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八、現実世界
(十)
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自宅に着いた。
自宅は、マンションの二階にあった。リュックから鍵を取り出して、玄関のドアを開けると、部屋の中は明るかった。部屋を出る時、明かりは消した記憶があったが、消し忘れたのか。
部屋に上がると、きれいに整理整頓されていて、掃除もされている。一人住まいなので、普段は散らかしっ放しで、ごみも散乱しているような汚い部屋だったのに、部屋を間違えたかと思うくらい、きれいになっていた。自分の部屋かどうか、もう一度玄関のドアを開けて部屋番号を確認した。確かに自分の部屋だった。
気色悪いくらいの違和感を覚えた。誰かが来ているのか?そう思うと嫌悪感と恐怖心が湧いてきた。芳野は身構えた。
足音を立てないように抜き足差し足でゆっくりキッチンの前を抜けて、居間へ抜けるガラス戸をそっと開けた。そこには、床の上にあきおぎと赤ん坊を胸に抱いた女性が並んで座っていた。あきおぎは袿姿でもう一人の女性は小袖姿である。
あきおぎの隣の女性はどこかで見た女性だった。伏見稲荷大社の神楽殿であきおぎと一緒にいた女性だ。あきおぎによれば『乳母』の女性である。
あきおぎは、ガラス戸をそっと開けて顔を出した芳野に気づき、蝙蝠扇で口元を隠しながら、にっこり微笑んだ。
「お待ち申し上げておりました。」
そう言って、あきおぎは乳母の抱く赤ん坊に目を遣った。芳野は、そのあきおぎの仕草に何か意味があることを感じた。
「その子はあきおぎの子なのかい?」
あきおぎは「ええ。」と肯定した。すると乳母が、芳野に向かってにこにこしながら、
「お子様です。」と言った。
唐突なセリフに、芳野は、困惑して、思わず、「誰の?」と喉元まで出かかったが、しかし、彼女の視線は芳野に注がれていたので、それは、つまり、「あなたの子」だと言いたいのかと理解した。しかし、言葉に出して確かめることはしなかった。
芳野は椅子に座り、これからどうしようと途方に暮れた。彼女等は、このまま、ここにずっと居座るつもりなのだろうか?
「いつまで、ここにいる予定なの?」と聞くと、あきおぎは微笑して、目を伏せた。芳野には、その仕草が「ずっといる。」と返答しているように感じた。六畳二間のマンションに二人の女性と一人の赤ん坊との四人暮らしである。ずっと独身で一人暮らしだった芳野には、四人暮らしの生活は想像がつかなかったし、窮屈な感じがした。そもそも、こんな服装の二人に、ここで生活ができるのだろうか?
「ご心配はご無用です。大丈夫ですので。」と、聞かれてもいないのに乳母の女性が喋った。
「私がお世話いたしますので。お任せください。」
芳野は、頷くしかなかった。
自宅は、マンションの二階にあった。リュックから鍵を取り出して、玄関のドアを開けると、部屋の中は明るかった。部屋を出る時、明かりは消した記憶があったが、消し忘れたのか。
部屋に上がると、きれいに整理整頓されていて、掃除もされている。一人住まいなので、普段は散らかしっ放しで、ごみも散乱しているような汚い部屋だったのに、部屋を間違えたかと思うくらい、きれいになっていた。自分の部屋かどうか、もう一度玄関のドアを開けて部屋番号を確認した。確かに自分の部屋だった。
気色悪いくらいの違和感を覚えた。誰かが来ているのか?そう思うと嫌悪感と恐怖心が湧いてきた。芳野は身構えた。
足音を立てないように抜き足差し足でゆっくりキッチンの前を抜けて、居間へ抜けるガラス戸をそっと開けた。そこには、床の上にあきおぎと赤ん坊を胸に抱いた女性が並んで座っていた。あきおぎは袿姿でもう一人の女性は小袖姿である。
あきおぎの隣の女性はどこかで見た女性だった。伏見稲荷大社の神楽殿であきおぎと一緒にいた女性だ。あきおぎによれば『乳母』の女性である。
あきおぎは、ガラス戸をそっと開けて顔を出した芳野に気づき、蝙蝠扇で口元を隠しながら、にっこり微笑んだ。
「お待ち申し上げておりました。」
そう言って、あきおぎは乳母の抱く赤ん坊に目を遣った。芳野は、そのあきおぎの仕草に何か意味があることを感じた。
「その子はあきおぎの子なのかい?」
あきおぎは「ええ。」と肯定した。すると乳母が、芳野に向かってにこにこしながら、
「お子様です。」と言った。
唐突なセリフに、芳野は、困惑して、思わず、「誰の?」と喉元まで出かかったが、しかし、彼女の視線は芳野に注がれていたので、それは、つまり、「あなたの子」だと言いたいのかと理解した。しかし、言葉に出して確かめることはしなかった。
芳野は椅子に座り、これからどうしようと途方に暮れた。彼女等は、このまま、ここにずっと居座るつもりなのだろうか?
「いつまで、ここにいる予定なの?」と聞くと、あきおぎは微笑して、目を伏せた。芳野には、その仕草が「ずっといる。」と返答しているように感じた。六畳二間のマンションに二人の女性と一人の赤ん坊との四人暮らしである。ずっと独身で一人暮らしだった芳野には、四人暮らしの生活は想像がつかなかったし、窮屈な感じがした。そもそも、こんな服装の二人に、ここで生活ができるのだろうか?
「ご心配はご無用です。大丈夫ですので。」と、聞かれてもいないのに乳母の女性が喋った。
「私がお世話いたしますので。お任せください。」
芳野は、頷くしかなかった。
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