つばき

斐川 帙

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一、鮫洲八幡

(四)

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 悟は席を立った。そして一階までエレベータで下りると、通用口から、ビルの外へ出た。もわっとした湿った生暖かい外気が肌を包んだ。
 このビルの周辺には公園があるくらいで他に気分転換できそうなところはない。とりあえず、公園に向かった。しかし、公園は交差点のはす向かいにあるため、横断歩道を二度渡らないと行けない。二度目の信号待ちをしているとき、悟は面倒になって、道路を渡らずにそのまま、鮫洲の方角に歩く事にした。行く当てはなかった。とりあえず、旧東海道沿いに連なる鮫洲の商店街に向かった。そこは、小さな個人商店が軒を連ねる文字通り駅前の商店街で、とりたてて気分転換のために時間をつぶせるところはない。悟は、鮫洲駅前に向かいながら、鮫洲から青物横丁の駅前まで散策して終わりにしようかと考えた。ただ、歩いているだけでもなにかしら発見はあるものだ。路傍にさりげなく立っているパネルに付近の歴史や由緒が書いてあったり、路地裏にひっそりと古い寺社仏閣が建っていたりする。
 悟は、旧東海道に出たとき、ふと、この付近に神社があることを思い出した。先週、昼食を取った後、この付近を歩いていて見つけたのだ。ネットで調べてみると、鮫洲が漁村だった江戸時代の頃、付近の漁民が漁の安全を祈願するために勧請した八幡神社だそうである。悟は、この神社に寄ってみることにした。
 神社は、旧東海道から陸地側に隣接して建っている。参道の入り口は目立たないところにあり、境内もそれほど広くない。ただ、向かって左側に小島が浮かぶ池があったのを覚えていた。池の中の小島には、二つの小さな社が建っていた。しかし、小島にかかる橋の入り口には、フェンスの門塀があり、前回、訪れたときは鍵が閉まっていて入れなかった。そのため、その社がどういう神様を祭っている社なのかはわからず仕舞いだった。その後、もう一回、訪れた事があったが、そのときも扉には鍵が閉まっていた。もしかしたら、祭礼など特別な行事があるときにしか、足を踏み入れる事のできない聖域なのかもしれなかった。
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