みとれていた。
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