稲荷詣で

斐川 帙

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八、現実世界

(九)

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 時計を見ると十六時半を回っていた。五重塔から離れ、南大門から九条通りに出た。九条通りを東にまっすぐ進み、烏丸通と交差するところで、左に曲がって、北上した。京都駅にはニ十分ほどで着いた。

 駅に入ると、新幹線改札口を通って、とりあえず待合室に入り、新幹線が出発するまでの時間を潰した。その間に駅弁を購入して、夕食を車内で取ることにした。指定席は、終点の東京駅まで乗って行くので、窓際の席にした。

 出発の時刻が近づいてきたので、新幹線ホームに上がり、待ち行列に並んだ。並ぶとまもなく、乗車する新幹線が入線して来た。
 ドアが開いたので、順番に乗り込み、チケットを取った指定席を探した、二列席側の窓際だったが、傍まで来て見ると、通路側の席は空いていた。これから乗り込んでくるのか、次の停車駅である名古屋で乗り込んでくるのか、わからなかったが、このまま空席だったらいいなと密かに望んだ。

 窓際の席に着くと、すぐにテーブルを下ろして、駅弁を広げて食べ始めた。新幹線はゆっくりと静かに動き始めた。
 名古屋に着くくらいには駅弁は食べ終えていて、テーブルをしまい、窓枠に頬杖をついて、寝る体勢になっていた。列車は名古屋駅を出たが、しばらくして、誰かが隣の空席に座って来た気配を感じた。ちらっと確認すると、二十代の女子大生風の女性だった。隣に若い女性が一人で座ってくるのは珍しいなと思い、再び寝ることにした。新横浜までは停車しないし、窓際の席なので、隣席の人が通れるように席を立ったり体をよじることもないから、気兼ねなく眠れる。

 小田原をたった今通過したと言う車内アナウンスが流れた。そろそろだと芳野は思って、目を開けた。そして、窓外の風景を眺めながら東京駅到着までの時間を潰すことにした。
 新横浜に停車したのち、東京駅に到着した。前の年に開業していた品川駅は通過していた。
 東京駅から在来線に乗り換えて、最寄り駅に到着した。

 一時は、帰国予定日までに自宅に戻れるか不安にさいなまれたことが嘘のように、あっさりと無事に帰宅することができて、ほっとした。これで、予定通り、一時帰国を終えて、米国に戻れる。本心を言えば、あまり、戻りたくはないのだが、まだ、米国での作業が残っているので、戻らないわけには行かない。
 伏見稲荷大社でも確認したが、今改めて腕時計の日付表示を見ると、やはり三月十一日(木)になっていた。成田発サンフランシスコ行きのチケットは、土曜発着のものになっているので、今日と明日で二日間の余裕がある。十分、米国に戻る準備ができる。
 最寄り駅まで着いたことで、自宅に戻れることが確定して、更に米国に予定通り戻れることも確定したのだ。

 最寄り駅の改札を抜けると、自宅まで歩いた。最寄駅から自宅までは歩いて五分ほどの至近の距離だ。
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