稲荷詣で

斐川 帙

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八、現実世界

(八)

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 講堂を出ると、次は金堂に入った。
 ここには薬師三尊像が鎮座していた。
 薬師三尊像とは、中央に薬師如来像、脇侍わきじとして、向かって右側に日光菩薩像、左側に月光がっこう菩薩像が配される三尊形式である。なぜ、薬師如来、日光菩薩、月光菩薩の組合せなのかと言えば、薬師瑠璃光如来本願功徳経やくしるりこうにょらいほんがんくどくきょう(薬師経)に、薬師如来のおられる東方浄瑠璃世界には日光遍照へんじょう、月光遍照の二尊の菩薩がおられると書かれているからである。これは、「日光があまねく照らす」、「月光が遍く照らす」と言う意味で、すなわち薬師如来の瑠璃光が昼夜関係なく常に照らしていることを表象している。
 ちなみに薬師如来の正式名称は薬師瑠璃光如来である。

 薬師三尊の中央に鎮座する薬師如来像の光背こうはいには七体の化仏けぶつが浮遊し、台座には十二神将が彫られていた。七体の化仏は、薬師瑠璃光七仏本願功徳経やくしるりこうしちぶつほんがんくどくきょう(七仏薬師経)に書かれている、薬師如来を主体とした七尊の如来を表しているのであろう。
 これもまた、見事な仏像であった。芳野は、薬師三尊像を眺めているうちに、自然と薬師如来像の前に立ち、静かに合掌していた。

 五重塔は中に入れなかったので、近くに行って、見上げるだけだった。

 この五重塔の内部には、心柱を大日如来に見立て、それを囲むように四尊の如来像と八尊の菩薩像が安置されているそうである。通常は非公開で、特別公開の会期中のみ、塔の初層に入れるとのことだ。
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